ホ タ ル  


    高倉健と田中裕子の邦画では久しぶりにいい映画をみせてもらった。
 鹿児島の海で寄り添いながら、互いに癒しきれない過去を背負った一組の夫
婦がいる。
 桜島のすぐ下の海でカンパチのいけすに餌を与えている男、山岡秀治(高倉
健)。そばでそれを見守る妻の知子(田中裕子)。山岡は14年前から肝臓を患い
透析を続けている知子のために沖合いでの漁師を辞めて養殖事業をはじめて
いる。
 天皇陛下が崩御し昭和が平成になったとき、山岡のもとに藤枝という男が青
森の冬山で亡くなったと知らせが来る。二人は青森の田舎の村まで葬儀に行
く。自殺であった。
 山岡は22歳のとき、特攻隊員として最後の出撃地鹿児島の知覧にいた。若
い命が重い爆弾を抱えて永遠に帰れない片道飛行に飛び立つなかで、役目を
果たせず帰った男達もいた。山岡も藤枝も「明日はきっと俺が・・・」と再度の出
撃を待っていて終戦を迎えた戦友であった。
 藤枝は一人生き残ったことを悔やみ死を決意するが、出撃前の隊員から「知
覧の母」と慕われた「富屋食堂」の富子(奈良岡朋子)から、「生きて遺族を尋ね
死んだ隊員の供養をすることがあなたの務め」と諭されて、遺族の家を訪ね歩
いて生きてきた男であった。藤岡は自殺するわずか1ヶ月前、孫娘真美を連れ
て青森から鹿児島の知覧へ来て、富屋食堂の富子と会ったが、毎年冬になる
と美味しいりんごを送ってくれる彼が、会わずに帰った想いを山岡は痛いほど知
っていた。そんな藤枝が昭和の終わりを自分自身の終わりとした。
 山岡はある日富子から頼まれる「体が不自由になった自分に代わって韓国へ
いってほしい。」日本兵として南の海に散った山岡の戦友、金山少尉は本名キ
ム・ソンジュ、山岡の妻、知子の初恋の相手で結婚を約束した男であった。富子
に金山は出撃の時故郷のお面飾りのついた財布を渡した。知子は金山の出撃
の日、飛行場に駆けつけたが一足違いで会うことが出来ず失意の日々を送っ
ていた。
そんな知子の心を癒してくれたのが山岡だった。
 金山は出撃の前の晩富屋食堂に来て、富子に「・・日後、この時間にホタルに
なって帰ってくる。ホタルを見たら僕だと思ってくれ」と告げた。彼の言った時間
に一匹のホタルが食堂に迷い込む、「金山が約束どうり帰ってきた」
 山岡も金山から預かったものがあった。「愛する知子と韓国にいる遺族に当て
た最後の言葉」だった。特攻隊員が次に死んでいく特攻に託す伝わるはずの無
い言葉。それは今もまだ山岡の胸の奥にある、だが妻となった知子にも話して
いない。
 容態が次第に悪化している知子が身の回りを整理していることを山岡は偶然
知る。藤枝が自殺する前に山岡に書き残したノートを孫娘真美が届けてくれる。
飛び立つ前に見せた金山の笑顔。・・・・・・いくつもの思いを胸に山岡は男とし
て夫として、知子に韓国行きを伝える。
「二人でひとつの命じゃろうが、違うんか!」。
 金山少尉の遺族は金山が日本軍にだませれて死んだと思っており、山岡を
追い返そうとする。山岡は誠意をもって、金山少尉の最後の言葉「私は朝鮮民
族のために朝鮮民族の誇りをもって死ぬのです」と言ったことや、妻知子が金
山の婚約者であり、知子に伝えて欲しいと頼まれた愛の言葉、遺品を返しに来
たことなど伝える。男の誠意と勇気とけじめを認め、家の中に一族みんなで迎
え入れてくれる。そこに一匹のホタルが飛んでくる。最後は感動することの多い
作品でした。 
        終わり    H13.06.
                                      

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