SMBC経営者交流会

        講演の部      「今日の東アジアの問題点」

日  時  平成24年12月10日(火)
場  所  ホテル ニューオータニ 一階
講  師  田中 均氏 
               オックスフォード大学より学士号・修士号(政治・哲学・経済)取得
               東京大学公共政策大学院特任教授
               (財) 日本国際交流センターシニア・フェロー
               日本綜合研究所 国際戦略研究所理事長

  【講演要旨】
これから日本では選挙があるが、選挙の結果で日本がどうなるか分からない。韓国でもそのゆくえに関心が高い。日本が右傾化しているが、日本は孤立しないのか?。と関心を持ってみている。東アジアでは中国が急激な変化を遂げている。
  中国には三つの問題点がある。
 @日本が失われた20年といわれたこの20年に中国は急速に台頭してきた。20年前には中国のGDPは日本の20分の1だった。中国は2010年に日本を追い越した。その中国が軍事費にGDPの2.5%を投入しているといわれるが、実際はもっと大きいかもしれない。(日本は1.0%)。WTOの加入からも10年を経ているが中国は強さを増した。ノーベル賞をボイコットし、ノルウエー産の缶詰の輸入を止めた。尖閣諸島問題では日本が船長を逮捕した対抗処置として、レアアースの輸出を止めて、フジタの社員を拘束した。これまで、政治は冷たくするが経済はホットな関係を維持しようとしていたし、日本との経済を損ねることは不利だといっていたのに、最近は「目的のためには手段を選ばず」となり、攻撃を強めている。
 A中国はいまだ発展途上国である。経済規模は世界第2位であるが、一人当たりの所得で見れば世界の100番目くらいである。所得格差が大きく発展途上国で有るがゆえに、日本に市場を開放せよと迫っている。経済規模は大きいが先進国としての責任を取らず、世界のために貢献することには参加出来ないといっている。
 B中国は不透明である。先日開催された党大会でも人事が直前まで決まらず権力闘争をしている。江沢民が直前に出てくるなど異様な光景が見られた。胡錦濤が党に対してやった演説と、近習平の演説は言っている事が違った。近習平はシンガポールのように一党独裁を進めようとしている。近習平はこれまでのような汚職を撲滅し、7人の同僚と透明政権を樹立しようとしている。しかし、汚職をなくすることは無理だと思う。中国は5年ごとに党大会を行い、10年で交替する。共産党原理主義と改革派の戦いとなって居るが、経済改革のためにはリベラル派が主張する開放が必要である。二つの路線対立がどうなるかでこれからの中国が決まるが、徐々に民主的な開放を進めていくことが好ましいと思う。ナショナリズムがどっちに動くのかで、これからの中国が決まってくる。GDP7%が5%になれば、ナショナリズムを外に向けて行くようになるだろう。

 尖閣諸島の問題は、日本が戦争に負けて主権を持たなかったところにある。米国は尖閣諸島を沖縄県の一部として統治して射爆場として使った。戦後の体制は尖閣諸島を日本の領土として認めていたのであるが、地下資源が有ると判ったときから中国が自国の領土であると言い出した。ケ 小平は「今の政府には知恵が無い、100年先まで棚あげにしよう」といった。ケ 小平は中国が日本を追い越すのに100年掛かると思っていたのです。自民党は「尖閣諸島は日本が実効支配しているのだから騒ぐ必要はない。政府が買い上げて政府関係者以外の立ち入りは禁止」にしよう、と言っています。中国人上陸の時も逮捕はしたが、裁判にすると永くなるので釈放した。2010年9月の船長を釈放した時に、私はシンガポールで講演をしていた。聴衆の一人が「日本が実効支配をしていることを中国国内では知られていない」と私に言った。石原都知事が島を買うと言った時、私は民主党に「早く対応しないと問題が大きくなる」と言った。中国が大きくなる中でこういう問題は必ず起こる問題です。米国はクリントンが「尖閣諸島は日米安保の適用内である」と言った。

 米国は中東から兵を撤退させる。そして、アジアに対して軍事政策的に強化を図る。米国は今「財政の崖」と言われるところにある。この年末で三つの税制の優遇策が終了し、このままだと不況期に突入するといわれている。外政不均衡の修正が行われるであろうから、アジアへの国防予算を増やすとは思われない。米国の選挙では激戦区ほど少数民族が強くなっている。すでに白人を追い越している地区もある。米国は単独では戦わない、国連決議に基づき兵を派遣する。これはアジアでも例外ではない。 米国は日本が中国と対立することは好まない。

 北朝鮮は12月10日から22日の間に、ミサイルを打ち上げるといってきた。延期されるのではないかと思う。冬場は技術的な問題もあり難しい。日本の選挙にぶつけるのではないかとも思う。北朝鮮が金大中などと仲良くやった頃もあったが、今の李明博は対北関係を強めているが、北朝鮮を支援するほうが良いのではないかと、国民に思わせようとしている。

 1987年に大韓航空事件があったとき、私は当時外務省にいて、犯人の女性から「北朝鮮で日本人から日本語を学んだ」ということを最初に聞き出したのは私です。当時は北朝鮮の外務省と協議しましたが、何も情報を持ってなかったので軍と協議しました。北朝鮮と交渉するたびに総理大臣のところに報告に行き、全部で88回伝えに行った。北朝鮮はトップの人との交渉で無いと何もできない。北朝鮮の問題は日米韓が協調して行動する必要がある。そして、中国にサポートしてもらう。ミサイルの問題では「撃つと金融政策を強化する」ことを日米韓が強調して伝えている。今回は中国が打ち上げを黙認するのではないかと思う。北朝鮮は合理的な政策は採らない、情報を集めては居るが、文字づらで知っているだけで、大きな部分である日米がどういう政策を持っているのかを知らない。我々のことを信頼していないし、西側の社会のことは情報を持っていないのでまったく知らない。

 竹島の問題は日韓併合の時からの問題であり、歴史問題であると思っている。韓国は米国に返せといったが米国がこれを拒否した。それで彼らは実力で取った。これから返せといってもこれは無理だと思う。韓国は世界で15番目の経済大国となっているが日本のまだ5分の1の経済であり裾野が無い。日本は韓国に言われる前に歴史問題は解決しなければならない。しかし、「甘えるのは辞めようよ」と言いたい。彼らも頭では判って居るが納得できないと言っている。日韓関係は心配していないが、過去がゆえに日本が低姿勢をとったり、韓国が強く出るのは辞めようと言っている。
韓国は日本と中国、米国と中国の中に立つと思っている。日本はその価値を共有している。中国が建設的な国になるよう我々は協力するが、尖閣の実効支配を強めるとか、過去の問題の見直しとか談話を修正して行くと日本は孤立して行く。これはやるべきではない。日本は今のままで友好関係を保っていけばよいわけではない。拉致問題、尖閣問題、北方領土問題だけに問題を絞ってやろうとしても無理です。戦争をやるわけではないので、相手にも利益になることを提言し、日本が一定の力を持つことが必要です。日本だけでは何も出来ません。「アメリカをベースにする」でないと駄目です。東アジアを面として考え、人の移動を盛んにし、日米は互いに知恵を借りて協調するのです。沖縄の基地だって強行することは無理です。まずお互いに信頼をつくり、日米韓の軍事的な面、天災時の協力援助など三者の枠組みを作ることが必要です。

 TPP問題は、市場の全面開放ではないのです。米国との話は常に最初は敷居の高いところから入っています。条約は6割に落として成功だといわれています。10年20年先のために、中国もこの枠組みに入ってもらうことが日本にとって必要なことなのです。
 エネルギー問題は革命が起こります。日本の原子力発電の問題、東シナ海の問題、石油の確保を担保する海上輸送の安全問題、これらは米ロを加えて、東アジアサミットを活用し、各国が共同して展開して行くことが必要です。日本は唯一の太平洋国家であり、日本にしかこれは出来ません。日本が斜陽だという見方は短期的なものであり、そのように過少評価をすべきではありません。
 
 尖閣問題をこのまま主張することは日本の国益を損ねます。北朝鮮に拉致者を帰せ返せといっても絶対に帰ら無かったのです、日朝平和交渉を匂わせてはじめて彼らは交渉に参加したのです。
沖縄問題では鳩山さんが「最低でも県外」と言ったときに米国は日本を見限ったのです。悪いことをしているヤツ等はけしからん。その通りですが、交渉というのは妥協できる線を探さないとダメなんです。日本が大きな危機にきている、このままではみんな損する結果になります。大きな絵を超党派で描いていくのです、自由党と民主党に国益を守ることで大きな違いが有るとは思えません。ドイツの首相は在任8年です、安定した政権が出来ています。頼むから日本の首相も1年で席を捨てないでほしい。と願います。


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