THE LAST SAMURAI(上)  

平成15年12月7日及び21日観賞
                                
                                                                  資料の利用制限について
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  ジョン・ローガン、彼の脚本「The Last Samurai」が発表された時、この脚本に注目し、製作に参加を表明したのがトム・クルーズでした。  滅び行く運命と知りながら、時代に抗い、誇りを捨てない「侍」達。 「武士道」、それは優雅で美しく、正しいことには命も投げ出す潔さ、強さ、情や忠義を尽くす心なのだろうか。・・・。
 渡辺 謙は「ゴールデン・グローブ賞」の助演男優賞にはノミネートされたものの、惜しくも選にもれました。 この賞が取れたら日本人として、早川雪舟以来だったのですが残念です。
 続いてオスカー賞の助演男優賞にノミネートされました。  発表は3月1日、日本人が演技部門でノミネートされたのは、66年のマコ岩松以来ですから応援したいですね。        監督  エドワード・ズウィック

                      
 【キャスト】
ネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ) 日本政府に雇われて日本に来て皇軍の指導をするが勝元の捕虜となり、
           日本の文化と「サ
ムライ」を学ぶ。 元、南北戦争で戦った主人公の男。
勝元盛次(渡辺 謙)天皇に忠実に仕えることを誇りとするサムライ。 近代化される明治政府に反撥し、議員の職を
           追われ山里に篭る男。

氏尾  (真田広之)勝元の忠実な部下。 ヨリトモとも呼ばれる。
たか  (小雪)勝元の弟の嫁。 オールグレン大尉の生活の面倒を見る。
大村  (原田眞人) 明治政府の役人。 近代化した軍隊を率いる男。  後に勝元軍と戦う。
サイモン・グレアム(ティモシー・スポール)米国使節団に付いて来たがクビになり、本を書くため通訳兼写真家として日本にいる男。
ゼブロン・ガント軍曹(ビリー・コノリー)オールグレンと共に皇軍の指導に来日し、勝元軍との戦いに参加して戦死する男。
ベンジャミン・バグリー大佐(トニー・ゴールドウィン)南北戦争のときのオールグレンの上官。 皇軍の指導に訪日を持ち
           かけ共に来日す。 
後に勝元軍のオールグレンと戦う。
信忠  (小山田シン) 勝元の息子。
明治天皇(中村七之助)
中尾(菅田俊) 勝元や氏尾と共に山にこもった勝元軍の武士。
寡黙な武士(福本清三) 捕虜となったオールグレンを見張り、常に身辺にいる勝元軍の武士。
長谷川(  )政府軍の指揮官

 【ストーリー】
 1876年のサンフランシスコ。 全米一の銃器メーカー、ウインチェスター社では街頭でのトレード・ショーでライフル銃を売るために通行人を集めていた。 司会者が舞台の袖で酔いつぶれている男を引き出し紹介する。 「ご紹介しましょう・・・一時は第7奇兵隊にも所属し、インデアンとも戦ったネイサン・オールグレン大尉です。・・・彼は猛り立つ敵の軍勢に四方を囲まれましたが、このライフル銃で応戦し敵を蹴散らしました」。 通行中の見物人から拍手が出る。 司会者に紹介されてしぶしぶ舞台に立ったのは、南北戦争で大尉として戦ったオールグレンであった。 彼はサッターズ・ヒルの戦いで新兵器のガットリング機関銃により、多くの部下を失ったことで今も苦脳し、酒に溺れる日々であったが、昔の名声を利用して街頭宣伝員としてのサラリーマン生活を送っていた。 オールグレンは「この身を守ってくれたのは、この銃だったのです。 射程距離は400m。 当たれば胴に20センチの穴が開く。 弾を詰め替えずに6〜7人は殺せる。 彼らの死を代償に銃が改良されたのです。 ご注文はマッケイブル氏にどうぞ・・・」 言うなり彼はライフルを構えて、街頭にあるものを手当たり次第に標的にして次々に撃ち砕いた。 見物人は恐怖の声を発して逃げ回った。

 オールグレンが名声を利用して舞台で射撃をし、銃の優秀さを宣伝する仕事を終えて裏口を出たところに、南北戦争の時の上官、バグレー大佐が近づいてきた。 「驚いたな・・・大した役者だ。 今の仕事はまもなく首だろ。・・・あんたにもできる二人分の仕事を見つけて来た」と話始める。

 オールグレンがバグリー大佐に連れられていった先には三人の日本人がいた。 バグリーは「日本から来られた大村氏だ・・」と紹介する。 日本の大財閥三井と言う男は流暢な英語をしゃべる起業家だった。 彼らは国家を近代化に導こうとしていた若き明治天皇の使者であった。 天皇は世界の国々と交易し西欧の新しい技術と価値観を取り入れようとしていた。 天皇の最大の関心は皇軍を組織し、近代的な戦争を熟知した軍人に訓練させることであった。 大村が言う「日本に指導に来て欲しい。・・・成果次第で天皇は武器の販売権を米国に下さる。 ウインチェスターからは週25ドル貰ってることは調べてある。 われわれは報酬を月に400ドル出そう」 バグリーが言う「彼の部族考察が我々を助けた。彼は優秀な軍人だ」  オールグレンが言う「わたし以外に候補者が何
人いるんだ?・・月500ドルだ。・・」 三井が言う「仕事を完了した時点で、さらに500ドル払おう・・・勝元盛次を倒して欲しい。・・・彼はサムライだ」 
 会場を出てオールグレンはバグリーに言う「一緒に戦った同士がまた顔を合わせる。 世の中は面白い。 日本人を殺せというのか?・・・月500ドルなら誰だって殺すよ。 相手が貴様ならただでも殺すよ」 

 1876年7月12日、オールグレンは富士山の雄姿を望む船上の人となっていた。 "反旗を翻した者の制圧にまた向かうのだ。”  横浜の港に上陸し、日本の土を初めて踏む。 町はにぎやかで行き交う人にも活気がある。  そんな町の人々を写真に撮っている一人の外国人がオールグレンを見つけて近づいてくる。 「オー!・・私はサイモン・グレアムだ。 米国使節団に付いて来たがすぐ首になった。 日本政府は近代化を急いでいるが、侍は急速すぎると怒っている」と彼は言った。

 オールグレンはグレアムを通訳として宮中に参内する。 グレアムが「天皇が立ったら頭を下げよ」などと挨拶の仕方から指導する。 バグリーと三人が並んで進み天皇の前で深くお辞儀をする。 玉座の奥から天皇が歓迎の言葉を述べられる。 大村がこれを通訳する。 大村が言う「天皇は急いで西欧化することを望まれて居られる、国家の近代化のために力を貸して欲しい」 天皇がお尋ねになる「大村・・・アメリカには元々そこで暮らしていた民がいたというが、彼はその民と直接戦ったことはあるのか?」 大村が英語でこれを伝える。 オールグレンが「インデアンと戦った。そして、勝利を収めた。」と語る。 さらに「その民は戦の前、鷲の羽根で身を飾り、顔に色を塗ると言うが本当か?」とお尋ねになる。 オールグレンが答え、これをグレアムが訳して話す「彼らはとても勇敢でした」 天皇は玉座を降りて三人の前に顔を出し「サンキュウ・ベリーマッチ」と笑顔で話される。 グレアムが「そのまま一歩下がれ・・・さらに一歩下がれ」と伝えて三人は天皇の前を辞する。

 明治天皇は皇軍を組織し、近代的な戦争のできる軍隊を作り上げるためにオールグレンを招いた。 彼の指導のもとで訓練が始まったが、集められた男達は何の訓練も受けていない烏合の衆だった。 訓練は整列の仕方から教えねばならなかった。
         
 7月22日 彼は半年間で3年分になる給料を貰い、指揮官長谷川から勝元に付いて聞いた。 「勝元はどんな男か?」 「勝元は武士である・・・」 「彼らの武器は何か?」 「勝元はサムライの道を知る者達にあがめられています。 いまさら、飛び道具は使わないだろう」 「勝元は銃を使うような真似はしないというのか?」 「彼はサムライだ」 任を解かれたサムライの大半は去っていったが勝元のもとに留まった者達が数百人で反乱軍を組織して山奥にこもった。 グレアムは「サムライと戦っている長谷川もサムライだった」と教える。

オールグレンは南北戦争を思い出している。 何の関係もないインデアンの集落を襲う。 逃げ惑う女、子供達を銃で撃ちまくって皆殺しにする。 「だが、これは報復戦だ」自分に言い聞かせる。

 オールグレンによる皇軍への訓練が続いた。 「弾を込め!ッ」 「第1列撃てッ!」 「第2列撃てッ!」 兵たちは誰も標的に当てられない。 オールグレンは兵の一人を捕まえて、「俺を撃て!・・撃たないとお前を打つぞ」と言ってピストルを発射する。 兵はあわてて弾を込めるのも手間取る。2発、3発撃つ、「早く!・・銃に弾を込めろ!」 5発撃たれて「撃てッ!」やっと発射するが弾は横にそれる。 オールグレンが言う「まだ、同じ方向に撃ってるだけましだ・・・」 彼は兵士の一人に「銃の床尾を肩に当てろ!・・狙いを定める。・・よし、撃てッ!・・。」 弾が標的を打ち抜く。 周りから歓声が上がる。 「良く出来た・・」 と兵士を誉める。

 オールグレンの最初の仕事は勝元たち謀反人の鎮圧であった。 「勝元が鉄道を襲ったそうだ・・犯罪者を討伐するのだ。 明朝6時出発だ」
 吉野の国。 1876年。 オールグレンは1.000人の皇軍を率いて、反乱軍の鎮圧に向かった。 霧深い山の中で皇軍と勝元たち500人が対峙した。 ガント軍曹が「勝元をどうやって探す」と聞く。 オールグレンは「向こうが見つけるよ」と言う。 「グレアム君後方へ・・・」とカメラを抱えた通訳を後方に遠ざける。 ガント軍曹が言う「敵は銃を持たない。・・こちらには自動銃がある」と言って指揮をとる。  皇軍の指揮をとる長谷川が「第3、第4中隊続け!・・・」と叫ぶ。 第1列が腰をおろし、片ひざをついて訓練どうり銃を構える。 弾を込める。 森の中から「わアァッー」と言う声のみ聞こえてくる。 オールグレンが「心配するな!」 と兵を静める。 霧の先から馬のひずめの音が近づいてくる。 「まだだ、・・・まだ撃つな!」 もやの中に騎馬軍団が浮かび上がる。 赤や黄色やグリーンの鮮やかな鎧甲を身につけた軍団の姿に恐怖心から誰かが発砲する。 「まだだッ!・・」 声を掻き消すようにバラバラに各兵が発砲しだす。 後列の者と交代が出来ない。 「やれ!・・弾込めッ!・・早く撃つんだ。・・撃てエッ!」 もう兵はバラバラと逃げ出している。 勝元の軍が弓を引き矢を飛ばし、騎馬で切り込んでくる。 激しい戦いが続く。 戦いの最中でガント軍曹は槍を胸に受けて戦死する。 オールグレンも馬から落ちる。 軍旗のついた槍をもった武士が馬上から突いて来るのを避けて、槍を奪い振り回し、何人も敵を倒すが数人に取り囲まれ力尽きる。 一人の武士が上向きに倒れたオールグレンをまたぎ、刀を胸に突き立てようと振りかぶった時、下ろすより早くオールグレンは折れた槍で下から一突きにする。

  勝元が来る。 兵が動けぬオールグレンの首を跳ねようとすると「やめッ!・・このものを運べッ!」と命令する。 既に皇軍兵は殺されたか、恐怖で逃げ去っている。 オールグレンが後ろ手にしばられ、馬に乗せられ連れて行かれる脇で、逮捕された皇軍の役人が切腹し、介添人が首をはねる所を目撃する。
 勝元は白馬にまたがり山深い自分の村に凱旋する。 勝元はヨリトモと呼ばれる男、氏尾に傷の手当てを指示する。 氏尾はオールグレンを馬から引きずり下ろし「名は何と申す!」と聞くが、オールグレンは口を利かない。 「無礼者・・答えろ!」 氏尾は刀を振り上げ、一気に振り下ろして首のところで止めた。 「やめろッ!」勝元がそれを引きとめて言う「このとおり冬も近い、山奥でもうお前は逃げられない」
                    
 お寺の暗い部屋の中でたかが、オールグレンの胸の切り傷を糸で縫っている。 息子の信忠が「あの蛮人を何ゆえ生かしておくのですか、辱めを受けたからには、あやつは腹を切るべきです」と言い、勝元が「蛮人のしきたりに切腹はない」と言う。 氏尾が「では私が切りましょうか?」と言う。 「斬らねばならぬ奴はまだ大勢いる。 まず敵を知ることだ・・生かしておけ・・・」
 「ひどくやられているな・・」 暗い板の間に寝かされ、意識の朦朧とする中でオールグレンは「さけ・・・さけ・・・」とつぶやく。 信忠が「たかが面倒を見てくれます」と言う。 たかは無表情の冷たい顔で視線を合わせることもなく、義兄に命じられた義務感のみでオールグレンの世話をしているようであった。 オールグレンも弱って逃げ出す力も無く、ただされるがままだった。 

 再びオールグレンが「さけ・・・さけ・・」とうわごとのように言う。 信忠が「伯母上、酒を飲ましてやれ」と言うが、たかは「それは出来ません。・・・」と言う。 「ここは俺の村だ」と言うと「ここは私のうちです。」と言う。 オールグレンが「頼む・・酒を呉れ!」と言っている。 オールグレンは苦しみの中で悪夢に付かれたように大声で叫び続ける。 たかが杯で酒を飲ます。 オールグレンは瓶ごと口に当てて飲みむせ返る。 勝元がオールグレンの持っていた、インデアンとの戦闘の様子が記録されたノートを取り上げる。 

 オールグレンが起き上がり廊下に出て外を見る。 寡黙な老武士がそばに付いている。 外を歩くと子供や女が恐がって逃げる。 村人は刀で一ッ刀のもとに木を切る練習や、取り組みあう武術、馬の上から弓を引いてマトに当てる事など武術の訓練に余念がない。 住いの部屋を観て廻る。 部屋の奥に赤い甲冑が置いてある。 「名前は?。・・名前はあるんだろ?」 何度聞かれてもオールグレンが答えることは無かった。 オールグレンには厳しい掟の元で修練に励む、武士と言うものがまだ判らなかった。 「サムライって判ったぞ。・・スカートを履かされるから怒っているんだ」

 勝元はオールグレンを連れて大きい寺にやって来てお経を唱える。 勝元が言う「この寺は私の祖先が1000年前に建てたものだ。・・・マイネーム・イズ・カツモト・・あなたの名前は?」 答えないオールグレンに意味が通じていないと思った勝元が「英語の発音が違うようだ」と言う。 勝元に聞かれても名前を名乗らなかったオールグレンが勝元に話す「アメリカ人は敗者の首ははねない」  勝元が言う「名を名乗らないことは無礼なことだ」 オールグレンは「あの部屋にある赤い鎧は何だ?・・」と聞く。 勝元は「あの鎧は弟の広太郎のもの」と言う。 「あの女は?・・」 「私の妹で広太郎の妻、広太郎はこの度の皇軍との戦いで戦死した。 広太郎は立派な死だった。」

 オールグレンは食事に呼ばれてたかの隣りに座る。 誰も口を利かない。 たかが信忠に「耐えられない・・この獣の臭いは・・兄上に言ってください。・・せめてお風呂くらいは・・・」と言って顔をそらす。 信忠は「自分で兄上に言ったらどうです」という。 隣りに座っている子供が自分の顔をひねって、くしゃくしゃ顔を見せていたずらしている。

 雨の中で子供達が剣道の練習をしている。 「こいッ!」 「やッ!」 オールグレンがやって来る。 「上手いぞ・・」 そばにいた指導者が「小さいがなかなか筋がいいんだ・・・やってみるか?」といって彼に木刀を渡す。 子供を相手に戦いを始めた時。 「やめィッ!」と大声を出して、氏尾がやって来る。 「刀を下ろせ!・・・降ろせッ!」と言うがオールグレンが応じない。 氏尾が木刀を持って対峙する。 中尾達部下が取り囲み観ている。 隙を与えず氏尾が腹に一撃を加えて、木刀を叩き落した。 うずくまり、立ち上がろうとする所で首を強打され倒れた。 彼はまたよろけながら立ち上がり、立ち去ろうとする氏尾を追うが、さらに叩かれ、腰を打たれて雨水の泥に顔をうずめ動けなくなる。 そんなオールグレンを置いて氏尾は去っていった。 信忠や子供達、たかも見ている。

 オールグレンは信忠、たか、子どもたちの前で南北戦争の話をする。 「インデアンとも戦ったのか?」 「戦った」 「お前は大将だったのか?」 「いや・・おれは大尉だ・・・中間の位だ」 「大将は誰だった?」 「指揮官は中佐でカスターって奴だ。 1大隊で2000人位いたインデアンと戦い全滅した」 などと話す。 信忠が「春が来ると雪が解けて、峠の道が通れるようになる。 それまでここで待て」と言う。 

  オールグレンは日記に書く。 ”1876年、月も日ももう判らない。 不思議な人たちとの暮らしである。 私は彼らの捕らわれ者、迷惑な客人のように見られている。 村人達は姿勢を正しくして、笑顔を見せ、子供等は字の練習をしている。 朝、目覚めると何事にも完璧を目指して取り組み、自分に厳しい生活をしている。 反逆が天皇への忠だと勝元は信じている。”

 オールグレンは村人達の剣の練習に参加する。 部屋に置かれた赤い鎧を観に行く。 着物がたたんで置いてある、それを着てみる。 着物のままで刀を振り回したつもりで動いてみる。 武道の組み手で動いてみる。 子供が驚いて見ている。 彼は直立して礼をする。
 外で木刀を振ってみる。 信忠が言う「あなたはまだ観ている人のことを気にしている。 心が乱れている。 心は無になれ」

 たかの家族と夕食中。 オールグレンが「おかわり」という。 信忠が「たか・・オイ聞いたか?、もっと食わせてやってくれ」と喜ぶ。 オールグレンは「これ、ハシ・・ハシ」といい。 信忠が「ハシ・・ハシ」と真似をする。 みんなの笑いの中で「これは?」「まげ」 「みみ」 「茶碗」と子供達までが教えて、彼がその都度復唱していった。 彼が「オールグレン」と自分のことを紹介すると、みんなが口真似で「オールグレン」と繰り返した。 信忠が「のぶただ・・孫ニ郎・・飛源・・・たか」と一人ずつを紹介した。
 黙って様子を見ていたたかが、外に出て勝元に「兄上!・・出ていって貰って下さい。・・もう耐えられません」と言う。 「これ以上の辱めを受けるのなら、死なせてください」とも言う。 勝元は言う「かたきを討てば気が済むのか・・・」 「はい」 「広太郎は戦で死んだ。・・・わしも奴がなぜここにいるのかよう判らんのだ。・・これもまた、何かのおぼし召しかも知れん・・・私の客人を預かることが光栄なのだ」
              
 雪の1877年冬。 剣術の稽古をオールグレンも行っている。 「上手くなったな・・」と声をかけられる。 子供が「寒い」というと、オールグレンも「サムイ」といい。 「わたしもさむい」と言う。 周りの子供達みんなが口々に「わたしもさむい」と言う。 「え・だ・が・もえる」 と何度も繰り返す。    
 オールグレンは村人達の行動、生活、日々の訓練を見て日本の文化とサムライの流儀を学び、言葉を学んでいった。

 たかが桶を持って外に出ようとしたとき、オールグレンが桶を取り上げて外まで持っていく。 「日本の男はこのようなことは致しません」 「わたしは日本人・で・は・ない」 囲炉裏のそばに二人は座って話す。 「お許しを・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい。・・あなたのご主人広太郎を・・・」 「あの人はサムライとして本懐を遂げました。 あなたも、あなたのすべきことをしただけです。 お気持ちだけは・・・」

  オールグレンが日記に書く ”1877年春。 こんなに永く一箇所で暮らしたのは17歳で田舎を出て以来だ。 ここでは霊の存在を感じる。”  山里の救出の手の届かないところで、村人達の生活をみてきたオールグレンは、日に日にサムライ達に敬意を抱くようになってきた。
 サムライを学んでいるオールグレンが、氏尾と剣道の練習試合をしている。 周りで見ているサムライ達がお金を出して賭けをしている。 「氏尾さんが三手で取る」 「五手だよ」 木刀で激しくたたき合う二人であるが、 「勝負あり・・」  結果は氏尾が三手で勝つ。 負けた男が金を払う。 「次は五手!」 「六手だ!」 眼をつむり念じるがまた負けて金を払う。 次は激しく永い戦いが続き、同時に相手の首に当てた木刀が止まった。 「引き分け」の声で勝負が決まった。 のどかに見える春の日の中でもオールグレンのサムライ学習が続いていた。
                        
 そんな村の神社の境内に能の舞台が作られ、赤々と夜空を焦がす薪の火灯かりに浮かび上がるように、能面を付けて優雅に舞う勝元たちを村人達が観て楽しんでいた。 笛、太鼓の響きと拍手と笑い、歓声の続く中で誰もが気を緩めていた。 そのころ、身を潜めた黒装束の男達が次第に神社を取り囲み、ある者は神社の屋根に裏側から登った。 燃えるような灯かりに照らされ、屋根の上から弓を引く男の姿が偶然オールグレンの眼に留まった。 彼の「勝元!・・」と言う声と同時に矢が放たれ、勝元の前で能面を冠って踊っていた男に刺さる。 矢が乱れ飛び、回りの建物の影から賊たちが切り込んできた。 女、子供の逃げ惑う悲鳴と、乱入した賊と戦う村人達の混乱でたちまち境内は修羅場と化した。 次々に乱入する敵を勝元、氏尾に負けぬくらいオールグレンも切り倒した。 村人の被害も大きかったが彼らは賊を打ち破った。 オールグレンに勝元が言う「人はこの花のようにいつかは落ちる。 完璧な花は少ない。・・・この命は天皇に捧げたも同然、・・・倒す敵すべてにも命がある。 死をも恐れず、時にはそれを望む・・・それが武士道だ」 「黒幕は誰だ?。・・・黒幕は天皇か?」勝元はそれには答えず「お前は敵だった、身を預かっただけだ。」と言う。 

 勝元はオールグレンに「お上が、東京に上るようにと言ってきた」とを話す。  「預かっていた物を返す」といってオールグレンにノートを返す。 勝元はこの英文のノートで英語を学び、罪のない者への非道な行いに対するオールグレンの苦悩を知った。

 たかが岩場で着物をずらして、身体を拭いている。 オールグレンがそれを知らずに近づき「失礼」と言って引き返そうとする。 「いいえ、・・もう済みました」と言ってはにかみながら着物を直す。 オールグレンは別れの挨拶に「行きます・・」とだけいう。 たかもうつむいて「はい・・」と小声で言う。 オールグレンが「しんせつ・でした。・・わすれ・ま・せん」と言うのを、たかはだまってお辞儀をして答える

 オールグレンが着替えて部屋を出る。 孫ニ郎が駆け寄って来て一緒に練習した習字の「侍」と書いた半紙を丸めて渡す。 オールグレンが馬に乗る。 サムライ達が出陣する。 勝元が白馬で先頭にたち、氏尾が続く。 たかが離れた畑の中にたたずみ無言で見送る。 手に弓、槍、刀を持った徒歩の武士が続いて駆け出す。
       (下)につづく
 
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