映画 「赤壁 RED CLIFF Part U」 


 「天下統一の野望に燃え80万の大軍を率いて「赤壁」に挑む曹操と、5万の軍勢でこれを守らんとする劉備軍と孫権軍の戦い」 赤壁で激突する連合軍の奇策は?・・・ジョン・ウー監督が、制作費100億円を投じて「三国志」を映画化した作品の第2部。

【PartTストーリー】

 若き皇帝が曹操に命ずる。「皇軍の将として、兵を率いて呉越の氾濫を平定せよ。」 曹操は80万の大軍を率いて南下し、劉備軍に襲い掛かる。 劉備軍は勇敢に闘ったが城は落ち、曹操から逃れ劉備を頼ってきた民とともに撤退を余儀なくされる。 軍勢わずか2万となり、窮地に追い込まれた劉備軍の軍師孔明は、呉の3代目・孫権軍の協力を得るために呉に発つ。 孔明は孫権とその司令官・周瑜の説得に成功し、周瑜は孫権軍3万を率いて応援に来る。 曹操軍は騎馬軍団を先行させてくる。 周瑜軍の騎馬兵が、一面砂煙を上げて前を見えなくし、弓隊が待ち構えているところに誘導したり、亀甲状の迷路に騎馬軍団を追い込むなどして戦い、 ここでは連合軍が大勝する。 先行した騎馬軍団が敗れた曹操は、2000艘の船に80万の水軍を乗せて河を南下し、連合軍の守る”赤壁”の対岸に対峙した。
                          
【キャスト】

曹操(そうそう)/チャン・フォンイー  帝国最大の権力者。 80万人の大軍を率いて劉備・孫権と戦い天下の統一を企てる男。

孫権(そんけん)/チャン・チェン  父・孫堅(そんけん)、兄・孫策(そんさく)の死後に、孫権軍「呉」の3代目を承継した若い君主。                       呉軍を率いて天下統一を狙う男。

尚香(しょうこう)/ヴィッキー・チャオ 孫権の妹。馬術にすぐれ、男勝りの性格。 ひそかに男装して敵軍に侵入し活躍する女。

周瑜(しゅうゆ)/ トニー・レオン  孫権が従兄と慕う孫権軍の司令官。 孫家(そんけ)に仕えた三代目。配下に絶大な信頼を得                     、戦術、武勇に優れ、人徳で高い統率力を持っている知将。  妻の小喬(しょうきょう)は絶世                       の美女。 都督として劉備(りゅうび)軍と同盟した連合軍を指揮する男。

小喬(しょうきょう)/リン・チーリン 周瑜の妻。 姉の大喬(だいきょう)と共に「江東の二喬(にきょう)」と呼ばれ、絶世の美人とし                      て知られている女。 夫の敵である曹操(そうそう)が、思いを寄せている。

甘興(かんこう)/中村獅童    孫権軍の周瑜に仕える。 自分の命を顧みることなく、敵地に攻め込む勇敢な武人。

魯粛(ろしゅく)/ホウ・ヨン    孫権軍の重臣、劉備軍との同盟を孔明と共に画策した後、孔明と共に戦略を練る男。 

劉備(りゅうび)/ユウ・ヨン    漢の復興をめざし太平を求める劉備軍の軍主。 民に慕われており、関羽(かんう)、         
                    趙雲(ちょううん)という豪傑を従えている。

孔明(こうめい)/金城 武    劉備(りゅうび)に迎えられた天才軍師。 孫権(そんけん)軍との同盟を成立させ、孫権軍の将                     軍周瑜と共に、曹操(そうそう)軍と戦う男。

趙雲(ちょううん)/フー・ジュン   張飛・関羽と共に劉備に使える勇猛な劉備軍の将軍。 

張飛(ちょうひ)/ザン・ジンシェン  関羽と共に劉備と義兄弟の契りを結んだ劉備軍の豪傑。

関羽(かんう)/バ?サンジャプ   張飛と共に劉備と義兄弟の契りを結んだ劉備軍の武将。
                          

【Part U ストーリー】

 孔明が周瑜に「曹操の水軍は無経験だ。・・川を渡るには蔡瑁と張允に頼るはず、彼等を消せば水軍は麻痺するだろう」と言う。
 
 曹操軍の陣地の門が開き、兵士たちが広場に集まった。 曹操たち幹部が見物している席の前で、蹴鞠の競技会が始まった。 槍を持って走っている集団の最後を走っていた兵が列を離れて近くの小屋に駆け込んだ。 兵は男装をして曹操軍に紛れ込んだ孫権の妹、尚香だった。 尚香は小屋の中で疫病に罹った兵士が大勢苦しんでいるのを見た。 尚香は鳩の餌を撒いて孔明が放った鳩を呼び寄せ捕まえた。 兵の一団が近づいて来たので彼女は慌てて鳩を懐に仕舞いこんだ。 何食わぬ顔で蹴鞠の競技場に戻って選手の応援をしていると、鳩が「グーグ・グッグ」と鳴いた。 周りに居る男たちが何事かと一斉に尚香を覗き込んだ。 尚香は「腹が減って・・・」と言いわけをし、おなかを叩いて誤魔化した。

 周瑜が眼前に曹操軍の見える赤壁の高台に立って、一本の矢を手に持ち眼下の壷をめがけて投げた。これが見事に壷に入った。 これを見ていた関羽、黄蓋将軍、魯粛 達が同じように矢を投げるが誰も壷に入らない、張飛が矢を両手に一杯掴んで一度に投げたが1本も入らなかった。 張飛が「小さくて入りゃしない」と言うと、見ていた孔明が「大きくても無理ですね」と言って笑った。 関羽が「投壷は貴族の遊びだから、戦時に武将がやるものではない」と負け惜しみを言う。 再び周瑜が矢を投げると又壷に入った。 張飛が「どうやったらそんな神業が出来る?・・・」と聞くと、周瑜は「集中力だ・・・平静心を失わなず、恐怖を克服すれば、小さな石でも巨人を倒せる」と答えた。 

 競技場の幹部席で蹴鞠の競技を見ている曹操に部下が「軍兵の少ない周瑜は埋伏しているのでは?・・」と聞いた。 曹操は「あの生意気な周瑜が埋伏などするわけがない。・・必ず正面から迎え打つだろう」と答えた。 

 赤壁の高台で魯粛 が「敵は戦闘準備に入った。・・・計略を練ろう」と周瑜に話す。 周瑜が「敵は正攻法で我等を包囲しようとしている。」と言い。 孔明は「先発隊は休めても、後発隊は疲れているはずだ」と言った。 周瑜は「いかなる攻撃であろうと防ぐ、我等には精鋭部隊と地の利がある」と説いた。

 曹操は蹴鞠を見物しながら、「この戦いは、水軍の勝利にかかっている。・・・蔡瑁と張允に指揮を執らせよう」と部下に伝えた。 さきに曹操の下へ投降していた荊州の蔡瑁と張允は「身命を尽くします」と曹操に頭を下げた。

 高台で周瑜は「やつは我が水軍をなめてかかるはずだ」と言いながら、また矢を一本壷に投げた。 矢は見事に投壷に入った。

 曹操は蹴鞠大会で優秀な成績を収めた孫叔財に「蹴鞠も素晴らしいが、立派な兵士だ、今日からお前に1000人の部下を与える」と告げた。 さらに、「皆も蹴鞠に励め、強靭な肉体を作り、呉を討伐したら向こう三年間納税を免除してやる」と告げた。 兵たちは両手を重ねて頭上に上げ、深々とおじぎした頭と共にその手を膝まで下ろして「感謝します」と礼を述べた。 皆が歓喜の声をあげ、飛び跳ねて喜んだ。

 尚香は馬小屋で鳩の足に通信文を巻き付け空に放った。 あいにくそこに千夫長となったばかりの孫叔財が来て鳩が顔に当たった。 孫叔財が「何をしていた?・・」と聞いた。 尚香は「放生・・・鳩を放してやったんだ」と言いつくろった。 孫叔財は「お前、いい奴だな・・・言葉がなまってるが、南方の出身か?・・・情が深いんだろ?」と聞いてきた。 尚香が「北方人はやりてだよな?・・」と言うと「わしは違う、要領が悪いと馬鹿にされている」と孫は答えた。 「ちがう、正直なんだよ・・・蹴鞠がうまいな」と尚香は誉めた。 孫叔財が「名前は?」と聞いてきた。 尚香は「えーと・・この腹を見て、母さんは胖猪と呼ぶんだ」と答えた。 尚香が「千夫長になってよかったな」と言うと「昇進したら飯はたくさん食えるのかな?」と聞く。 「好きなだけ食えるさ」 「うちは貧乏で俺を養えないから俺は兵隊になったんだ」 「じゃあ、この胖猪とは良いコンビだな」

 医者が曹操に報告に来た「環境の変化と長期の戦いで、心身が疲労し、病人が続出しています。・・・いわゆる風土病で」 「治せるか?」 「はい・・でも時間がかかります」 曹操が案内されたテントの中は死体の山で、死者は100人以上、今後も増えると報告された。 医者は「感染を防ぐために火葬にします」と言ったが、曹操が「ちょっと待て、・・・」とそれを止めた。
                                    
 孔明の下に鳩が戻ってきた。 足に巻いた通信文を外し読む。 ”疫病蔓延”  孔明は「気候に適応できず、曹操軍で疫病が・・・」と仲間に報告した。 それを聞いて黄蓋将軍が「絶好の機会だ。・・・一気に攻め討とう」と言ったが、魯粛は「水軍はまだ健在だ」と慎重論を述べた。 張飛も「今こそ攻める時だ」と言ったが、周瑜は「堂々と戦ってこそ勝利の意義がある」と皆を諭した。

 その夜、曹操の見守る前で曹操軍の死者を送る儀式が行われた。 祈祷師の「死者を流せ!」との叫びで、小船に載せられた死体が対岸の赤壁に向けて押し出された。

  連合軍の兵士は、赤壁に流れ着いた死体を乗せた小船を岸に引き寄せ、死体を浜辺に陸揚げした。 見物に集まった兵士や避難民が死者の鎧や持ち物を奪い始めた。 その時空が一転暗くなり太陽が欠け始めた。 孔明は死体の血液を調べて「触るな!・・・疫病で死んだ者だ!・・触ると感染するぞ!。・・・早く退散しろ!」と叫んだ。 趙雲は周瑜に「曹操の計略です。」と話す。 孔明は「疫病が広まるのを防ぐため、遺体に触れたものを隔離せねばなりません。 多くの民も感染したかも?・・・」と周瑜に伝えた。 関羽は「曹操め、汚い手を使いやがって・・」と憤慨した。 「あの死体はどうする」 「魚の餌にしてしまえ」と言う者もいたが、周瑜は「葬ってやらねば・・・」と言う。 しかし、孔明は「埋葬は駄目です・・・火葬にせねばなりません」と言った。

 夜になって浜辺で、兵士たちが整列し見守る前で、高く積み上げられた筏に火が付けられた。 炎は夜空を赤く焦がし、死者の魂を乗せた白い布の袋が、明かりを灯して夜空に浮いて流れた。

 曹操は兵士を集め前祝の宴を行っている。 曹操が吟じる「歌を唄い、杯を高く掲げ、人生を語ろうではないか。 男の生き様は朝露の如し、過ぎ去りし苦難の日々よ。 憂いに満ちた忘れられぬ思いがこみ上げる。 この悲しみは天の涙となりて降り注ぐのか。 青き衣をまとい思いにふけらば、大義のために歌い続けてきた己がいる。 鹿達が草をはむ草原で、鼓を鳴らし笛を吹いて皆に敬意を表しよう。」と唄って杯を高く掲げた。 兵士たちが「オウ・・オウッ」とこぶしを頭上に掲げた。 曹操は続けた「輝く月の光が、消えることは決してない。 心の底から湧き上がる思いは決して誰にも止められまい。 月の周りの星となり、南の空へ飛ぶ鳥よ、休むことなく羽ばたき、どこに巣を作らん。 険しい山の絶壁だろうと、深い水の底だろうと、我等の行く手に天下あり」 兵士たちが再び時の声をあげ、槍や刀を夜空に突き上げた。

 孫権と周瑜の連合軍の兵士や民が疫病に罹り、病人が広場を埋め尽くした。 小喬も孔明も黄蓋も皆が手分けをして病人の看護に当たった。 周瑜が孔明に「病人が増えて居るが、薬は足りているのか?」と聞いた。 孔明は「桂枝を兵士に取りに行かせた」と答える。 孫権が「桂枝が病気に聞くのか?」と聞くと、孔明は「症状を和らげるだけで、治療には別の薬が必要です」と答える。
 
 そこに兵士を引き連れて張飛が来る。 彼は部下に「早く兵を運べ」と命じて病人を運び出し始める。 孫権が「張将軍何をしている!・・・病人を動かしては駄目だ」と叫ぶ。 魯粛も「やめろ!・・病人を動かしてはならん」と引きとめようとする。 孫権は劉備軍の兵士の動きを見て劉備に「発つつもりなのか?・・・」と聞いた。 劉備は「周都督・・・もう我等の手には負えん・・・私の兵は2万だ。・・このままではすべてを失う。 隊を整備する時間が必要だ」と言う。 孫権は「混乱の最中に自分だけ抜けようと言うのか?・・・・同盟を提案したのはそっちですぞ。・・・背信行為ではないか」と劉備に言う。 張飛は「我等だって痛手を負っているんだ」と答える。 孫権が「勝手すぎる・・」と言い、張飛が「何だと!・・」と言ってつかみ掛かろうとする。 劉備がそれを止める。 孔明が「じき戦いが始まります。 今発つのは?・・」と劉備を引きとめようとするが、劉備は「孔明。・・・負け続けの私には、もはや失敗は許されぬ。・・・私を慕う兵士の命を守らねばならぬのだ」と答える。 孔明が「信義を破ってはいけません」と説得するが、劉備は孔明に「この乱世、己の信義だけを貫くことは出来ぬ。・・・そのうち、また機会が訪れるだろう。・・・いつか、理解してくれると信じている」と言う。  周瑜は「劉備殿、・・共に戦えて光栄でした。・・・同じ目的のために戦う日が又来ますよう・・・お元気で」と告げて、両手で顔の前に輪を作って頭を下げた。 劉備も同じ仕草で「あなたも・・・」と別れの挨拶をした。 「必ず再開を・・・」と趙雲は周瑜に告げて馬上の人となった。 孫権は孔明に「行かぬのか?・・・」と聞いた。 孔明は「己が始めたことは、己が終わらせないと・・・」と答える。 周瑜が孔明に「気が触れたと言われるぞ」と言ったが、孔明は「周瑜殿も・・・」と答えて、苦笑いをする。

 曹操がお茶を飲んでいるところに部下が「計略が功を奏し、敵が混乱しています。・・・劉備も兵を引き上げたそうです。・・・同盟の決裂です」と報告に来る。 

 周瑜が部屋の中で剣武を舞い跳ねる。 そばで見ている妻の小喬が唱う。 「その疾きこと風の如く、・・・その徐かなること林の如く、・・・侵掠すること火の如く、・・・動かざること山の如し。」  周瑜が剣舞を終えて、小喬の点てた茶を飲みながら尋ねる「戦いが嫌いなのに、なぜ兵法を知っている?・・・」  小喬は「あなたを知りたくてこっそり本を読んだの・・・」と答える。 周瑜が「どの本もそなたの茶には負ける」と誉めると、小喬は「喜んでくれて嬉しい」と言い、「互いを理解するために戦いを忘れて曹操を茶に招いてはどうですか?・・・」と提案する。 しかし、周瑜は「彼に味が分かるとは思えない」と答える。 小喬が「まるで曹操に斬りかかっているようね」と言い、周瑜は「巧妙で卑劣な手だ」と答える。 
           
 曹操が馬に乗って船団の視察に来る。 蔡瑁と張允が出迎える。 「水軍の訓練状況はどうだ?」 「順調です。・・・鉄材と木を使って船と船を連結させました。・・・これでもう揺れないでしょう。・・・兵士の船酔い対策は万全です。」 蔡瑁が答えた。
 尚香がやぐらの二階に隠れて、白い布に曹操軍の兵や船の配置を書き取っている。 「離せるのか?」曹操が聞いた。 「もちろんです。」 蔡瑁は答えた後で、「船を離せ!」と命令した。 兵士たちが素早く、角材の止めを外し、各々の船に引っ張り込んだ。 「連結を解除すれば,個々に移動でき迅速に戦闘態勢が取れます。」 蔡瑁の説明に曹操は「さすが名だたる名将だ、素晴らしい策だ」と誉めた。

 曹操は「蒋幹・・・周瑜と幼なじみだったな?・・・」と蒋幹に声をかけた。 「はい、共に学んだ仲です。」 「奴に投降を勧めろ」 「投降ですか?・・・」 「孫権の信頼厚い男だ、決して投降はないとは思うが、混乱に陥り劉備も去った・・・説得すれば投降もあるだろう」 「承知しました」

 やぐらの二階から降りてきた尚香が振り向くと、千夫長になった孫叔財の兵が整列している眼の前だった。 驚いてうろたえている尚香に孫は「兵士がついてきて困ってるんだ」と言う。 尚香は「もう千夫長なんだから、何か命令すれば?・・・」と答える。 孫は「今から蹴鞠の練習をせよ」と兵に告げる。 兵たちは整列し駆け足で去っていった。 孫は「うまくいった。・・・遊ぼう」と言って二人で駈けだす。 「何して遊ぼう?・・」 「肩車が良い」 孫は「よし、乗れ!」と言って肩車をしてやる。 尚香は塀の外の船団の見える場所まで孫を行かせて、その配置図を肩車のまま孫の頭の上で白い布に写し取る。 「もう少し左を向いて・・・」 「そっちは船しかないぞ」

 孫権・周瑜・孔明・魯粛が集まっている。「曹操軍は数十万の大軍に、2千隻の船。 わが水軍3万では圧倒的に不利です。」 魯粛が「勝つのは厳しいぞ」と言う。 孫権は「呉の命運が懸かった戦いだ。 勝てなくとも負けられぬ」と言う。 魯粛が「矢の保有数はどのくらいか?」と聞く。 黄蓋が「5万本ほどしかない・・劉備が4万本持っていった」と言う。  周瑜は「矢がなくては戦いも出来ない」と言う。 「ならば私が用意しましょう。・・・」と孔明が言った。 周瑜は孔明に「主君が持ち去った数どころか、10万本は必要だ・・・用意できるのか?」と聞いた。 孔明は「もし、用意できなかったら、この首を差し上げましょう」と答えた。 周瑜が「猶予は10日間。・・・兵糧もそれだけしかない」といったが、孔明は「いいえ、3日もあれば十分です」と答えた。 「戦時に戯言は不要だよ」周瑜の言葉に孔明も「都督が蔡瑁と張允を始末できぬときはどうしますか?」と問うた。 周瑜は「私の首をやろう」と答えた。

 孔明が岸辺に立ち天を眺める。 雲がにわかに湧き出で龍の如く猛り狂う。 孔明が亀を手にして言う。「夜は天河、昼は蛇雲が浮かぶ。・・・」  魯粛が来て「一晩中ここに居たのか?・・・矢は作ったのか?」と聞く。 孔明は「魯粛殿、ここは風水に恵まれた素晴らしい土地ですな」と答える。 魯粛は「何を悠長なことを言ってる・・・用意出来なければ死ぬぞ・・・依頼された20艘の船と兵は用意したぞ。・・・あと1日しかないのになぜ矢を作らん」と訊ねる。 孔明は「私の変わりにその亀が働いてくれる。・・・まもなく霧が立ち込める」と言った。 黄蓋が「立ち込めるのは不安だよ。・・・何か策があるのかね?」と聞いた。 「天は秘密を明かさぬもの」孔明はにやりと笑った。

 周瑜の家に幼なじみの蒋幹が来ている。 料理を前にして周瑜は歌を唄い「覚えているか?」と蒋幹に聞く。 蒋幹は「昔のお前は歌ばかり唄っていた・・・それが今じゃ大都督さまだ・・・10歳の時、ごろつきを殴った後で、俺にその棍棒を握らせただろ、俺はこっぴどく殴られた」と昔話が弾み、共に歌を口ずさむ。 周瑜が「お前の筆跡を真似て先生の書物にいたずら書きをしたな」と言って笑う。 「今でも俺は忘れん。 20回も尻を叩かれた。」 「子供の頃はよく悪戯をしたな」 周瑜は立ち上がって「剣を持て!・・・」と部下に言い、剣を持ってこさせた。 周瑜が剣を抜き舞を舞おうとした時、剣の鞘の中に隠されいた手紙が落ちた。 蒋幹がそっと手を伸ばして取ろうとしたが、周瑜の剣が手紙を押さえた。 蒋幹は「お前の剣舞は最高だ」と繕う。 周瑜は見破っており「お前は曹操の使いか?・・」と詰問する。 「使い?・・・誤解するな、旧交を温めに来たのさ」蒋幹は誤魔化すが、「お前の歌を聞けば分かる」と周瑜は言った。 「俺を信じないのか?・・互いに主君は違うが、・・・・」 「もう良い・・どうせ数日後には奴の首が足元に転がるんだ」 「そうだな」

 そこに部下が駆け込み「都督・・・急報です」と告げる。 周瑜が部屋を出たので後を追った蒋幹は、周瑜と部下の会話を立ち聞きする。 「矢がなくて戦えるか?・・・準備できなかったら孔明を殺せ」 「蔡瑁と張允が手引きします」 「彼らにはもっと重要な任務がある」 「あの2人の偽りの降伏が発覚しませんか?・・」 「まだばれていない、・・彼らからの密書だ」 周瑜は先ほどの手紙を部下に見せる。 蒋幹の驚きは大きく顔色が変わった。 何食わぬ顔で戻った周瑜が「さあ、今日はとことん飲むぞ」と言って酒席に蒋幹を連れ戻した。 蒋幹は「曹操が南伐に乗り出したのは、夫人が目的だとか?・・」と言う。 「そうか」 「よく人妻を奪うらしいぞ」 小喬夫人が笑って聞いている。

 夜、周瑜と蒋幹は一つの布団に並んで寝ている。 蒋幹があたりを伺いながらそっと起き上がろうとする。 周瑜の手が蒋幹の身体を押さえるように胸の上に乗る。 蒋幹は周瑜が眠っているのを確かめて、その手をそっと降ろして起き上がる。 周瑜の着物の袖の中から先ほどの手紙を抜き取って読む。 ”我等が曹操に投降したのは保身の為ではない。 北軍の陣にワナを仕掛けた。 必ずや近いうちに逆賊曹操の首を捧げられよう。・・・知らせを待たれたし。 蔡瑁より” 周瑜が起き上がって「何を見てる!・・」と言って肩を叩く。 驚いている蒋幹に周瑜は「ほんのいたずらさ」と言う。 蒋幹は「昔から悪戯好きだものな・・・」と言って苦笑いをする。 周瑜は「そうだ、お前に仕掛けたのさ」と言って再び寝るが、蒋幹は「今度こそ騙されるものか」とつぶやく。
                                         
 霧が河面に立ち込めて視界の届かぬ夜、周りを藁で囲い亀のようになった船の中に孔明と魯粛が居る。 魯粛が藁の案山子を持ち上げて「案山子よ、あいつに聞いても教えてくれないから酒でも飲むか」と言い、孔明がそれを見て笑っている。 同じように藁で囲まれた大小船が何十艘も、霧の中を対岸に向かって流されていく。 魯粛が「お前なぜここに来た?・・ヤツ等を投降させられるのか?」と聞いたが、孔明は無言だった。

 曹操軍の見張りの男が、霧の中に見え隠れする小船を見つけて「敵だ!・・敵の船だぞ!」と叫ぶ。 材木で繋いだ船を離して、各船が一斉に出撃する。 孔明は太鼓を打ち鳴らし曹操軍に所在を教える。 魯粛が「鼓を鳴らすな、攻撃されたらどうするんだ」と心配するが、孔明は「濃霧だから奇襲は受けない」と答える。 曹操軍の指揮官蔡瑁は「弓部隊 準備!・・・見えたら射撃せよ!」と命じる。 孔明は自軍に「横列陣を取れ!」と命ずる。

 曹操軍の集結所で、曹操は蒋幹が持ち帰った手紙を見て「離間策に過ぎぬ・・・」と言うが、蒋幹は「周瑜がこんな見え透いた計略を使うでしょうか?」と問う。 曹操の部下が「時には単純な計略が命取りになることもある」と答える。

 孔明は自軍に「発射!」と命じ矢を放つ。 それを見た蔡瑁が「発射!」と命じると、無数の矢が飛んで行く。 魯粛は船の中で驚いて震えて居るが、孔明は酒を飲んで笑っている。 船の側面を覆う藁束にも藁の案山子にも矢が無数に刺さっていく。 

 曹操軍の集結所で、曹操に部下が「計略か否かに係わらず、警戒すべきです。」と告げ、別の部下も「蔡瑁が裏切れば我等は苦境に・・・」と告げる。

 軍船を指揮している蔡瑁は「発射!・・」と大声を繰り返し、さらに次々と矢を射掛ける。 藁舟には隙間なく矢が刺さっていく。

 曹操軍の集結所で、蒋幹が曹操に「書状のほかにも、矢を提供させると話しているのを聞きました」と告げる。 曹操が「蔡瑁と張允を呼べ」と命じる。 「現在水軍を引率中です」 「来られないなら筆跡を調べる。・・投降書をもってこい!」

 わら船の中で孔明は「船を反対側に回せ!」と命じる。 太鼓の合図ですべての船が半回転をし、再び横列陣を取る。

 曹操軍の集結所で、曹操は「誤字まで含めて完全に筆跡が一致する。・・・蔡瑁め裏切ったな」とつぶやく。

 軍船を指揮している蔡瑁は「音のするほうに発射!」と霧で見えない敵に弓矢を放つ。 孔明軍の船はやがて反対側も矢で埋まる。 孔明は「帰還する!」と告げる。 蔡瑁は「たわいも無い」と逃げ帰る船を見て高笑いをする。 孔明は「矢はありがたく戴く」と言って笑う。 魯粛も「いやあ、曹操様様だな」と言って笑いが止まらない。 魯粛は船の外を見て「こりゃ見ものだ・・・なぜ、霧が出ると分かった?」と聞く。 孔明は「天河と蛇雲は濃霧の前兆。天地陰陽の変化を読めば天地万物、森羅万象を味方にすることが出来るのだ」と説明する。 矢で埋まった無人の小船が1艘回収出来ないままで流されていった。

 蔡瑁と張允が勝ち誇った顔で凱旋する。 蔡瑁が待ち構える曹操の前に進み出て「小戦なのに盛大な歓迎で恐縮の至りにて・・・」と挨拶する。 曹操は「小戦か?・・・敵軍はいかほどか?」と聞いた。 蔡瑁は「濃霧で数は不明です」と答えた。 「ならばいかにして撃退を?・・」 「乱れ撃ちです」 「いかほどに矢を使った?」 張允が「約10万本だ」と小声で教えたので蔡瑁は「約10万本です」と答えた。 「なぜ撃墜しなかった?」 「霧中の埋伏を警戒しました」 「なるほど・・・霧で確認もままならなかったので、追尾しなかったのだな」 曹操が詰問している時に、沖合いに孔明が回収出来なかった小船が1艘、矢に埋まって流れ着く。  華佗が矢が無数に刺さった案山子を1体船から引き上げて、蔡瑁と張允の前に持ってくる。 曹操が蔡瑁に「案山子を相手に乱射したのか?・・・・10万本だとな?・・大した太っ腹だ」と言う。 蔡瑁が「丞相 お許し下さい。」と膝まづくが、「今日が矢なら、明日はお前等のクビをやるか」と言って、手紙を取り出して投げつける。 手紙を読んだ蔡瑁は「周瑜の計略です」と言って張允に手紙を見せる。 張允も「我等は間者などではありません」と言うが、曹操は「黙れ!・・・お前等を信じて重要したのに、私を裏切ったな・・・断じて許さん!・・・・護衛兵!・・・直ちに斬首せよ!」と命令する。 兵士が二人を引っ立てる。 部下の華佗が曹操に「彼等を切ったら水軍は誰が指揮をとるので・・・」と中止させようとする。 曹操が処刑を「待て!」と言ったときには、すでに処刑は実行されていた。 尚香は目の前で行われた処刑に驚いた。

 孫権軍の港では回収された矢を2百本ずつの束にして、数を数えながら陸揚げしている。 黄蓋が「敵の矢で攻撃できるとは、愉快だな」と言う。
 孔明が兵士を集め、矢を十連発できる弩と言うものを作ってその扱い方を教えている。 
 魯粛が周瑜のところにやって来て「都督・・・矢は全部で99,600本でした。」と報告する。 周瑜は孔明に「さて・・どうする?」と聞く。 魯粛が「足りないのはたったの400本ですし・・・」というと、周瑜は「1本でも約束は約束、軍法は絶対だ」と答える。 孔明は魯粛に「そうです・・・満たせぬ場合の処分は?・・・」と聞く。 魯粛は「斬首だ!・・」と答える。 その時、弓の束を担いだ兵士が3人駆けていく。 魯粛は「お前等遅いぞ・・・さっさと運べ。」と兵士を叱り、「10万と200本なら約束は守れたぞ。」と喜ぶ。 孔明は「私の首はつながったようですな・・・次は都督の番です」と言う。 周瑜が「私の首が欲しいか?」と聞く。 魯粛が「戯れだ・・・むきになるな」と言うが、孔明は「ならば、先ほどのも戯れか?」と聞く。 周瑜は「もちろん戯れではない」と答える。 周瑜は自分の剣を抜いて部下に渡す。 そこに鳩が戻ってくる。 孔明は足につけられた手紙を取り出して読む。 孔明は「都督殿。首がつながりましたな、・・・蔡瑁と張允が斬首になりましたよ」と言う。 周瑜と孔明は顔を見合わせて笑った。 魯粛は「心配して馬鹿を見た」とつぶやき「敵の矢を奪ったし、仲間割れもさせた。・・・二人の計略が功を奏したな」と言った。 孔明は「激怒した曹操は、数日内に決着をつけようとするはずだ」と言い、周瑜は「蒋幹は惜しい男なのに・・・旧友を失うだろうな」とつぶやいた。
                   
 曹操は自室で、宴会を催し華佗等部下たちに「今頃周瑜は、私が奴に騙され激怒していると思っているであろう。 今日は腹いっぱい食って飲め。 乾杯だ!」と言い、蒋幹に「今日はお手柄だった・・飲め!」と言う。 蒋幹が「いただきます」と言って杯を干す。 蒋幹はすぐに苦しみ出し、酒を吐いてその場に倒れた。 曹操は「愚かな奴め・・・私を苦境に追い込んだ報いだ。・・・」と言い、華佗ら部下たちに「聞け!、2日以内に対岸の赤壁を制圧せよ・・」と命じた。 曹操軍の兵士たちが出撃準備に動き出した。 尚香は馬小屋に走りこんで、藁の仲に隠しておいた鳩カゴを取り出す。 足に手紙をつけたとき「何をしてる!・・・間者だ!」と兵士が駆け寄ってくる。 尚香は鳩を空に放り投げる。 鳩を弓で射ようとする兵士を倒して逃げる。「捕らえろ!」 「逃がすな」 大勢の兵士たちに取り囲まれた時。 「いったい何事だ?・・」と言って孫が駆けつける。 兵士が「間者だ」というが、尚香が「誤解だ・・」と言う。 孫は「俺の友達だ」と言い、「馬鹿を言うな」という兵士たちと乱闘になる。 孫の部下が「千夫長がやられてる」と言って救援に駆けつけ、さらに大きな騒ぎとなる。 尚香は「母さんが病気なので急いで帰る」と孫にウソを言う。 「それじゃ急がなきゃ」 「お前も早く帰れ・・」 「いや、戦いに勝って帰る。・・・免税になれば家族も食える。・・早く行け」 「必ず又会おう」

 曹操が病人の収容されたテントに行く。 「この18年間私は負け知らずだ。・・赤壁を掌握できなければ、その恥辱に耐えられまい」と言い、「状況はどうだ?」と聞く。 「病人が増える一方で、勢いが止まりません。 1ヶ月間はこの調子でしょう。・・恐れながら攻撃を遅らせられたほうが・・・」  曹操は顔見知りの部下が寝ているのを見て近づき「あれほど頑健なお前がなぜ病に罹った。・・元気を出せ」と言う。 「帰りたいです」 曹操が言う。「私も久しく帰ってないから末の子に逢いたい。・・・曹沖はまだ13歳だ。慈悲深くて聡明だが、小さい頃から病気がちだった。・・ だが私の前では元気を装った。・・・苦しくとも、気取られまいとしていた。・・」 曹操は足元の砂を掴み兵士たちに告げる「皆に誓う。・・私が始めたこの戦いは、世にはびこる賊軍の征伐だ。 赤壁を掌握し、敵城を落とさねばならぬ。 この地の土を持ち帰り、我等の家族に誇らしく語ろうではないか。・・・”我等は勝った”と!。・・・それまで必ず生き延びろ。・・・私は改めて皆に誓う。 必ず皆を家に連れ帰る」 皆が立ち上がり「我らに勝利を!」 「我等に勝利を!」と合唱し、大地を武器を打ち鳴らし続けた。

 孫権軍の作戦本部に尚香が戻ってきた。 小喬も「お帰りなさい」と言って出迎える。 兄の孫権が「尚香・・・心配懸けおって何処にいた。」と聞く。 尚香はそれには答えず「敵の攻撃はすぐよ」と言って着物を脱ぎ出す。 小喬に端を持たせて、腹に巻きつけた白い布を身体を回転させながら解いていく。 尚香は「敵陣の地図よ。・・・ここが曹操軍の本営。・・精鋭部隊が守っているの」と言う。 白布には陣形や配置が細かく書いてある。 「ここが兵営。・・東西に防御柵をめぐらせているけれど、後方の山側は手薄よ。・・・水軍の3分の1は守備についている。・・戦船が前で後方に小船、そして中央に輸送船。連環陣よ。・・どの船も攻守完備で・・・」 小喬が脱いだ着物を肩にかけてやると、兄の孫権が後ろから労をねぎらう様にそっと抱きしめてやる。 「すまなかった」

 曹操軍の華佗ら部下が「お前ならどう攻める?」と話し合っている。 それを聞いて曹操は「火計を使いたいだろうな」と話す。  「火計はありえません」という華佗に、曹操は「無勢に援軍も無いなら、当然火計しかあるまい、それが兵法だ・・・だが、今は無理だ、北西の風が吹く時期に、もし奴等が火計を使えば逆風で火をくらい自滅する。・・・我等が火計を使おう。・・・明日は硫黄をたくさん積んで置け。・・・赤壁を焦土にしてやる」と命じる。

 孫権軍の作戦本部。 曹操軍の配置の模型を前に幹部を集め孫権が言う。 「敵は戦闘準備を終えた。 決戦は今夜だ。・・・生きるか死ぬか、総力を挙げて戦わねばならぬ・・・・」  尚香の書いた地図を見て周瑜が「尚香、この船間の線は?」と聞いた。 尚香は「笑っちゃうは、船と船を繋いでいるの。・・・奴等なりの船酔い対策よ」と答える。  周瑜は「我等に好都合な設営だ。・・・奥の船は身動きが取れないから陣の建て直しも出来まい。・・・火計を使って敵の弱点を突く。・・先頭の船団が燃えれば、奥はひとたまりもあるまい」と言う。 黄蓋が「私に十艘の火船をくれ。 2艘は船団の両翼に当て、残った8艘は中央に突入させる。 炎上したら、全軍を中央に移動するんだ。・・・これならどんなに大軍でも中央を突破できる」と言う。 魯粛も「もし劉備軍が陸から攻撃してくれるなら、挟み撃ちに出来るな」と言う。 周瑜が模型の船に火をつけて、「風向きは敵に有利だ」と言い、孫権も「いまは北西の風だ、火計を使えば自滅する」と言う。 周瑜は「当然敵も火計を使おうとしているだろう」と言う。 孔明は部屋の外に出て天雲を見る。 黒雲が怪しく湧き出て空を覆う。 尚香に孔明は「ごらん。 東の空で黒い雲が太陽を覆っている。・・・時期的に珍しいのでは?・・」と言う。 孫権が「何を言いたいのだ?」と聞くと、孔明は「風向きが変わる」と言った。 さらに「農業の経験から、暖冬に太陽をさえぎる黒雲が現れると、長江沿岸で特別な風が吹きます」と付け加えた。 「特別の風とは?・・・] 「南東の風です。・・・つまり南東から北西に吹く風です」 「曹操も知っているのか?・・」 「彼が殺した蔡瑁なら知っている」 孫権が「いつ風向きが変わるか分かるのか?・・」と聞いた。 孔明は「今夜か明朝かと?・・」と答え、周瑜は「風向きの変化が勝敗を決するか?」と聞いた。 孫権は「敵の攻撃を遅らせることが、勝利を収める鍵だ」と言った。 小喬がそっとその場を離れた。

 兵士が魚を捌いて魚油の製造に取り掛かった。 甘興が手榴弾を作らせて投擲し火力を試して見る。 「威力が足らん。・・・まだだ、やり直し」何度も油の配合を変えてみる。 「この強風じゃ、風向きが変わらない限り、敵の船団に近づけません。」 黄蓋将軍がが周瑜に
「何かの理由をつけて私を棒たたきの刑にしてください。・・・偽の投降で奴を信じさせた後、敵の船団に火をつけます」と申し出る。 周瑜は「傷ついた身体で戦えるか?・・・将軍を叩くことは出来ぬ。・・・安ずるなきっと東風が吹く」と答えた。 そこに、「旦那様、大変です」と妻に付いていた下女が駆けて来る。 「奥様がいらっしゃいません」
                                        
 周瑜が部屋に戻ると小喬の置手紙があった。 ”あなたが手紙を読む頃は、もう曹操のところへ向かっているでしょう。 私に出来ることはただ一つ、東風が早く吹くよう心から祈ることだけ、清らかなる長江の流れよ、緑なる山よ、鳥は巣をつくり、夜毎漁師は歌を唄う。 美しき山河、それが我がふるさと、誰もが愛するこの地を私も守りたいの。 おなかの子が3ヶ月になったわ、心を乱すと思ったから言わなかったの。 だって、この子を守るために、この地の子らは捨てられない。 戦いのない平和なこの地で、みんなが育つのを見たいの。 河で泳ぎ、花を摘み、稲を植える。 心配しないで、必ず「平安」と一緒に帰るわ。” 小喬は小船に乗って対岸に渡った。 部屋には生まれてくる子供の産着があり、名前を考えた文字が何枚も書かれていた。

 軍を引き上げた劉備は趙雲、関羽、張飛と「伝統的なものには意味がある。例えば、この米粉と砂糖は再開した家族のようにまとまる。」と言いながら小屋の中で団子を丸めている。 劉備は趙雲に「子龍、どうだ、傷は癒えたか?」と聞く。 趙雲は「戦えないなら傷など関係ありません」と答える。 続いて劉備は関羽に「二弟、春秋は何回読んだ?」と聞く。 関羽は「兄弟愛を知らぬ者の本など読むだけ無駄です」と答える。 

 孫権軍の兵士が整列しているところに「今日は冬至よ、皆取って・・・甘い団子よ。2つか3つは皆食べてね」と言いながら、尚香が車に団子を乗せて運んでくる。 甘興が自分の皿にある団子を1個周瑜の皿に入れてやる。 魯粛も1個周瑜に渡す。 続いて黄蓋将軍や各隊の隊長が団子を周瑜の皿に渡す。 尚香も孫権も続いて渡し、全員の団結心を確認する。 

 劉備が団子を作っている小屋の中で張飛は「長兄・・ここで何をしているんだ。」と聞く。 劉備は「待っているんだ」と答える。 「何を?・・」 「孔明をだ。・・・戻ったら家に帰ろう」 趙雲が「どこに家が?・・・」と聞く。 張飛は「長兄、・・おれは今まで一度も逆らったことはない。 だけどこれは何か間違ってる。」と言う。 劉備は「皆のことを思ってのことだ、私に仁を説くな。・・・私と一緒にいるのは生きて居たいからだろう」と答える。 趙雲は「時には命より大切なものがあります」と言って席を立ち、槍を持って小屋を出た。 関羽も張飛も槍を取って後に続いた。 劉備は軍旗を掴み、「都督殿、・・勝ってくれ、そしていつか必ず会おう」とつぶやく。

 孫権が兵に告げる。「東呉の息子よ聞け!。今日は冬至。 家族団らんの日だが、賊が我が家を脅かしているのに祝えるか?。 この地から敵を追い出した後で、心から家族と祝おうぜ!」兵士が雄叫びを上げた。 全員が皿を高く掲げ、皿の中の団子を口に入れた。
 二度三度、全員が雄叫びを上げた。 

 孔明は河辺に立って日の沈むのを見ている。 

 曹操に華佗が「周瑜の妻が一人で着ました」と伝えた。 曹操軍兵士の居並ぶ仲を小喬が曹操の前に歩み出る。 曹操の案内で小喬は部屋に入る。 

 周瑜と孔明が琴を激しく連弾する。 孫権が部屋にやって来る。 孫権が「従兄・・・計画を変更せねば・・・小喬の身の安全が先だ。 救出してから攻撃しよう」と言う。 周瑜は「変更は出来ぬ。・・・全軍で総攻撃をかけねばならない。・・兵の分散は出来ない」と答える。 魯粛が「我等は孤軍で戦うのだぞ。・・・援軍が居れば勝利の可能性も見える」と言うが、周瑜は「夢は決して諦めない」と答える。 魯粛は「一人で夢は見れない」と言う。

 周瑜は孔明に風向きを聞く。 孔明は「今夜、丑の刻に東風に変わるはず。・・・まだ友を信じているなら明かりで合図を・・・」と答える。 孫権は周瑜に「小喬が敵陣に居るのに、従兄は戦えるのか?」と聞く。 周瑜は黙って部屋を出る。

 曹操と小喬が部屋に入り、カーテンが下ろされた。 曹操は小喬に「一度だけそなたを見た。 後姿だけだったが、幼くとも美しかった。 そなたは茶室で蝶を取ろうとしていた。」と話す。 部屋の壁には小喬を描いた絵が張られている。 小喬は「私が欲しくて戦いを?・・・」と聞く。 「そう思うか?」 「父は丞相を誉めていました。・・曹操は正義に燃えた漢皇室の忠臣だ。若き英雄だと」 「だからこうして丞相になれたのだ」 「大勢の犠牲のもとにね」 「兵士たちが大勢病で倒れたそうだな。・・・劉備が逃げ、同盟も決裂したそうだな」 「ええ」 「周瑜は孤立無援となったか?・・・奴の差し金か?」 「私の意志よ」 「なぜ来た?」 「撤兵して欲しいの・・・もう勝者よ。・・・十分でしょう?」 「撤兵はない・・・私の前で周瑜がひざまずくまでは」 小喬は曹操の前にひざまずいた。 「何のまねだ?・・」 「夫のためでなく民のために来ました。・・・お願いです。戦いを終わらせた下さい」 「出来ぬといったら?・・」 小喬は走って、剣掛においている剣を取り、刀を抜いて自分の首を斬ろうとした。 曹操がその刀を奪い取って「やめな。・・・そなたには周瑜の最後を見てもらう」と言った。

 孫権軍は出陣の準備を終えた。 孫権は尚香に「何を考えている」と聞いた。 孫のことを思い出していた尚香は「友達のこと」と答えた。
                 
 曹操は小喬に「時が英雄を作るんだ」と言った。  小喬は部屋に残って茶を入れている。 曹操は「戦いが終わったら、お前の淹れた茶を飲もう」と言って立ち去ろうとする。 小喬は「一杯如何・・・落ち着くわ」と言って曹操を呼び止める。 出陣を前に、小喬の茶に気を引かれて部屋に引き返した曹操を、華佗たちは苦々しく思い見つめている。

 周瑜軍の船の上で黄蓋将軍が「まもなく曹操軍に対して攻撃を開始する。 敵を殲滅するまで船を降りるな」と言い、「家族に手紙を書いたか?」と問う。 兵士が鎧の下から手紙を取り出し破いて捨てる。

 曹操は小喬と茶を飲む。 小喬が「慌てずに、茶の色と香を楽しんで・・・」と言い、二人は茶香を楽しむ。 出撃の準備が整った兵たちは整列して待ち。 幹部の者たちは「まだか?・・・風が強くなったぞ」と曹操の来るのを待っている。 「分かってる。・・・茶を飲んでおられるんだ」 「茶だと?・・」

 小喬に曹操は「茶をうまく淹れる秘訣は何だ」と尋ねる。 「茶葉、湯の温度、水質、茶器、すべてが大事です。・・・特に湯の温度」 「温度か?」

 周瑜軍の魯粛が「見ろ!・・風がやんだ」と叫ぶ。 時刻を刻む水時計のメモリが下がっていく。

 小喬が曹操に「湯が沸き始めるまで待ち、泉のように沸いてきたら茶葉を入れます。・・・そして沸騰したら、ひしゃくですくい茶器に移します。」と説明する。

 周瑜に「風向きが変わり始めた」と報告がくる。 魯粛が「何を待ってる・・・」と聞く。 周瑜は「友を」と答える。 「何の話です?・・・劉備は逃げたのですぞ」 周瑜と小喬は顔を見合わせて笑い。「これも作戦の一つよ」と言う。 孫権は「欺くは味方からか」と苦笑いする。 

 小喬が茶器からあふれさせて茶を淹れる。 曹操が「あふれてるぞ」と知らせると、小喬は「丞相みたいだと思いません?。・・人の思いなど入る余地も無いほど、野望があふれている。 そんな人達の思いを丞相は赤壁に運んできたのよ」と言って淹れたばかりの茶を捨てる。 「丞相には茶は分かりませんわ」

 孫権が水時計を間ながら「都督ご命令を・・・」と言う。 周瑜は「丑の三刻に開始する。・・・黄蓋将軍は十隻の火船で攻撃を開始せよ。・・・」と告げる。  周瑜は「船陣が乱れたら、敵の注意を引くため、子龍が東門を攻める。・・・西門は劉備、関羽、張飛が攻めることになっている」と将軍たちに話す。 各軍団から攻撃開始の合図の紙風船が火を灯して飛ばされた。
 
 曹操は「華佗!」と部下を呼んだ。 「頭が痛い・・・華佗を・・」 「華佗は陣を去りました。」 「何だと?」 「もう居ません」

 孔明は天空の雲の乱れを見つめていた。 風向きが変わり、時期良しとみて出撃の合図をした。 上空一面に紙風船が火を灯して飛んだ。 黄蓋将軍が「出陣!」と叫んだ。 

 曹操が「この風邪は何だ?」と部下に聞いた。 「東風です」 「馬鹿を言え、あり得ぬ」

 黄蓋将軍の率いる火船が曹操軍に近づいた。 見張りの男が「前方に敵船が!・・・」と叫んだ。 「将軍 敵船です」 「急いで船を離せ!」 夜空に火を灯した紙風船が無数に浮き上がる。 曹操が「あれは何だ?」と聞く。 部下が「敵が飛ばした提灯です」と言う。 「提灯?・・」

 黄蓋将軍の率いる火船は帆を揚げて風を受け一気に敵陣に向かう。 孔明は「都督・・・今夜は天下三分の計の幕開けです。」と告げる。 周瑜は「失敗は許されぬ」と言い、魯粛は「孔明・・・お前は大した男だ」と孔明を誉める。

 曹操軍の本部に「敵船が猛速で接近中」と注進がある。 曹操は「急いで船を離せ!」と叫ぶ。 「もう離し始めています」

 (ここからの戦闘場面はこの映画のクライマックスです。 文字ではすべてをとても表現することが出来ません。 映画とテレビの違いはここにあると思います。 息の詰まるような興奮の連続をぜひ劇場で観て楽しんでください。)

 黄蓋将軍が船上で「火をつけろ!」と叫ぶ。 十艘の船に火が点けられると、船首に炎が一気に広がった。 「前進!・・」 船は帆に一杯の風を受けて突進する。  曹操軍の船は、船と船を互いに繋いでいた大きい角材を取り外すのに手こずっている。 火の塊となった船が曹操軍の船溜まりに突っ込んできた。 曹操は自軍の船が火を噴くのをただ眺めているほかなかった。 赤壁の船上で戦況を見ていた周瑜は「全速前進!」と全軍に号令をかける。 曹操軍の船では「早く離せ!・・」と叫びながら、船の切り離しにかかって居るが、火の回りが速くて船と船を繋いだ角材が取り離せない。 沖合いの船から順に燃え上がるので、陸側にもやった船は外に出たくても身動きできない。 火は風に押されてすべての船に広がる。 陸上では「大門を死守せよ!・・」との号令で、曹操軍は大門の内側になだれ込む。 黄蓋将軍は「主船に向かって前進せよ!」と号令を発す。 敵が放った弓矢が黄蓋将軍の胸に刺さる。 黄蓋将軍は魚油を積み込んだ船もろとも、曹操軍の主船に突っ込み大爆発を起して火の中に消える。 小喬は部屋の障子を破いて隙間から、曹操軍の船が大火災を起しているところを見て嬉し泣きする。
                                   
 周瑜は船橋に立って戦闘の様子を眺めている。 孫権も尚香も甘興も敵の船が目の前で爆発を起こし、兵士が吹き飛ばされているのを見ている。 曹操はこの現実が信じられないという面持ちで、ただ望然と立ち尽くす。 周瑜は「敵船に当てろ!」と命じて船溜まりに突っ込んでいく。 曹操軍の船は天を焦がす炎を上げて燃え、あたり一面が火の海となり、爆発し、海中に没していく。 

 裏手の丘の上に控えていた劉備軍の趙雲が白馬に乗って「攻撃!」と大声で合図をする。 怒涛の如く劉備軍が押し寄せる。 劉備もそれを見て「かかれ!・・」と号令する。 周瑜軍は船を砂浜に着岸し兵士が一斉に飛び出す。 甘興も「俺に続け!」と勢い良く飛び出す。 曹操軍も大門の上から弓や投石機で応戦するが、裏山から進入してきた劉備軍に背後を突かれる。 曹操の下に「大変です。 防御柵を突破されました。」と部下が駆け込む。 曹操は「取り乱すな・・・お前は大将だぞ」と諭す。 甘興軍は魚油で作った弾袋を門内に投げ込み、火矢で撃って爆発させた。 たちまち当たりは火の海となった。 両軍入り乱れての戦闘が続いた。 張飛将軍と関羽将軍が部下を率いてやって来る。 曹操の下へ「後門が猛攻を受けています。・・・劉備の軍です」と報告する。 「劉備?・・」 曹操は劉備と聞いて唖然とする。 

 劉備軍は馬の囲い柵を壊し、曹操軍の馬を逃がす。 周瑜は「中に入るまで兵は失えぬ。・・・あの門を破って劉備軍と合流せなばならぬ」と甘興に伝える。 甘興は「お任せを・・・」と言って駆け出した。 曹操軍からの投石機による投石や弓矢の飛来が激しくなる。 甘興は部下と共に突撃し、門前で盾を並べて止まらせ、「防御解除 発射!」と叫ぶ。 盾の影から交替に立ち上がった兵士が火矢を門に打ち込んだ。 しかし、雨霰のように飛んでくる矢に自軍の兵士がバタバタと倒れる。 甘興も倒れた仲間を助けに飛び出して、身体に数本の矢を受ける。 甘興は魚油を詰めた弾袋を「残りを全部寄こせ!」と言って持ち出し、5本の矢が刺さった身体で大門めがけて駆け出した。 甘興は大門に魚油の弾袋を投げつけ、自らも火ダルマになって爆死した。 周瑜は甘興の最後を見てしばし黙祷をした。 大門が火に包まれ崩れ落ちた。 周瑜は「総攻撃!」と号令を発した。 周瑜軍がなだれ込んだ。 応戦する曹操軍に周瑜軍は、孔明の考えた弓矢の連射器を使って戦った。

 曹操は「水軍が壊滅状態です。 東西南の3面とも火の海です」と報告を受ける。 曹操は高台に立って「辺り一面猛火に包まれておるな・・・」と言う。 部下が「不気味なまでに静まりかえっています」と言う。  盾で周囲も天井も固めて、亀甲のように固まった一団が火の海の中から現れた。 「一糸乱れぬように移動しろ」と声が聞こえる。 部下が曹操に「丞相 退却しましょう」と言う。 曹操は「退却?・・まだ精鋭部隊が残っておる。 死力を尽くせ。・・・いいか、最後の一人になるまで戦うぞ」と言う。 

 周瑜は盾で固めた亀甲の中で「火勢が強いぞ。・・集中しろ!・・・陣を崩すな!」と叫ぶ。 曹操軍がその周りを取り囲む。  張飛が「かかってきやがれ!・・」と言って盾の囲いから飛び出す。 孫権が「戻れ!」と叫ぶ。 張飛は「曹操来い!」と叫ぶが矢が体中に刺さる。 部下が張飛を囲いの中に引き込む。 関羽が盾の囲いの天井を走って、敵の中に飛び込み、槍を振り回して奮戦する。 張飛が関羽に「二兄 長兄は何処だ。」と聞いている時、張飛の背中に矢が刺さる。 盾で固めた中に居る周瑜は「速度を速めろ!」と言うが、敵軍に包囲されてしまう。 孫権は「陣を解け!」と叫んで飛び出す。  趙雲が槍を持って敵を倒す。 全員が城門に突入し双方死闘を繰り返す。
趙雲が、孫権が、周瑜が、矢と火石の飛び交う中で奮闘し敵をばたばたと倒していく。 

 曹操は部屋に帰り、壁に貼った地図を見ながら言う「袁紹を倒し、公孫サンも倒した。・・・この手に天下は治められないか。・・・ここが何だ。」

周瑜は趙雲を見つけて「もう逢えぬかと思ったぞ」と言う。 趙雲は「再会を約束したはずだ」と答える。 「甘興が死んだ。」 「価値ある死です」 孫権が周瑜に「火が迫っている。・・・小喬を救わねば」と言うが、周瑜は「曹操が先だ・・」と答える。

 曹操の部下の夏将軍たちは口々に「我等が惨敗を喫したのは、あの女のせいだ」 「好機を逸せさせやがって、殺してやる」 「殺そう!」と言っている。

 尚香が亀甲のように盾で囲まれた中に居る。 隙間から千夫長の孫叔財が見えた。 孫は「敵を通すな!・・・丞相をお守りせよ」と叫んでいる。  尚香が「叔財!・・」と呼ぶが声が届かない。 尚香は囲いを飛び出して孫のところへ走る。 孫が尚香に切りかかってくる。 尚香はとっさに曹操軍の兵士が冠る帽子を頭に載せて、「私だ!・・叔財。 胖猪だ!」と叫ぶ。 孫は「胖猪か?・・」と再会を喜ぶ。 そのとき飛んで来た矢が孫の腹に刺さる。 さらに続いて矢が刺さり孫は倒れるが、尚香の手を取り「胖猪・・・会いに来てくれたのか?・・」と言う。 尚香は泣きながら「お前と約束した」と言い、意識の遠のいていく孫を抱きしめる。。 

 周瑜と趙雲は二人で曹操のいる本陣に切り込み曹操を探す。 曹操の部下の夏将軍たちは小喬を探して本陣に入る。 小喬を見つけて「このメス豚め、殺してやる」と言って斬りかかる。 小喬は近くにあった松明を振り回して抵抗する。 周瑜と趙雲は襲い掛かる敵兵を倒しながら本陣の奥へ進む。 突然「動くな!・・」と曹操の声がして周瑜の胸元に剣が突きつけられた。 周瑜の剣も相手の胸元を捕らえている。 そのまま互いに剣を相手の胸に突きつけたままで「周瑜・・・周都督・・・」と曹操が周瑜に言った。 周瑜は「曹賊・・・」と曹操に言った。 曹操は「黙れ!・・・曹丞相と呼べ!・・・まさか風にしてやられるとは思わなかったぞ」と言って怒った。 周瑜は「天意を酌まなかったからだ」と言い、曹操は「一杯の茶が私の夢を奪うとはな・・・」と言って、そこにあった茶器を足蹴りにした。 周瑜が「茶も戦も同じだ。・・・お前には戦う名分などはない」と言ったが、曹操は「私は皇帝の命により南伐に臨んだのだ」と言った。 周瑜は「我等は背いていない。・・・逆賊はお前等だ」と答えた。 その場に劉備も関羽も黄蓋将軍も駆けつけた。
                   
 曹操と周瑜は互いに剣を相手の胸元に突きつけたままで外に出る。 二人を取り囲む敵兵も手が出せない。 孫権が弓を引き、曹操に狙いを定めた。 曹操は笑いながら「若造!・・・こんな狩りは初めてだろう・・私を射れるか?・・父親と違って、お前は腰抜けらしいな・・・射てみよ!・・・私は漢の丞相だ、お前等は逆賊の徒だ。・・・従わなければ死罪に処するぞ。・・・そこにひざまずけ!」と命令した。 関羽が「おまえはもう終わりだ」とあざ笑った。 曹操は周瑜に「剣を捨てろ!」と言った。 周瑜が二階を見ると、曹操の部下の夏将軍に妻の小喬が剣を突きつけられて動けなくなっているのが見えた。 夏将軍は「丞相!・・・ヤツ等を皆殺しにしてください。」と叫んだ。 周瑜は「小喬!・・怪我は無いか?・・」と二階にいる小喬に聞いた。 「ええ、大丈夫よ」小喬はおなかを撫でながら答えた。 曹操が「早くひざまずけ!・・」と叫んだ。 ずっと弓を引いて曹操に矢を向けていた孫権が弓を降ろした。 曹操は高笑いをして周瑜に「ひざまずかねば小喬を失うぞ」と言った。 周瑜が「我等が止める」といい、曹操は「我等だと?・・ヤツ等のことか?・・・たかが雑魚が・・・」と言った。 周瑜は「私の友だ・・」と言い、曹操は「戦時に友など居らぬ。・・・どうせ明日には敵になる」言い放った。

 趙雲は槍を棒高跳びのポールのように使って、小喬が捕まっている二階に飛び込んだ。 曹操は「夏候雋、・・・小喬を落とせ!」と夏将軍に命じた。 趙雲は夏を突き飛ばしたが、小喬が一緒に欄干の外に放り出された。 趙雲は落下する小喬の手首を捕まえたが、支えきれずに小喬が落下する。 みなが二階に気を取られた一瞬に孫権が弓で曹操を撃った。 しかし、狙いがそれて、曹操の頭上の髪を束ねている紐を打ち抜いた。 曹操は悲鳴を上げて頭を押さえたが、すべての髪が梳けて肩まで垂れ下がった。 周瑜は落下する妻の下に走った。 小喬を受け止めて周瑜が聞く「大丈夫か?・・」 小喬はうなずき夫の胸の上で安堵して泣く。 

 尚香は死んだ孫のそばに座って、「家に招くと約束したのに・・・」と言い、泣きながら刺さった矢を抜いてやる。 周り一面に倒れた双方の兵士の死体が重なるように横たわっている。

 頭から血を流し、望然とたたずむ曹操に周瑜は「行け!・・・そして二度と来るな!・・」と言って、小喬と共に立ち去る。 劉備、趙雲、関羽、孫権等が続く。 周瑜は「勝者などいない・・・」と独り言を言う。 曹操軍の軍旗が燃え落ちる中を、周瑜・劉備の連合軍が引き上げる。 

 村外れの丘で、劉備と小喬がロバを従えて待っている。 孔明がやって来る。 小喬はロバに「萌萌・・・さあ、行きなさい」と言って、ロバの背を撫でたやる。 ロバが孔明の下に歩く。 周瑜が「分久必合 合久必分・・・いずれ劉備殿と雌雄を決する日が来るだろう。」と言う。孔明は「先のことは判らぬもの・・・天下に群雄あれど、周瑜殿は最たる勇将です」と周瑜を誉める。 周瑜も孔明に「最高の好敵手だったぞ」と相手を称える。  孔明は「私が?・・・帰って、昼寝をするつもりだったのに・・・」と答える。 周瑜が言う「良い農夫か?・・国を救ったのだ謙遜するな。・・・この同盟で生涯の友を見つけた。・・・そなたと会ったことを忘れることはあるまい」 「私もです」 二人は左右に別れた。 小喬が「孔明・・・萌萌を軍馬にしないでね」と言うと、孔明が「心配しないで・・・」と答える。 雄大な長江の流れと、美しい山々が何事もなかったこのように眼前に広がる。

    H21.04.10よりロードショウ公開        H21.04.15 ホームページ掲載
                          

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