![]() ![]() ![]() 1961年、長野県の松本深志高校に迷い込み、住み着いた野良犬が12年間の生涯をほとんど学校で過ごした。 職員名簿にも記載されたクロの死が伝わると何千人もの人々が葬儀に集まった。 葬儀は学校葬として校長が弔辞を読んだ。 4800人もの生徒がクロと青春を過ごした。 この実話をベースに松岡錠司監督が映画化した。
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【キャスト】
木村亮介 (妻夫木聡) 孝ニの親友で共に雪子に恋心をもつ主人公。 後に東京に出て獣医となる。
五十嵐雪子(伊藤歩) 亮介と同級生で後に役場の職員になる。
神戸孝ニ (新井浩文) 雪子に恋心を告白する同級生。 バイクによる事故を起こし死亡する。
大河内徳次郎(井川比佐志) 秋津高校の用務員。10余年間クロの世話をする。
草間敏 (塩見三省) 犬の嫌いな数学の教師、後に教頭になる。
花園修造(柄本明) 町の獣医。クロの手術をする。
牧野校長(渡辺美佐子)クロの葬儀の際に弔辞を読む。
斎藤 守(佐藤隆太) 西郷どんの役をくじ引きでやることになっていた、亮介の同級生。
横川町子(三輪明日美) 手作りの張りぼて犬を作ってくれる同級生。
三枝昭吾(田辺誠一) 秋津高校の若い教員。
森下賢治(金井勇太) 進学を諦め、喧嘩、かつあげ、をしている生徒。
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【ストーリー】
長野県松本市の外れ、山里の農家の庭先で全身が黒い子犬が少女と戯れている。 「チリン・・チリン」赤い紐に鈴がついた髪飾りに子犬がじゃれる。 そばで父親が斧を振り上げて薪ワリをしている。 少女が手を洗い縁側に行き腰をかける。 子犬は縁の下に入り、少女が「クロ・・クロ!」と呼んでいる。 のどかな農家の午後。
少女が学校から帰る「ただいま・・クロおいで・・」。 成犬になった「クロ」が駆け寄ってくる。 庭先に三輪トラックがやってくる。 家財道具が積み込まれ、後ろを振り向きながら「クロ」の姿を探す少女を母親がトラックに乗るよう急がせる。 家財を満載した三輪車が遠ざかる。 置き去りにされた子犬が家の中への入り口を探して庭をうろうろするが、戸がかたく閉められて人の気配は無い。犬は諦めてやがて山道をとぼとぼと去って行く。
疲れた身体を投げ出すように道端で休んでいる「黒い野良犬」を、高校への通学途中の亮介が見つけて弁当を分け与えてやる。 「お前何処から来たんだ・・」 同級生の孝ニが見つけて「木村!・・今日は遅れるとやばいぜ」と声をかけて通り過ぎる。 「じゃあな!」学校に急ぐ亮介の後をとぼとぼと「野良犬」が付いて行く。 学校の正門の前まで来て腰をおろし中をうかがう「クロ」の姿があった。
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高校生活最後の学園祭の出し物に、亮介達3年6組は偉人の仮想行列を出すことにしトリは西郷隆盛と決めた。 今日は学園祭の日、仮想行列の準備が始まって組み立てをしている校庭に「野良犬」がやってくる。
西郷どんの役の守は「いいよな、お前等は外人で・・何とかしてよ、この格好!」とゆかたの着物を恥ずかしがる。 だが「しかたないだろ・・くじ引きできめたんだから・・」といわれる。 町子が「お待たせ」と手造りのはりぼての犬を持ってくる。 「西郷さん横川が作ったはりぼての犬だよ」。 はりぼてを見た守は「ちゃんと写真見たのかよ・・」 「仕方がないでしょ・・くじ引きで私が担当になったんだから・・・」と町子がすねる。 「最後の出番よ・・みんな準備いい・・」雪子が知らせに来る。 3年4組の「西遊記」が出番となってグラウンドに出る。 「運の悪い人は安心せよ・・・それ以上の悪運は無いのだから・・・オービック」なんて「ガンジー役」のクラスメイトが練習をしている。
亮介が廊下を歩いている。そこに黒い野良犬が付いて来る。 亮介は野良犬に「お前来ちゃったのか・・・今忙しいので相手してられないぞ・・」という。 教室に雪子が「みんな早くして・・」と出番を告げに来たとき、町子が守を見ながら言う「この二人ふざけながら階段を下りていて、つまずいてふんずけチャッタの・・」。 張りぼての犬がつぶれてしまっている。 唖然とする生徒達。「しょうがない、西郷どんはやめだ・・犬なしじゃさまにならないだろ」。 そこに亮介がやってくる、例の黒い野良犬が後から付いてきて彼の隣にちょこんと座る。 事情を知らない亮介が「どうしたんだよ出番次だぜ・・俺たちトリなんだからさ・・」という。 雪子が「あッ・・・」と言って野良犬に気がつく、しかし守は「実は俺、犬は苦手なんだ」と謝っている。 校庭の方からガンジーの仮想に歓声が上がる。 「最後の出し物です」とアナウンスされて出てくるのは西郷隆盛。 代役の亮介が手押しの車の上に乗って、本物の犬を従えて、紙で造ったかつらに浴衣姿の西郷どんは人気を博した。 アナウンス係りが紹介する「1897年、薩摩の西郷隆盛は、次第に頭角をあらわし坂本竜馬の・・・普段の西郷隆盛は大変な犬好きで、地元鹿児島では数多くの犬を飼っており、・・・鹿児島の農民が飼っていたものを、貰い受けたと言われています」
客席からは「がんばれ」「似合ってるぜ」との野次と歓声の中を、守の代役を務めた亮介が校庭を一周する。 拍手で迎えられる中を亮介は戻ってきた。 そこに「野良犬」がやってくる。 「ほんとこの子のお陰で助かったよね・・」 「かしこいよね」 「これからどうするのかな」 「おい・・暫らくここにいろよ」 「そんな無責任なこと言って餌とかどうするの?・・」 「おまえんちの店のコロッケ盗んでこいよ」 「宮本君お金払ってくれるの?・・」 「クロ今日は本当にありがとう」 「なにクロって?・・」 「だって名前つけなきゃ、しょうがないでしょ・・ねェ、クロ」
![]() ![]() 校庭では仮想に使った木や紙を燃やしてキャンプファイヤーが始まった。 生徒が輪になって歌を唄った。 少し離れて「クロ」が見ていた。
教室で草間先生が数学の授業中で、黒板に向かって数式を書いている。 教室の後ろの戸を開けてクロが入ってくるが誰も気が付かない。 先生が「Y+Aの4乗-A-2=X-Aということに成るで・・ 」と講義している足元にクロが行く。 犬が恐い先生は逃げながら「やはりまだいたのか・・・いかんぞ、伝染病の危険・・・」 犬嫌いを生徒に茶化され、先生は顔を真っ赤にして起こる。 生徒が「草間先生!」と呼ぶと「今、貴様といったか?・・わしは草間だ」 「この犬はクロと言いまして、今まで何の問題も起こしてないんです。"動物は気持ちの良い友達である、彼等は質問もしなければ批判もしない”といいます。 ここは一つ穏便に」 守も「僕もこいつのお陰で犬嫌いが治りそうなんです。先生もだまされたと思ってこの犬とつきあってみたらどうですかね。」と言う。 終業のベルが鳴り、草間先生は「今後こういう事態はいかん」と言って部屋を出る。
クロが校庭で遊びながら草を食べている。 それを見て三枝先生が「そんな草を食べてだいじょうぶか?・・」と言う。 用務員の大河内が「三枝先生、犬に話し掛けたって通じないですよ・・解毒剤みたいなもんですよ。先生は犬を飼ったことが無いですか?」と聞く。
大河内が部屋に帰り、一人台所で食事の準備をしていると、入り口の引き戸に何か触るような物音がする。 戸を開けるとクロがいて部屋に入ってくる。 大河内が夜の巡回に出ると一緒について来て暗い廊下を先導する。
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朝、草間先生が教室に行こうとすると廊下にクロがいる。 後ろ向きになって廊下の端を通り抜けようとしたがクロに吠えられる。 職員室に戻ってきた草間先生が「もう、我慢できない・・あの馬鹿犬は好き勝手に教室に入ってきて授業を妨害し、生徒の注意力を低下させる。 吠えて時々我々を威嚇する。野良犬に何の注意も払わずに放っておくなんて、前代未聞でしょ」と一人喚く。 「三枝先生はやはり邪魔ですか?」 「とりたてて害は無いのですが・・・はい」 「わしだけが被害に遭って大げさにしているとでも・・今まさに、感じてらっしゃる」 「カリカリしないで下さい犬のことで・・」 「厭な言い方をなさるんですね、三枝先生は・・公の問題として真摯に対処しようとしている人間に対してですよ」 「「まあまあ・・べつに問題を起こしたわけじゃないんだから・・・」 「だから、私は問題を起こしてからでは遅いと言ってるんですよ」
たまりかねた草間先生は、溝口校長に注意してもらおうと三枝先生達と連れ立って校長室に出向くが、先客の「クロ」がソファーの座り、校長が「おすわり・・・、お手・・。」と言ってクロと遊んでいた。 校長は「三枝先生一枚撮ってくれませんか。・・なかなか賢い犬ですな。実に感じがいい。・・・そう思いませんか?」とご満悦の様子。 三枝先生が「どうでしょう・・草間先生」と同調を求める。
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昼の弁当もみんなで分け合って「クロ」に与えた。 「今日は宮本君半分に分けてね・・」 「クロ」がやってきた。 町子が言う「クロは木村君が好きなんだね・・」
学校からの帰り道、孝ニが雪子に手紙を渡す。 「神戸君、丁寧に書いてよ。達筆すぎて読めないんだから・・・」という。 孝ニが「五十嵐!・・約束忘れるなよ」と言うと、雪子は「忘れるわけ無いでしょ・・じゃあネ」と言って分かれる。 一緒にいた亮介が「孝ニ・・・五十嵐と約束なんてことしてるのか?・・」と聞く、「うん・・・羨ましいだろ」 「別に・・どおってことないよ。俺には関係ない・・」 「映画を観に行くんだ、・・ニューシネマだ・・そうそう亮介も行くんだぜ」 「邪魔は出来ない。・・勝手に行ってくれ!。俺は映画には興味ない・・」 「お前の誕生日をお祝いしょって、五十嵐がさ・・」
孝ニの家の前。 孝ニが「兄貴に貰ったんだ」とバイクにまたがってみせる。 「孝ニの兄さん東京に行って楽しいこといっぱいあるだろうな・・」 「兄貴はバイクどころじゃない、授業料の値上げ反対闘争が全てだよ」 ![]()
生徒達が「クロ」を写生している。 前を野犬狩りの車が、野良犬を入れた檻を載せて通る。 「クロ」が立ち上がってとことこ歩いて行く。 そのまま「クロ」の姿が見えなくなった。 いても立ってもいられなくなった亮介は、授業をサボって「クロ」を探しに行く。 「僕らも行きたかったのですが、三枝先生の授業を放棄するわけにいかないので、クラスの代表として木村に託したんです」 「全体責任ということだな」 「はい」
保健所の野犬の集積所に木村は行く。 たくさんの犬の中に「クロ」の姿は無かった。 「この犬達ってどうなるの?・・」 「引き取り手が無ければ処分する。」 「処分ッ!・・」といって驚く亮介に担当者は「わしらは狂犬病から、あんた達を守ってやってんだ」そして「ここにいる犬は野良犬ばかりじゃねえんだ、買主の勝手で捨てられる犬だってたくさんいるんだ」と答える。 そこに「取り逃がした・・」と捕獲員が帰ってくる。 「どんな犬でした?」 「どんなって・・かしこい犬で黒かった」 「それ何処で見たんですか?」
亮介は山の中に探しに行く。 疲れて休んでいると背後で犬の鳴き声がした。 「クロ・・クロ!・・ちょっとまて」 山道を転びながら後を追うと、「クロ」は古びた農家の戸口で入る場所を探し始めた。 亮介が中の様子を探るが人の気配は無い。 引き戸を開けてやるとクロが入っていく。 懐かしそうにクークー鳴くクロ。 土間の隅に赤い紐に鈴がついた髪飾りがかけてあった。 「クロ」はそれを凝視していた。 亮介がそれを取ってやるとクロは紐を加えて首を振り、鈴がチリン・チリンと鳴った。 「お前がいいこなので、ここの人がちゃんと育ててくれたから、・・でもきっと、連れて行きたくても連れて行けなかったのだ。 ここに居たいのも判るけど、ここじゃ食べるものも無い。・・どうするクロ。 ここは寂しすぎるよ、学校にはお前のことを可愛がってくれる奴がいっぱい居る。 もうここはお前の居場所じゃない。・・・帰ろう・・」そして「心配したぞ!・・俺と一緒に帰ろ。 なッ」 亮介は赤い紐の鈴を持ち、山で痛めた足を引きずりながら学校に戻った。 すっかり暗くなった校門の前に雪子が待っていた。 「クロ・・お帰りクロ。・・よかったね」 「五十嵐!・・ありがとう」
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用務員の大河内が部屋に居ると、引き戸が開く音がする。「何とか言わんか!・・入ってくるときは・・」 振り返ると亮介、雪子とクロが居る。 「3年6組の木村亮介です。 クロを連れて来ました。」 「何処に行ってた?」 「さきがけ山の方にクロの前の飼い主の家があって・・・でも、もう誰もいなくて・・そこからこの鈴を大事そうにくわえてきたのです。・・」といって鈴を振ってみせる。 チリン・
チリンと鈴の音がする。 「おやすみクロ・・」クロを大河内に預けて二人は帰る。
帰り道で雪子が言う「木村君も木村君よ。・・授業サボって出かけたままいつまで待っても来ないから、私一度家まで帰ったのに結局また学校まで来たのよ。」 「それは悪かった」 「みんな心配してたんだからね」 「本当に見つかってよかったよ。 この学校で一番最初にクロに餌をやったのたぶん俺だからね。 だからこの学校に居ついたのだって俺に責任あるんだ」 「クロは幸せ者ね・・真剣に心配してくれる木村君が居て・・」とやきもちを妬いている雪子に「おまえ・・ちょっと・・五十嵐!」 「本当に心配してたのだからね」 「だからさ・・明日みんなに謝るからさ・・」 「バカ!」 雪子が走り去る。 「おーい・・五十嵐!」
用務員室。大河内がクロのくわえた髪飾りを取って新しい首輪をつける。 先導するクロと夜の廊下を一緒に巡回する。
亮介と孝ニと雪子が映画「卒業」を観に行った。 帰り道、雪子と分かれて二人きりになったとき孝ニが「亮介!・・五十嵐にキスする順番決めないか」と言う。 「本気か!・・俺たち東京の大学受けることに決めてるだろ。 そしたら、五十嵐のことどうする。」 「五十嵐は進学しないって言ってたぞ。」 「孝ニは受かるの確実だけどさ、俺は落ちるかも知れないから」 「じゃあ、わざと落ちるのか?」 「そうじゃないけど、・・とにかく彼女の気持ちを確かめなければ」 「そう言われれば・・確かめたいような、そうでないような・・どうしたらいいのか・・・今は心の準備が出来てないから・・それにじゃんけんは一気に現実を突きつけられるようで恐いだろ」 「あみだくじはだめかな」
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冬が近い日の映画館の前。 「ゴメン・ゴメン待ったァ!」雪子が走ってくる。 「木村君は?」 孝ニが言う「風邪引いて今日は遠慮しておくって・・」 「あッ・・そう」 「学生二枚」孝ニが入場券を買って二人は映画を見た。 亮介は風邪ではなく自宅で勉強をしている。 ♪♪ ”あのとき君は若かった〜 判〜って欲しい〜 僕の心〜を 小さな心〜を〜苦しめた〜” ♪♪
映画館を出て外で。 雪子が「今日は何時もと違うね・・木村君大丈夫かな?・・お見舞いに行こうか」という。 孝ニは真顔になって「あのさ、俺たちのことどう思ってる。五十嵐にとって俺たちは・・」 「二人とも好きよ」 「俺は・・お前が好きだ・・だから、俺一人に決めて欲しい」 「三人一緒じゃ楽しくない?」 道路わきに置いていたバイクを見て孝ニが「乗れよ!・・・どこか、行こう」というが、雪子は「ちょっと待って・・」と後ずさりする。 「俺のこと嫌いか?」 「そんなんじゃない」 「いつまでも三人で楽しくなんてあるわけない・・俺たち良い友達で終わるのか?・・一緒に東京に行かないか?」 「そんな・・神戸君。あせってるみたいでイヤ!。・・急に言われたって答えられない。・・わたし二人を比べたことが無い。」 「じゃあ、今比べてくれよ。・・風邪で寝ている亮介が心配か?」
「あたりまえでしょ」 「あいつのことを好きなのか?・・俺より、あいつの方が好きなんだ」 雪子は返事が出来ないでうつむいている。 孝ニは「ゴメン」とひとこと言って自分のマフラーを外し、寒そうに立っている雪子の首に巻いてやる。 孝ニはバイクにまたがり爆音を轟かして去って行った。 雪子はその場に立ち尽くしあふれる涙を止めることが出来ないでいた。
道路に永いスリップの跡を残しバイクがトラックの下敷きになっている。 木村が病院に行く。 治療室から悲鳴をあげて泣き崩れた孝ニの母親が廊下に出てくる。「孝ニ〜。こおじ〜。あ〜・・こ・う・じ」 待合室で待つ誰もが突然のことに身動きも出来ないでだまって立ち尽くして居る。 待合室に雪子が走ってくる。 雰囲気で全てを悟った雪子が「わあーッ」と声を出して泣く。 雪子はその場にマフラーを落して病院から走り出て夜の学校に来る。 夢遊病者のように教室に入り、窓を開けてイスをおき、イスの上に上がる。 外を見て飛び降りようとしたとき、足元で犬が鳴く。 その場に座り込んだ雪子は「クロ」といって犬を抱きしめて泣き崩れる。 クロがそんな雪子の頬を伝う涙をなめまわす。 雪子は「ワ〜ン・ア・ア・ア・エ〜ン」と大声で泣くうちに我に返り命を取り留める。 病院では亮介が雪子が落したマフラーを持って思い巡らしていた。
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《それから10年後》
牛乳配達のアルバイトをしている森下賢治が牛乳を自転車に載せて学校に来る。 賢治は毎朝クロに牛乳を与えてやっていた。 クロが美味そうにそれを飲む。
教頭になっている草間先生が生徒に「クロ見なかったか?」と聞く。 女生徒が「部室の方に・・・」と言う。 「これくわえてなかったか?」と先生はスリッパの片方を見せる。
森下が後輩二人を教室の裏に呼んで「かつあげ」をしている。 「おい後藤、はした金だケチケチするな・・」 そこに同級生の矢部が通りかかって「何で後輩がお前に金やんなきゃいけないんだ。俺の後輩からかつあげなんかしやがって・・・」 「こいつらさ、おれの妹いじめたんだよ」 「だからって、金とって良いのか!」 二人が取っ組み合いの喧嘩をしている所に、スリッパをくわえたクロを追って草間先生が通りかかる。 「何してんだ、お前達・・」
二人は保険室の常連生徒で、今日も結城先生(余貴美子)に喧嘩の傷の手当てをしてもらっている。 結城先生が言う「あんたたち二人仲よかったじゃないの・・・今は喧嘩より受験でしょ。よりによって教頭先生の前で喧嘩なんて・・・」。 二人はかって親友だったが、仲たがいして喧嘩ばかりしている。 そこに担任の三枝先生が来る。「お前達またか・・・理由は何だ!。・・俺の運は落ちたな・・
お前達の担任になるなんて・・俺の運は落ちる。お前達の成績は落ちる。・・どうする?」 矢部が「俺は私立がダメなら浪人します」と言う。 「金持ちは良いよな・・でもおまえが金持ちじゃないぞ。親が金持ちなんだぞ・・勘違いするな」 三枝先生が「森下!」と止めようとするが、森下は「俺は就職します」と言う。先生にとって頭の痛い二人だった。
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音楽部の部室。 ギターに触りながら「高かっただろ。・・宝の持ち腐れだな」 後輩の少年が「形から入っちゃうんですけど、僕内容伴わないんですよ」 「安田が金持って来たぞ」 「先輩大切に使ってくださいよ」 安田健一が差し出す金は小銭だけ「先輩!!」 「俺が全額払えねえことぐらい知ってるだろ」 「ローンでこれだと400回払いですよ」 「うんわかった・・がんばろう」
安田健一の実家の食堂に健一と後輩が二人で入ってくる。 「いらっしゃ〜い」 奥から少女の声がする。 「お兄ちゃんまた・・・」 「今日は、僕ワンタン。・・今日もキラキラしてるね京子ちゃん」 奥で母親が呼んでいる。 「何やってるの・・また学校に呼び出されるのいやだからね」 「呼び出しなんか無視してりゃ良いじゃねえか。受験を諦めた生徒なんか、誰も心配してねえよ」 「退学だけはダメだよ。履歴書に中卒って書かなくちゃいけなくなるから」 「履歴書がいるような所に就職できると思ってるの」 「ところでこの店どうなるの・・」 「ここは私で終わり・・」
音楽部の部室。 安田が払う小銭入れの「ローン箱」が出来て、安田がお金を入れる。 後輩が自分で作曲した歌を口ずさむ。 そこにクロがやってくる。
駅に電車が入り、ホームに背広を来た亮介が降りる。 斎藤家・北林家結婚式会場。 同級生斎藤守の結婚式の受付に雪子がいる。 雪子が声をかける「亮介君・・本当に来たんだ。・・」 「ちゃんと出席通知出したよ」 「でも、もしかしたら来ないんじゃないかって・・久しぶり・・その前に記入して」 亮介が記帳して、祝儀袋を差し出す。
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二次会の席に守達夫妻が来る。 「亮介!・・今日はありがとう・・俺のためにわざわざ帰って来てくれてな、俺は嬉しいぞ」 「くどいな」 守は「何度でも言うさ、こいつとはな盆と正月でもなかなか会えなかったんだから・・うれしいって言われて亮介もうれしいだろ」と言って酔いに崩れる。 「俺は新郎だよ。・・・主役だぞ」と言っている。 新婦が謝っている。 守はさらに「俺がさ身体の具合が悪くなったら頼むぞ。・・だから主治医にしてさ・・」 「お医者さんなんですか?」 亮介が答える「ええ、獣医ですけど・・」 「人間だって動物なんだよ」 「本当に獣医になるなんてみんな驚いたんです」 亮介が言う「クロに出会ったのがきっかけさ、俺はクロのお陰で獣医になったんだよ」 守るが言う「そう言えば、クロは人の気持ちがわかる犬だって孝ニも言ってたよ。あいつはさ人を見るの目もあったけど、犬を見る目もたしかだったんだよな。・・亮介!。雪子いいのかこのままで。・・雪子お前離婚したんだからさ」 「だめだめ、帰ろう。送っていくからさ」 「これから幾らでもやり直せるから・・・俺はお前等に言いたいことがある。本当にありがとう」 酔った守はみんなに引き出されるようにして席を立ち、亮介と雪子だけが残った。
二人の帰り道。 亮介が聞く「今は実家にいるんだ?」 「今は、部屋を借りて一人で住んでる。 役場の事務をやってるの・・・頑張ってるみたいね」 「住宅地の小さな病院だけど・・」 「可愛い彼女がいたりして・・」 「適当にやってるよ」 映画館の前に来る。 雪子が「じゃあ、ここで・・」 「送るよ・・」 「良いわよここで・・久しぶりなんでしょ。お父さんお母さんの所にいてあげて・・・じゃあ」 「電話しろよ・・2・3日いるから」
亮介が学校にやってくる。 用務員室に入る。 大河内が「何とか言わんか・・入るときは・・」と言う。 亮介が「今日は・・あの、卒業生の木村と言います」 「あ、そう」 亮介は「クロ」を見つける。 「元気だったか・・チョット帰省したものですから・・クロに会いたくて。 クロがこの学校に来たときちょうど在校してたんです。 亮介が髪飾りの鈴を見つけ鳴らすと、クロが「ワン・ワン」と鳴いた。 「ああ、あんたあの時の・・そうかまあ座って・・」と大河内は思い出した。 「こいつ、気ままに生きてるくせになかなかくたばらないよ。最近贅沢おぼえて好き嫌いが出来てな。ほら、こんなに残すんだ」
軽トラックの荷台に用務員の大河内とクロが乗り、雪子の運転で獣医の所に向かう。 助手席の亮介が雪子に言う「急に呼び出して悪い・・」 「救急車呼ぶほどじゃないよね・・」 「えッ・・」 「クロのこと・・」 「犬に救急車呼ばないだろ。・・」 「クロ大丈夫なのね」 「ただ、チョット気になることが・・・」 病院に着く。 獣医の奥さんが「昔は犬猫病院なんて連れてこなかったんだけど・・病気の犬を始末するより長生きさせた方が、うちは商売になるんだけど・・・」と先客と話している。
用務員の大河内がクロを抱いて病院に入る。 獣医の花園先生が「どうしたの?」とやってくる。 「クロの容態が変だと思って・・」 医療専門用語を混ぜて病状を説明する亮介のそばで雪子が、「獣医をやってるの・・東京で」と言う。 亮介があわてて「ヒヨッコですけど・・・」と答える。 花園先生が診察をして、亮介が雪子に伝える「手術をしなきゃあだめらしい」 「そんなに悪いのですか?・・」 雪子が学校に電話をする「そんなにやばいんですか?・・」 「えッ・・クロよ・・たまたま、獣医になった卒業生が来て、判ったのよ病気だって・・」
保健室で森下と矢部に説教をしていた三枝先生が「もう帰って良いよ・・どうせまた喧嘩するんだろうし、それよりクロのことが心配だから。」 「クロの方が大切なんですか?」 「当たり前だ!・・お前達は何だかんだ言ったって卒業するだろう。 クロには卒業がないんだ」 保健室を出た森下が言う「クロのことどう思う?。何かしてやれねえかよ」 「そうだな・・・」 「心配してんのか?」 「クロは10年前うちに来た」 「だからどうした?・・」 「どうもしねえよ・・」
亮介が孝ニの墓参りに行く。綺麗な花が飾ってある。 帰り道に亮介が雪子のアパートを訪ねる「あのアパート居心地良いのか?。」 「住めば都よ」 「これからどうするんだよ」 「べつに・・暮らしていくだけよ」 「これからずっとか?」 「心配してくれなくても大丈夫、親にも面倒かけてないし、一人でやっていけるから・・」 「今日、孝ニの墓参りに行ったんだ。 新しい花があった。・・・」 暫らく沈黙ののち雪子が話し出す「10年も経つたけど・・・、神戸君を死なせたのは私なの。・・あの日、神戸君と最後に会ったの私なの。・・好きだって言われて・・
それで・・」 「孝ニのバイク事故とは何の関係もないことだろ」 「バイクの音が遠くなるのを聞きながら、もうお仕舞いなのかなって思ってた。・・本当におしまいになっちゃった」 「ごめんな・・思い出させちゃって・・」 「木村君も辛かったのだろうね。・・ねえ、いつ東京に帰るの?」 「明日の午後発車だ」 「そう、元気でね」 「五十嵐もな・・」
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学校の職員会議に亮介が呼ばれている「判りやすく言えば、身体の中に膿がたまる病気なんです。クロは子宮にウミがたまっている状態です」 牧野校長が言う「じゃあ、そのウミを取り除く必要があるんですね」 「はい、ただ難しい手術です。クロの負担を考えると・・」 「なんと言っても年ですからね・・・この学校に居付いてからも10年になる」 結城先生が言う「だからこそ、手術の可能性も探るべきじゃないですか。・・諦めずに」 「そんな老犬にそこまでしてやる必要があるんですかね」 「クロは職員名簿にも載っていて、入学式には必ず新入生達に紹介されるんですよ。単なる犬とは違うんですよ。ほっとく訳にはいかないでしょう」 「手術までして死にましたではシャレにもならない。それに手術費や入院費のこともありますし・・」 「お金の問題じゃないでしょう・・ケチ」 校長が亮介に「今日はわざわざ来てくれてありがとう」と例を言い、亮介も「後は花園先生に相談して結論を出してください」と部屋を出る。
亮介が帰りかけると学生の森下が「おれ在校生ですけど・・・」と声をかける。 「見りゃ判る」 「犬のことなんですけど、何とかなるんですか?」 「手術すれば、何とかなる可能性はある」 「手術か・・・いつするんですか?」 「するって決まったわけじゃない・・そんなに簡単じゃないんだ」 「でも、ほっとけば死ぬんでしょ・・じゃあ、早く手術すればいいじゃないですか。・・獣医なんでしょ」 「自信ないさ・・」
朝、学校の廊下にクロの病気のことを書いた張り紙と「クロ基金」と書かれた募金箱がおかれている。 学校中でクロのことが話題になる。 音楽部の後輩の少年が「先輩!・・あの募金箱はやりますね。やっぱり僕の目に狂いはなかったです。・・何かやる人と思いました」と森下に声をかける。 このことをとぼけようとする森下が「何か証拠でもあるのか?・・」と聞き返すと、「筆跡ですよ・・あの字どこかで見覚えあるなと思って・・ぼく先輩の字には造詣が深いものですから・・」 「で、動機は・・」 「いやだな・・人の知れない気持ちに決まってるでしょ」と言われる。 同級生の女の子からも「似てる」とか「認めなさいよ」とか言われるが「知らねえよ」と森下は逃げる。
森下は後輩二人をまた呼び出す「早急に金が要る。いいか募金だ・・あくまでも自主的なものだ。ただ若干強制的だ。・・・バカ、おれに渡すな。 募金箱に入れて来い。かつあげじゃ無いんだ。 しぶしぶ入れないで気持ちで入れろよ」 やがてクロのことを知ったクラスメート達によって総出の募金活動が始まった。
町子が雪子の勤める役場を訪ねる。 事務服を来て仕事をしていた雪子が気づき外に出る。 「ごめんネ、仕事中に・・在校生がクロの募金集め始めたんだって・・どう、一口乗らない」 「クロ?。・・クロがどうかしたの?」 「聞いてないの?・・じゃあ、亮介君が手術することも・・」
夜、学校の募金箱を亮介や雪子達が取りに行く。 「ある日突然募金箱が置かれ、ある日突然消える。それじゃ示しがつかんだろ」 「森下、お前の役目だぞ・・」催促されて亮介が貯金箱を開ける。 お金に混じって手紙がいくつもある。 ”本当はお金を入れなきゃいけないんだろうけど、今の僕にはお金がありません。せめて気持ちだけ入れさせてもらいます。クロ早く元気になってください” ”クロが居ないとなんだか物足りないです。また元気な姿を見せてね” お守りもある。”おじいちゃんの手術の時買いました。効果覿面”
ギターを買うための「ローン貯金箱」も空けられる。 用務員の大河内も「取っといてくれ」 とお金を差し出す。
亮介は「俺に何かできることあるかなって考えたんだ。・・もう少しクロに生きてて欲しいんだ。俺もがんばるからな・・・お前もがんばってくれよ」 「きっとクロは元気になって戻ってきますよ。
森下は保健室に居る。 「クロのことが気になって勉強できない」と言っている。
雪の降る日。 花園動物病院では手術の準備中。 雪子がやってきて亮介に話す「神戸君が死んだ時、どうしていいか判らなくなって、・・・気がついたら学校に居たの、それで教室の窓を開けて飛び降りようとしたの。 そしたら、クロが来て一緒にいてくれたの。・・クロのお陰なのよ。・・私が今生きてるの・・でも私は何もしてあげられない。・・ねえ、クロを助けてあげて」 「判った」 花園先生が「じゃあ、始めよう。・・・切開します」と言って、亮介が助手を勤め、クロの開腹手術が行なわれた。
手術が終わった。亮介が言う「後はクロに託すしかない」 雪子も「頑張ったね・・・クロ」 「五十嵐からあの話聞かされて、絶対に成功させると思ったんだ。
だからクロを助けたのは五十嵐だよ」
駅のホームに電車が入ってくる。 亮介が「元気出た?」 雪子も「木村君も?」 亮介が電車に乗り込む。 亮介が行きこの顔をじっとみつめて言う「あのさ・・・おれさ・・・。 雪子のこと好きだから・・・今も好きだから」 電車のドアが閉まる。 車掌が笛を鳴らす。 電車が静かに動き出す。 雪子がホームに立ち尽くして動くことなく見送る。
食堂の隅で森下が勉強をしている。 母親が「あんた何書いてんの?。 大学に行く気になったの・・」と声をかける。
クロの死はその日の内に全校生徒に伝えられた。 募金をしてくれた人々にも口から口へとつた減られた。 学校に大勢の人々が集まった。 教頭の草間先生が泣きながら挨拶をしている「クロは住み慣れた学校での日々をのんびりと過ごした。 手術を乗り越えたクロも老いには勝てなかった。」 用務員の大河内が「お前が居てくれたから、飯のときも、巡回の時も寂しくなかった。 おかげでこの部屋も暖かかったでな。・・ありがとう」 学校で読経が続く中で葬儀が行なわれている。 先生が、木村が、五十嵐が、保健婦が、用務員が、花園が・・・祭壇に合掌し頭を下げる。 大河内がクロの使っていた毛布を庭で燃やす。
牧野校長が弔辞を読む「クロ・・日暮れのブランコがゆれてます。・・生徒が帰っていきます。・・先生も帰っていきます。・・・あなたが残った学校は古い階段がギシギシ鳴りだし、隙間風が裏から入ります。 でもあなたは強い犬だから、やたらに吠えたりしない犬だから、闇の中に身をひそめ、じっと朝を待っている。・・・朝が来ると、昨日と同じように玄関の前にあなたがいて、どれほど私たちに励ましを与えてくれたことでしょう。 クロ、本当にご苦労さまでした。・・・星を唄う心で生きとし生けるものをいとおしまれた。そして、私に与えられた道を歩み行かねばならない。今宵も星が風に吹きさらされる・・・クロ、ありがとう」 用務員の大河内が赤い布の髪飾りについた鈴をそっとポケットにしまう。・・・
帰り道、学校に集まった男や女達が話している「大往生だったんだ」 「連絡が来た時はチョット驚いたよな」 「まさか本気でやるとは・・・」 「しかし、普段着でもよかったな。やっぱり大げさだったよ」 「そうかしら、・・」 「大体立派な犬の葬式ってのがどうなんだ。聞いたことないよな」 「聞いたことなくったっていいじゃない」 「人が聞いたらバカバカしいと思うよ」 「ばかばかしくったっていいじゃないの、私はクロのこと何にも知らないけど今日来てよかったわ」
亮介と雪子が話している「クロはちゃんと最後まで生きたんだね」 「そうだ・・・最後までな・・頭が下がるよ」 「後悔なんてしなかったのよね」 「もちろん」 「一生懸命生きたんだよあいつは・・・」 「幸せだったんだよね。・・・私も幸せになろうと思う・・・」 二人は肩を並べ話しながら畑の道を遠ざかる・・・。
♪♪”君の心へ〜と続く 長〜い一本道〜は ・・・”♪ = 終わり =
H・15・08・12 Cine la sept にて 鑑賞
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