ミリオンダラー・ベイビー


 本年度アカデミー賞4部門を独占。 クリント・イーストウッドが作品賞・監督賞に、ヒラリー・スワンクが主演女優賞に、モーガン・フリーマンが助演男優賞に輝いた作品。 静かで深い愛の絆に感動して途中胸がふるえた" 愛しているが故に突き放すこの矛盾、魂を強くゆさぶられたなど絶賛の声が聞こえた作品です。   字幕翻訳   戸田奈津子

                                    

【キャスト】

フランキー・ダン(クリント・イーストウッド)ボクサーが試合中に怪我をしたとき応急処置をする人(カットマン)だったが、トレーナーとなり今はボクシングジムヒット・ピットのボス。 自分の娘との関係に悩むマギー(女性ボクサー)を通して、連絡もしてくれない実の娘の姿を見出す男。

マギー・フィゥツジェランド(ヒラリー・スワンク) 自分の娘との心の通わぬ関係に悩み、苦しみ、ボクサーとして名を上げようとする三十路の女。

エディ・デュプリス スクラップ (モーガン・フリーマン) ボクサー時代に無理な試合続行で再起不能となり、片方の目を失った男。今はヒット・ピットの雑用係り。

ビッグ・ウィリー(マイク・コルター) フランキーのジムに居るボクサー。 「自分を守れ」と「無理を避けろ」が信条のフランキーが不満でジムを去る男。

ミッキー・マック(ブルース・マクヴィッティ) フランキーに嫌気がさしていたビッグ・ウィリーを引き抜きタイトル戦を組むやり手のマネージャー。

サリー(ネッド・アイゼンバーグ) 有名選手を育てたやり手のマネージャー。 マギーのマネージャーを引き受けるが、マギーを試合の駆け引きに利用する。

アーリーン(マーゴ・マーティンデイル) マギーの母親。

                               

【ストーリー

 ボクシング会場のリングの中、黒人の少年が相手の選手から打ちのめされている。 ゴングが鳴ってマネージャーのフランキーがイスを持って飛び出し少年がコーナーに帰ってくる。 少年がセコンドを勤めるフランキーに言う「彼とだけは戦いたくない!」 フランキーが言う「大丈夫だ!・・勝てる!」 「どうすりゃいいんだ!」 「打たせろ!」 
 ゴングが鳴って、言われたとおりに、リング中央に飛び出した少年はすさまじいパンチを食ってリングに倒れる。
 コーナーまで抱きかかえられてイスに戻った少年の目の下は、大きく切り裂かれて血があふれ出ていた。 この様子を試合会場の通路に立ってじっと見つめている女性が居た。 マギーである。
 

 ロスアンゼルスのダウンタウンにあるヒット・ピットと言う名の小さなボクシングジム。 ジムの片隅にある事務所でジムのボス、フランキーが机に向かって座っている。 「ダンさん・・」と入り口のほうから女性の声がする。 フランキーが「借金取りか?・・・何の用だ」と振り向きもしないで聞く。 女が「マギー・フィゥツジェランドと言います・・・。トレーニングをさせてください」と答える。 「女は断っている!」 「絶対にくじけません」 「ボクサーはタフだけじゃ足りないんだ」 このやり取りを、ガラスの向こうで雑用係りをしているエディが、ちらちら見ながら聞いている。


 ボクシングジムを閉めて、帰り際の駐車場での会話。 車に乗り込もうとしているフランキーにエディが聞く「女が来ていたが?・・。」 フランキーは「断ったぞ・・」と答える。 エディは「後悔するぞ・・・・それとウィリーの試合はどうする?」と聞く。 「あと2・3試合をさせてタイトル戦に一発勝負だ」

 部屋に帰ったフランキーはアイリッシュ・カトリックで、自分から遠ざかって仕舞った娘のためにお祈りをしている。 「主よあなたが頼りです。 娘ケリーをよろしく・・・・」

 フランキーは聖マルコ教会に行く。 教会で牧師に悩みを打ち明ける。 実の娘に縁を立たれた、遠ざけて仕舞った自分を許せないのだ。 フランキーが牧師に言う「娘に手紙を出しても封も切らずに、受取拒否で手紙が戻ってくる・・・」

 ボクシングジムの事務所で、雑用係のエディがボスのフランキーに言う「ボクサーにはハートが大事だとよく言うけど、ハートだけのボクサーはダメだ」

 このジムの最強選手であるビッグ・ウィリーがジムに練習に来た。 ジムの中でエディを見つけて「スクラップ!」と声をかける。 エディが「ミスター・ウィリッチ」と挨拶を返す。

 やり手のマネージャーのミッキーが、ジムの中に選手のトレーニングぶりを観に来ている。 ビッグ・ウィリーに「この前の試合は良かったぞ」と声をかける。 「おれはウエルター級のチャンピオンになりたいんだ」とビッグが答える。 エディが「よそのマネージャーとは口を利いちゃいかん」とビッグに言って、「ここにはマネージャーが居るよ」と皮肉たっぷりにミッキーに言う。 ビッグはジムのボス、フランキーがいつも「自分を守れ」 「無理をするな」と言って、リスクを冒させようとしないので、このままではタイトルマッチのようなチャンスを逃すのではないかと心配している。

 ジムの練習所の隅で、練習着になったマギーがサンドバッグをむちゃくちゃ叩いている。 エディがフランキーに「女が練習している」と教える。 女性ボクサーを育てる気などさらさらないフランキーは「何・?・・手首を傷める前に、早く止めさせたほうがいい」とエディに言う。

 彼女の生まれはミズーリ州のセオドシアで、生まれついた時からの貧乏で、これまで貧しく苦労の多い人生を歩んできた。  レストランで働いているときに、客が食べ残したステーキをアルミホイルに包んでいて店長に見つかった。 マギーはあわてて「犬にやるの・・」と咄嗟に答えた。 マギーは薄暗く狭い部屋の隅で客の食べ残したステーキを夕食に食べていたのだ。

 マギーがサンドバッグを叩いている。 そばに来たフランキーに気がついて「ボス!」と声をかける。 フランキーは「ボスはよせ・・入れた覚えは無いし、教える気は無いぞ」と言った。 マギーは「会費を払った」と答える。 

 フランキーは事務所に帰ってエディに聴く「いくら払ったんだ?」 エディは「半年分の会費を前払いで・・・返すかい!」と答える。 

 エディがジムの電気を消しに来ると、薄暗いジムの隅からサンドバッグを叩く音がする。 良く見るとマギーが一人でサンドバッグを叩き続けている。 誰からも何の助言も受けられず、深夜まで一人黙々と練習を続けるマギーを気の毒に思って、エディがそばに行ってサンドバッグの叩き方を教える。 「バッグだと思うな・・俺はトレーナーじゃないが・・・。バッグは絶えず動いている人間だと思え。・・・パンチが効くように片方の肩を引いて、力を入れて・・いいぞ・・そのまま打ち込め。」

 エディは棚の隅からダンボールの箱を持ち出して「これを使いな!・・」といってスピードバッグを取り出す。 そして、スピードバッグの叩き方を教える。 マギーは「買えるようになるまで借りるわ」と言って叩き続ける。 立ち去ろうとするエディにマギーが「もうすこし練習していい?」と聞き、エディが「帰るときに鍵をかけて帰ってくれ」と言って立ち去る。 「サンキュウ・・」と言ってマギーはサンドバッグをさらに叩き続ける。

 マギーはジムからの帰りのバスの中で「自分だけと勝てる夢に全てを賭ける」とつぶやく。

 マギーが今日もジムに練習に来ている。 男たちが冷やかす「デンジャー・・お前でも勝てる相手が来たぜ」 「女だ・・胸が膨らんでいる」 「蚊に刺されたほどだけどな」  マギーはだまって黙々と練習に励む。   エディがフランキーに「あの子意外に続いてるね」と話しかける。 「誰かが手を貸しているからだろう」とフランキーは答える。

 フランキーがマギーのそばに行き「そのスピードバッグ返してもらおうか・・・」と言う。 エディがやってきて「まずいのか?」と聞く。 かまわずフランキーはマギーに「俺のものを使うな・・俺の道具を使っていると、俺がトレーナーだと人に誤解される」といい、さらに「君はいい子のようだ・・・女性ボクサー専門のトレーナーが大勢いるジムがあるはずだ。 プロを育てるには4年必要だ・・君はいくつだ」と聞く。 マギーは「31歳です」と答える。 「とにかく無理だ・・バレリーナでも志すか?」とフランキーが言う。 マギーは唇をかんで耐えている。 フランキーはそれを見て、可哀想になりスピードバッグを「使っていい・・・取っておけ」と言って手渡すが、マギーは「新しいのを買ってくるからいらない」と言って返す。

  タイトルマッチに「待った」を掛け続けるフランキーに、忠実に従っていたビッグ・ウィリーだったが、自分がチャンスを逃しているのではないかと思うようになってミッキー・マックの誘いに乗る決意をする。 彼をマネージャーにしてタイトルマッチを組むこととなり、フランキーのところに挨拶に来る。
 マネージャーのミッキー・マックはフランキーに「お前が育てたチャンピオンだ半分とは言わぬ、おれは40%でいい・・・指名は9月だ」とタイトル戦の契約をしたことを伝える。 エディが「2年前ならタイトル戦に勝てたかも知れないが・・」とそばで言う。 フランキーは「時期を待たずにタイトル戦に出して、失明してもいいのか?」とマックに聞く。  「あんたは利口者だよ」とエディが皮肉を言う。

 マギーの猛練習が始まった。 スピードをつける。 ウエイトレスの仕事中も足はボクシングの練習に励む。 朝暗いうちから海岸を走る。 ジムでサンドバッグを叩く。 ガラス瓶の中に貯めた小銭を集めてスピードバッグを買いに行く。 小銭ばかりで支払う女を店主が不審な顔で見ている。

 エデイがマギーに足の動きを教える「ボクシングは理屈じゃない・・左に出たい時は左に倒れて左の足を出す。」 

 エディがテレビを見ている。 ビッグ・ウィリーがタイトル戦を戦っている。激しく打ち合ってビッグが勝つ。 アナウンサーが「タイトルを奪取」と叫んでいる。

 フランキーが「試合は勝った。ウィリーはよく戦った」と言う。 エディは「それだけか?」と聞く。 「次はミシシッピーで台風ジャクソンと戦うことが決まった」テレビが伝えていた。

 ビッグ・ウイリーのタイトルマッチがテレビで放映された夜のこと。 その夜はマギーの誕生日だった。 ジムの中のエディの仕事部屋で小さなケーキの上に数本のローソクを立てて二人だけで誕生日を祝っている。 エディが「自分で消しな」といい、マギーがそっと吹いて消す。 そのエディの仕事部屋にチーズバーガーを持ってフランキーがやって来る。 「食うか?・・」 練習場を見るとマギーが一人でスピードバッグを叩いている。 エディが「マギーの誕生日なんだと」と教えてくれる。
 自分が買った新品のスピードバッグを、無心に叩き続けているマギーの練習をフランキーは見に行く。 フランキーが「息が切れてる・・・いくつになった?」と聞く。 マギーが「32です・・・また1年が過ぎたわ・・13の時からずーっとウエイトレスをし続けてね。・・知ってる?。私の弟は刑務所、妹は不正申請で生活保護を受けてるし、父は死に。母は145キロのデブ。 本当なら、故郷に帰って中古トレーラーで暮らすべきなのよ。・・でも、これが楽しいの。 年だなんて言わないで」と答える。

 フランキーはマギーの人生からボクシングを取り上げたら、彼女には何も残らないことに気が付いた。 フランキーが言う「トレーナーをつけてやろう。・・俺とやる気はあるか?」 「がんばって期待にこたえるわ」 「ただし、俺はマネージメントはやらない」 二人は握手をした。 「俺との約束を守れ・・・一つ何も質問をしない 「ウン」とだけいえ・・・二つ泣き言は聞かん・・・これだけは必ず守れ」  フランキーは早速マギーを指導する。 「足が動いてない・・・次に左足に体重を移して右を打つ・・・分かったな。 そーだ続けるんだ」 サイドステップの足の使い方を早速教える。   マギーがフランキーを「ボス」と呼び素直に彼の指導にしたがう日々が続いた。

                                              

 マギーがレストランだウエイトレスをやっている。 職場で料理を配りながらでも足はサイドステップを踏んでいる。  夜はジムでの練習を怠らない。 フランキーはマギーに基本動作を一つ一つ鍛えこんでいく。 「悪い癖は頭でなく一つ一つ身体で覚えていくんだ」 「縄跳びもバランスを保ちながらやれ、下から突き上げるフックの練習を繰り返せ。 つま先からゆくパワーを全身で相手にぶつけるんだ」 「今日はここまで・・・いいぞ良くやった」 

 ジムでフランキーがマギーのトレーニングを指導している。 「息を止めてる!・・・・プレッシャーが架かると君はいつも息を止めている」と注意をする。 マギーが聞く「試合の指名はまだないの?」 フランキーが答える「マネージャーを決めてからだ」  マギーは瞬く間に試合に出られるくらいにまで腕を上げていった。 最初から、マギーの試合のマネージメントはやらないと決めていたフランキーにとって、マギーのマネージャーを捜すということはマギーとの別れを意味していた。 マギーはエディの方を見ながら「いつも、いつも彼はあたたの傍にいるけど・・なぜ?」と質問する。 フランキーは「家族のようなもんだ」と答える。 「家族?・・」 聞き返すマギーに「家族か・・・おれにも娘はいるがね・・・」  フランキーの頭のなかを疎遠になった娘の顔がよぎった。

 ジムでマギーがトレーニング中。 フランキーが男を連れてくる「サリーだ・・・いいボクサーを育てたマネージャーだ」とマギーに紹介する。 サリーは「俺とやれるか試してみる」といってリングにマギーを上げてスパーリングを行う。 「よし、こんどの試合に出してもいい」とサリーがマネージメントを引き受けてくれた。

 試合の会場。  マギーがサリーに聞く「なぜ違う等級なの?」  サリーは答えてくれない。 マギーの試合のマネージメントはしないと決めているものの、フランキーはマギーの初試合を見に行かずには居れなくてエディとリングサイドで観戦している。 フランキーがマギーの対戦相手を見て「ロニーのジムの子だ」と言う。  エディが「ライト級チャンピオンもロニーのジムだ」と言う。 試合開始のゴングが鳴る。 マギーは勢い良く飛び出したものの、一方的に打ち負かされている。 サリーがチャンピオン戦を有利に組むために、マギーを強豪相手と対戦させていることにフランキーは気付く。 不正を知ったフランキーはたまらずリングサイドに飛び出してロープの外から叫ぶ「ちょっとこい・・左手が死んでる。 もっと上げるんだ」  レフリーがフランキーを見つけて「マネージャーか?」と聞く。 サリーが飛び出してフランキーに「マネージャーを譲るよ そんなへぼボクサーは要らないよ」と言って降りてしまう。 第一ラウンドが終了した。 コーナーに戻ったマギーを見て、フランキーはリングに駆け上がりセコンドに付く。 「パンチを打つと左手が下がる。 うまく相手を誘い込んで、右から来ると思ったら、さっと身体を交わし、フックを打つんだ」 「腕を限界まで上にあげると、身体が打ってくれと動くんだ」  次のラウンドに飛び出したマギーのパンチが炸裂して、彼女はノックアウトで勝利を収める。

 ジムでフランキーとマギーが遣り合っている。「見捨てるの?」 「今週は休め」 「まだ木曜よ」 「俺に逆らうのか・・・いうことも何も聞かん」 サリーがマネージャーを降りて、マギーにとってはフランキーだけが頼りとなっていた。

 ジムの事務所で足を投げ出しているエディの靴下が破けている。 フランキーがエディに「今もマギーに金をやってるだろ?」と聞く。 エディはフランキーに「新しい靴下を買ってくれるか?」と聞く。 フランキーはエディがマギーのために援助をしていることを知っている。

 フランキーはマギーのマネージャーを引き受けて試合を組むが、どの試合もマギーが強すぎて試合開始直後に相手を倒してしまう。 観客がブーブー騒ぐ。 フランキーがマギーに言う「第一ラウンドでノックアウトじゃ試合を組めない」 とうとうマギーには対戦相手がいなくなってしまった。 フランキーは面目を保つために6ラウンド試合に挑戦させた。 初の6ラウンド戦には苦戦したが、これもマットに沈めた。 「1・・2・・3・・4・・〜」 レフリーのカウントが続き、対戦相手が立ち上がろうともがくが「8・・9・・10」レフリーが両手を高く上げて、左右に交差させた。  この試合を組むためにフランキーは相手のマネージャーに袖の下を渡した。  

 次の試合、マギーはワンランク上の級に挑戦して苦戦する。 コーナーに帰ってきて「疲れた」と言って座り込む。 次のラウンドでマギーは相手に痛めつけられる。 やっとゴングに救われてコーナーのイスに戻る。 鼻血が噴出し顔全体が血だらけとなっている。 ドクターが診察して試合をやめさせたほうがよいと忠告するが、フランキーは「2秒呉れ!」と言ってリング内に飛び込む。 フランキーがマギーに「鼻が折れている・・・血を止めないと・・・」と言う。 「止血して・・・勝てるわ」とマギーも強気で言う。 「第2ラウンド」とアナウンスがある。  フランキーはマギーの鼻に棒のような器具を2本差し込み、あごと曲がった鼻を持って力いっぱい押してひねる。 マギーが悲鳴を上げる。「息を吸え!・・大きくだ!」 ドクターが覗き込んで見ている。 第2ラウンドのゴングが鳴る。 フランキーが言う「20秒すると血が吹き出る。・・20秒だぞ・・・それまでに倒せ!」 マギーは勢い良く飛び出して、打つ、攻める。 強力なパンチが顔に当たり、相手がのけぞるように頭から崩れ落ちる。 レフリーのカウントが続く「・・6・・7・・8・・9・・10」 フランキーがリング上に飛び出して、二人は抱き合って勝利を喜ぶ。

 フランキーが教会に来ている。 牧師がフランキーに尋ねる「なぜ、教会に来るんだ?・・」 フランキーは何も答えない。

 マギーは次々と組まれる試合を、全てノックアウト勝ちで勝利を続ける。 連続12試合KO勝ちとなり、WBAウエルター級のタイトルマッチや、英国チャンピオンからの試合申し込みなど、次々とオファーが殺到した。 しかし、フランキーはそれらの申し出を断った。 マギーがそれを知って「なぜ断った」と詰め寄るが、フランキーは「汚い手で相手を殺しかねないやつとの試合は組めない」と話す。

 エディはマギーをレストランに呼び出す。 エディが話す「君の願いは分かっている。 君は33歳だ、まだやれる。 俺は39までやって23KOをやった。」  そこにやり手のマネージャーであるミッキー・マックがやってくる。 「やあ・・元気かエディ・・」と声をかけて奥の席に座る。 エディがフランキーとの出会いをマギーに話す「彼とはかれこれ23年の付き合いになる。 37の時彼と出会った。 彼は最後の試合にもカットマンとして試合に付き添い傷の手当をしてくれた。」 

 エディの戦いが回想される。 激しい戦いでエディの右の目からかなりの出血をしている。 ゴングが鳴ってエディがコーナーに戻る。 フランキーがリングに駆け上がり、ロープの外から傷の手当をする。 

 エディが話を続ける「俺の109戦目の戦いだった。 血が目に流れ込んで前が見えなかった。 フランキーはタオルを投ろと言ったが俺が承知しなかった。 彼にはタオルを投げ入れる権利は無かったが、試合を止める手立てはあったはずだ。 彼はラウンドごとに止血をしてスクラップを戦わせ続けた。 彼はそうさせた自分を決して許せないのだ。 15ラウンドを戦い俺は負けた。 翌日俺は片目を失った。 俺の選手生活は2年で終わった。 俺は110回目に挑みたかった。 それでマックがここに来て居る。」  エディはマギーが大きな試合をやりたがっているのに、フランキーがリスクを負う試合をやろうとしないことを察して、マギーもそろそろフランキーの所から巣立つ潮時だと思った。 彼女と会わせるために今日はマックを呼んだのだった。

 エディが話を続ける「その後フランキーはトレーナーとなり、ちょうど売りに出されていたこのジムを買い取って、何人もの優れたボクサーを育てた。 彼はカットマンだったころと同じようにトレーナーとしての腕も一流だ。 だが、マネージャーとしてはお世辞にもやり手とはいえない。 フランキーが愛しているのは試合ではなくボクサーだからだ。 「常に自分を守れ」 「無理を避けろ」 選手たちに叩き込むルールの第1がこれだ。 大試合につきものの再起不能のリスクを選手に冒させようとはしない。 だから成功を求めるボクサーは、みんな彼の元を去っていくんだ。 よそだと頼れるマネージャーで試合が出来る。 ヴィックもだからマックの世話になっているのだ」 だが、マギーはエディの申し出を断る「私にはダンさんが居る。 話しても時間の無駄です」と。

 フランキーが自宅に帰る。 ドアを開けると床に封筒に入った手紙が3通落ちている。 拾い集めて宛先を見る。 どれも同じ宛先で、娘に自分が差し出した手紙ばかりである。 フランキーは部屋で箱を取り出してふたを開ける。 箱の中には返送された手紙がいっぱい詰め込まれている。 どれも"差出人に返却と書かれている。 すべて受取拒否 された手紙である。

 フランキーが英国チャンピオンとの試合の契約書を持ってくる。 マギーは「サンキュー・・ボス!」といってフランキーに飛びついた。 フランキーがなぜ、試合を引き受ける気になったのかはマギーには分からない。 娘からの手紙の返却が原因かも知れない。 

 英国に乗り込んでの試合の日。 フランキーはマギーに「モ・クシュラ」と刺繍が施されたガウンを贈った。 マギーが喜んで「プロポーズ?」と聞くが、フランキーは「俺がプロポーズなんてするか」と答える。 マギーが「どんな意味?」と聞くが、「知らん・・・ゲール語だから・・・」とはぐらかす。 リングに向かう二人に「モ・クシュラ!」 「モ・クシュラ!」と観客からの声援が飛ぶ。 リングアナウンサーが「メイン・イベント・・・赤のコーナー・・・・モ・クシュラ!」 「モ・クシュラ」の名が告げられると場内は「モ・クシュラ!」の大合唱となった。
 試合が始まる。 互いにすばらしいパンチを打ち込むが相手は倒れない。 1分間のインターバルでマギーがコーナーに戻ってくる。 マギーは「手ごわい相手よ」とフランキーに言う。 「君より上手だからだ・・・腕もめちゃめちゃいいが、経験豊富で君より若い」と答える。 マギーはこの言葉に発奮し飛び出すと、すさまじい勢いでパンチを繰り出し相手を倒す。 レフリーが「
1・・2・・3・・ーー8・・9・・10」と数えて両手を左右に交差させる。 フランキーがリングに駆け上がり、マギーがその胸に飛びつく。 場内は「モ・クシュラ!」「モ・クシュラ!」の大合唱となった。 マギーは英国チャンピオンを倒したのだ。 マギーには分からなかったが、「モ・クシュラ」の意味は会場の殆どを占めているアイルランド人観客の心を捉えた。 観客は熱狂した。 マギーが「翻訳してもらえる?」と聞くと、フランキーは「いいよ」と答えてから、「帰国した時のマギーは立派なプロだった」と言う意味だ。と、うその意味を教える。

 英国チャンピオンを破り、その後のヨーロッパ転戦でもマギーは勝ち続け、マギーの新しいリング・ネーム「モ・クシュラ」と言う名はボクシングフアンの間で知れ渡った。 再びタイトル戦のオファーが来た。 「こっちが60、そっちが40・・・ドイツ女が40でも誰が見たがるか?」とフランキーは言った。 50−50で契約書は作成された。 

 マギーがフランキーに「ボス・・・小金がたまったら家を買えといわれていたけど、ママが住んでるところに家を買ったの。・・割賦じゃないわよ。・・・帰りに寄り道して寄ってみたいの」と言う。 二人は車を飛ばしてミズーリー州の田舎町に行く。  売約済みの看板の立てられた新築住宅の玄関で母のアーリーンや弟妹が不機嫌な顔で二人を出迎えた。 マギーはうれしくて部屋の中を見て回る。 新しい冷蔵庫に、快適そうなキッチン。 エアコンも付いている、明るい家。 母がマギーに言う「家を買うより、お金を呉れるか送金を増やして欲しかったのに・・お陰で生活保護の支給も打ち切られたの、これからどうしたらいい?・・・」 妹も「気持ちはうれしいけど勝手過ぎるよ」と姉をなじる。 マギーは「お金をもっと送るわ」と言うほかなかった。 母はマギーの顔の傷を見て「あいつが暴力をふるったのかい」とフランキーの観る。  別れ際に母は「いいたかないけど余計なことをしてくれたね」と言った。

 気まずい思いだけを胸にマギーの家族と別れた帰り道、二人はガソリンスタンドに立ち寄る。 フランキーが給油している間に、 マギーは隣に止まって給油している車の中で少女と犬が遊んでいるのを見る。 マギーと少女の目が会う。 マギーが手を振ると明るく微笑み少女も手を振った。 再び走り出してからマギーがフランキーに言う「大声で歌を唄って・・・お願い」 そして言う「あたしには、もうあなただけ・・・」 「そう俺もだ・・・頼りにしてもいいよ。・・いいマネージャーが付くまではね」 娘に縁を絶たれた男と、家族の愛に見放された女。 互いに心に苦しみや深い傷を抱えて生きてきた二人の心を人間的に結びつける何かが芽生えていた。 

 レストランでフランキーがマギーに伝える。 「ラスベガスでドイツ人ボクサー青い熊ビリーと対戦することが決まった。 対戦相手は汚い手を使うことで知られているやつだ。 ファイトマネーは100万ドルだ。」

 ラスベガスでの試合のため、フランキーとマギーが出発の準備をしている。 フランキーが「車がいいか?・・飛行機にするか?」とマギーに聞く。 マギーは「なぜ聞くの?」と尋ねる。 「君が決める」 「じゃあ、行きは飛行機、帰りは車・・・」 そんな会話の時、「大変だ!・・・トイレの水があふれてる」と大騒ぎをしている声が聞こえる。 エディが一人でトイレの掃除をした。

                            

 ジムの練習場でエディが言う「ベガスに行ってりゃ今頃は、マイタイを飲んで女の裸を眺めている」 デンジャーが練習をしている。 見ていたエディが声をかける「良くやったデンジャー」 「おれはダメだ」 エディが「ちょっとグローブを貸せ」と言ってリングに上がる。 左手だけグローブをつけて「お前のクセはどこか危険なんだ」と言いながら、攻め込んで左1本でデンジャーをノックアウトした。 「俺の110回目の試合だ」とエディがうそぶく。

 ベガスでの試合当日。 フランキーがマギーに「バグパイプ隊を雇った」と言う。 フアンが歓喜の声を上げている会場を、フランキーとマギーを先頭にバグパイプ隊が続いて入場する。 マギーがリングに入り両手を挙げると一段と高く歓声が響く。 マギーのグリーンのガウンの腰の辺りには「モ・クシュラ」の刺繍が大きく見える。 観客が「モ・クシュラ!」「モ・クシュラ!」と叫ぶ。 もう一方の通路からガウンのフードを深く冠り、目をギョロ付かせて青い熊ビリーが出てくる。 歓声は一段と高まる。 リングアナウンサーが両者を紹介する。 「赤コーナー・・・モ・クシュラ!ー」 「青コーナー、WBA世界ウエルター級チャンピオン、青い熊のビリー・・・」 

 試合開始のゴングが鳴る。 エディは部屋でテレビを見ている。 両者とも激しい打ち合いになる。 やがてビリーの足が止まり、マギーのパンチが続いて打ち込まれたとき、ビリーはマギーの顔面をひじで強打する。 レフリーが「ブレイク」と中に割り込み、ビリーに「もう一度やったら減点だ」と告げる。 「汚いぞ!」 「減点しろ!・・反則だ!」と観客も騒ぐ。 フランキーも「判定がゆるいぞ!」とインターバルでコーナーに帰ったマギーに言う。 次の回、マギーがスリップダウンして、立ち上がろうとするところを駆け寄って来てビリーが頭を叩く。 マギーの目じりが切れて血が流れ出す。 レフリーが「もう一度やってみろ退場だ」と言う。 次のインターバルの時マギーが「任せてボス!・・」と言い、フランキーは「大丈夫だ・・・やれる!」と気合を入れる。 次の回、激しく打ち合ったのち、マギーは顔面にビリーのクリーンヒットを受けてダウンを取られる。 「・・7・・・8・・・9」マギーは立ち上がる。 次の休憩で戻ってきたマギーは「目がかすんでよく見えない」とフランキーに訴える。 フランキーは「どうやったって勝つ、・・・横に一歩出て腹にフックをかませろ。・・・レフリーと女の間に入れ」と指示する。 次の回。 マギーの左が反則気味にわき腹に入りビリーが倒れる。 カウントが始まる「1・・2・・3・・−−8・・9・・10」 レフリーが両手を左右に交差させて、試合の終了を告げた。 マギーがリング上で両手を挙げてフアンに歓喜の挨拶をしていたとき、振り向いたマギーの顔前に突進してきたビリーのパンチが炸裂した。 マギーはフランキーが置いていた、コーナーのパイプイスのところまで突き飛ばされて顔面を強打した。 フアンが棒立ちとなり、フランキーが「しっかりしろ!・・・ゆっくり息をしろ!」と言うが、マギーは左目から出血し、目が回って意識を失う。

 病院のベット。 全身を固定し、頭も首もギブスで固められて動けないマギーが寝ている。 のどには呼吸のための穴が開けられチューブが取り付けられている。 そばに付き添っているひげづらのフランキーが「気分はどうだ?」と聞く。 聞き取りにくい機械的な声でマギーが「ヒゲをはやすの?」と聞く。 フランキーは「女にもてるからね」と冗談で答える。 「もてないわ?」とマギーが笑う。 

 エディが見舞いに来た。 「ひどく痛そうだ・・・」 「何も感じないわ」 「良かった」。 フランキーが部屋を出て、医者のところに行く。 医師が「第一頚骨と第二頚骨が骨折していて、神経をやられている。 一生全身麻痺だ・・回復は望めない」と言う。

 マギーがエディに聞く「試合は見てくれたの?」 「もちろんだ・・・でも、なぜ、腕を下ろしたのだ?」 「自分を守れと言われたのに・・・ごめんなさいとフランキーに伝えて・・」 「そんなことは言えん」

 エディが部屋を出てフランキーと廊下で出会う。 フランキーは「お前のせいでこうなった。・・・女は断ると言ったのに・・」とエディに言う。  病室に帰ったフランキーはマギーに言う「ここを出よう・・・砂漠の中に居る医者なんてヤブに決まってる。」  治療できると言う医者を求め、フランキーは全米を捜しまわった。

 マギーの入院している病院を変えることになった。 フランキーが「救急車でも6時間のドライブだ」と言うと、マギーは「行きは飛行機、帰りは車ね。・・」と言って笑った。 「車椅子に座るのも数時間の移動も大変よ」 「自分で呼吸できるのか?」 「人口呼吸装置が必要よ」  マギーはラスベガスを出て病院を変えた。

 フランキーが教会に来てお祈りをしている。

 新しい病院でフランキーとマギーが話しをている。 「一日中居なくてもいいのよ」 「本を読んでいれば楽しいが、居なくてもいいのか?」 「ママが来てくれるわ」 「治ったら小屋を建てて、平和と幸せをゆっくり味わえるだろう」 「あなたも小屋を建てるの?」 

 母と弟妹が弁護士を連れてやってくる。 部屋に入るとすぐ弁護士が「ミズーリーに引越しです」と言う。 さらに「法律上の書類です」といって紙を広げる。 母親が「この弁護士さんの費用は時間でかかるのだから・・・」とサインを急がせる。 

 「治療費は後で精算しておくから・・・」と妹が言う。 「書類には財産も克明に書いてある」と母親が言う。 フランキーが何かを言おうとすると、マギーが「ダンさんは黙ってて・・」と言う。 フランキーは「悪かった」と言って廊下に出て行く。 話し声が廊下まで聞こえる。 母がペンを出して来て「ペン持てる?」と聞く。 妹が「歯で書かせるのよ」と言う。 両手が動かないことを知って母がペンを口にくわえさせる。 紙を目の前に出されるがペン先が動かない。 

 母親や弟妹はマギーの病状には関心が無く、マギーの財産相続のことでマギーに迫っている。 マギーは「ママは変わったの・・・」と嘆く。 動けないマギーのそばにいるフランキーに、母親たちが財産を横取りしようとしている男のように言うのでマギーが怒り出す。 弁護士に「早くみんなを連れて帰って!」と言い、妹に「さっさと帰らないと、あんたが生活保護を貰うために不正申請を続けていることを訴えてやるから・・・」と言う。   母親たちがあわてて病室を出る。 フランキーは「レフリーなら10と言うところだ」と言う。

 医者が診察に来る。 マギーの左足のスネから下が黒く変色している。 「この足は切断が必要かも・・・」と言う。

 今日もフランキーが病院に来ている。 窓際に立ってじっと外を見ている。 マギーの左足がなくなっている。 フランキーが「大丈夫だ」と言う。 「ボスの言葉は信じるわ」とマギーが言う。 フランキーはマギーの頬にキスをする。 「何かしようか?」 「モ・クシュラの意味を教えて」 「勝たなかったから教える必要は無い」 「意地悪ね・・パパに似てるわ」 「君のパパか?」 フランキーが書類を出してくる「私立大の案内書だ・・君もまた学校に帰ろう」 「ボス・・・お願いがあるの・・パパが女にしたことを・・・」というが、後が言えない。 「そんなことを考えてるのか・・・」とフランキーが言う。

 マギーが語る「私はボクシングのオファーがあって世界中を旅した。 あの変な名前で世界チャンピオンにもなれた。 生まれたとき体重はたった950gだった。 もう命の望みはなくなったの。 あたしは生きた・・・思い通りに。・・・それを邪魔しないで。・・死ぬ権利を奪わないで。・・・・あたしの名を呼ぶことは辞めて・・・。易しくされるのが恐い・・お願いよ!」 フランキーは「出来ない」と言って静かに目をそらす。 

 フランキーが部屋のベットで寝ている。 電話のベルが鳴る。 飛びつくように電話に出たフランキーが病院に急ぐ。 医者が「マギーは自分で解決法を見つけた。・・・ 自分の舌を噛み切ったのでこのままでは出血死する。 今は手術も出来ない」と言う。 マギーは口からあふれ出る血を首からベットまで流し、目を見開き無言でフランキーを見ている。 医者が「気が付くとまた噛み切ったようなので・・・」と言った。 さらに、「手を貸してはいけない・・・わかったな」とフランキーに言う。 フランキーは「なぜ・・なぜだ・・」と聞くがマギーは瞬きもしない。 「タイトル戦も共に戦った。・・・彼女が死にたがっている・・俺は何もしてやれない。・・でもこの矛盾もまもなく解決する。・・君のために神がいる。 いや、神は忘れろ・・深い罪の淵に落ちる・・・もっと残酷な・・」

 フランキーが病院に来る。 看護師が「自殺を防ぐため鎮静剤を打ったところよ」と説明する。

 フランキーは自分の部屋で薬剤と注射器を取り出しカバンに入れる。 エディが来る。フランキーは教会に行ってきたことを話す。 エディは「何か隠しているのか?」と聞き、さらに「お前のせいでと言ったが、お前が彼女を育てたんだ」と言う。 続けて言う「彼女が最後に願うことは"楽しい人生だったと言えることだ」 「そうだな」 カバンを握り締めて「そうだな・・その通りだ」と言う。

 朝まだ明けきらぬ靄のかかった病院にフランキーが来る。 人に見つからないよう、抜き足差し足であたりを警戒しながら廊下を進む。 廊下の先に老女が車椅子を止めて庭を見ている。 フランキーはじっと待って、老女が立ち去った後マギーの病室に入る。 ベットの端に腰をかけて、カバンを抱きしめる。 マギーの顔を見ながら「いいか・・呼吸装置を外すよ・・・それから注射を1本打つよ・・・モ・クシュラは・・愛する人よ、お前は私の血という意味だ」 マギーがにっこりと笑う。 フランキーが呼吸装置のスイッチを切り、喉に取り付けられていたビニールホースを外した。 カバンから注射器を取り出し、ビンから薬液を注射器に汲み取る。 腕に取り付けてある薬液を注入している管の中に注射器の液を押し出す。 「数人殺せる量のアナドリンだ」 マギーが静かに目を瞑る。 フランキーがマギーの唇に軽くキスをする。 フランキーは周りを警戒しながら病室を抜け出す。 少し開いた無人の病室のドアの隙間から、病室の様子をエディが見ている。

 エディが話す「俺はジムに戻り、彼の帰りを待った。 いずれ帰ってくるだろうと思って・・。 フランキーは戻らなかった。 どこに消えたにせよ知りたい・・・君のお父さんはどんな男だった」

                      =  終わり  =     平成17年6月11日 鑑賞


                             

                                     映画のお部屋