日 時 平成24年4月20日 午後4時から
場 所 ホテル オークラ東京
【 講演会 】 「 アジア経済と農業生産 」
講 師 大河原昭夫氏 住友商事総合研究所 所長
まずはスパイス協会の創立50周年おめでとうございます。浅見理事長様のご配慮でこのお目出度い場で講演の機会を戴きありがとうございます。住友商事綜合研究所は住友商事の100%出資の子会社でございまして、住友商事グループ約800社の中で、世界経済の動きや需給関係の動きを調べている研究所であります。
まず始めに、”アジア経済の今後の動向”からお話します。1989年のベルリンの壁とソ連の崩壊以降、2008年のリーマンショック時以外は世界の経済は堅調に推移してきております。平均成長率は中国を始めとする途上国が、2000年頃から急速に伸びてきて、世界経済に占める割合は、1995年に先進国69.3%、途上国が36.1%であったものが、2015年には先進国47.2%、途上国52.8%になり、このうちアジアの途上国が29.1%を押さえるようになります。
人口動態的には、世界の人口が70億人になったと国連の発表がありました。2020年には人口は77億人となり、インドの人口が14億人になります。このことは押さえておく必要があります。人口ボーナス期と言うのは生産人口(16〜64歳)を働かない人の人口で割ったもので、2.0が一つの基準になります。2.0を下回ると経済的に重荷になります。中国は2015年、インドは2040年がピークと考えられています。
今後のアジア経済は、高成長が続き前年比GDPは8%くらいで継続され、GDPシェアは2015年には28%を越える見通しです。アジアの所得水準はいぜんとして低く、中国、インド、インドネシアなど伸びしろが大きく有ります。一人当たりの所得は今後マレーシアの伸びが大きく、インドネシア、タイも高いペースでの所得増加が見込まれます。
富裕層と言うのは35,000ドル以上の可処分所得がある世帯を言いますが、2000年に日本には1億人、他のアジアに3,000万人くらいいました、2020年の予測では日本人は変らず1億人ですが、他のアジアは10年足らずの間に2億3,000万人になると予測されています。食生活も大きく変ると考えられます。
農業生産は、2005年を100としてみた時、アジア、南米、アフリカの伸びが大きくなります、右肩下がりが欧州です。
アジアの途上国の急成長で、農産物の需要は強いのに、供給が追いつきません。特に食の安全・輸出規制がネックになります。
供給面での反収の伸びは、1970年頃に緑の革命といわれた収量の伸びた時期がありましたが、それ以降は伸び悩んでいます。足元では横ばいです。農業の生産コストの伸びが反収の伸びを止めているのです。
2011年は、世界各地で国内優先の農業政策が採られました。天候が悪いと輸出規制を行いました。農業は天候に左右されるのに、近年は各地で異常気象があり、収穫に影響しています。
世界の人口が増えただけでなく、アジアが豊かになり、食生活の変化が消費量に変化を与えています。
アジアでも食生活の欧米化が急速に進みます。鶏、野菜、豚の需要が伸びて、小麦、米の伸びは少ないでしょう。 穀物から肉類へ食生活が変わっていきます。近年は餌としての穀物生産が伸びています。畜産物1kgの生産には、牛肉11kg、豚肉7kg、鶏肉4kgの穀物が必要です。バイオ燃料の原料としての穀物も求められており、食とエネルギーでの奪い合いがあるかも分かりません。
食料の需給は、南米・北米・オセアニアが世界の供給を支えることになります。中国は大豆の輸入で米国を上回る輸入国になっています。大豆は米国が生産国として強かったが、ブラジルがアマゾンを開拓して大生産国になりました。近年中国の大豆輸入はこのブラジルが賄っております。
食料価格は低位で安定していましたが、BRICsの輸入で2000年以降は右肩上がりとなりました。これからの価格は継続され、2000年の価格にはもう戻らない見通しです。
反収が5%減った場合には、雑穀、米、小麦が25%ほど高ぶれすると予測されています。
食料価格高騰の要因は、基礎的な要因として人口の増加、所得の向上に伴う畜産物の需要増加、収穫面積の減少などがあり、近年の大きな影響を与えている要因として、バイオ燃料、中国インドの経済、異常気象、家畜の伝染病などが考えられます。これらの需要の増加や供給の不安定化により、先行きタイトになることを見越して、行き場の定まらない投機マネーが入り、価格の高騰を招いており、先の価格見通しが立てにくくなっております。
アフリカには農業適地がありますが、輸送のインフラが整っていないので、農産物の輸送の制約や反収の伸び悩みに問題があります。
農産物は、需要は強いのですが、供給が付いていけないので、価格の高止まりが続くと見ておかなければならないでしょう。味へのこだわりからもスパイスの需要はますます強まるものと思います。
【 理事長挨拶 】
全日本スパイス協会 理事長 浅見 徹氏
私どもが生業とするスパイスは、日本の食文化を支えるために、無くてはならない重要な食材の一角を担っております。戦後その使用料が急速に伸びてまいりまして、昭和37年4月に16社で全日本スパイス協会は発足しました。50周年記念誌にも記載しておりますが、昭和53年インド政府のウコン、クミン輸出禁止の際には、カレー組合と共にミッションをインドに派遣し、日本の食卓からカレーが無くなるという事態を防ぐ活動もしてまいりました。
より安全な殺菌を求めて、厚生労働省への放射線照射による殺菌方法の許可申請、ポジテブリストへのスパイス業界としての要望書提出など、我々の歩んできた道のりは平坦ではありませんでした。本日表彰・感謝状対象の先輩の方々、また、理事長として卓越した指導力を発揮された小林博司さんのお陰で、今日の全日本スパイス協会があります。
私は、今年の2月にフネで開催されたスパイスの国際会議に代表として出席しました。スパイし消費国が問題解消のために話し合うための会議ですが、この会議で生産国側から、「日本の安全性基準は世界で一番厳しいといわれて居るが、最近は米国でも厳しい基準を持つようになった。現在各国ごとに決めている安全性基準を統一してくれ」という要望がありました。
長期的には、アジア経済の発展で、農業生産従事者は減少し、生産性の低下は新興消費国の需要を賄えなくなります。労働コストが上昇するとスパイスの生産は辞めて、他の農産物に転換されます。プレミアムさえ払えばスパイスが手に入った時代は終わりました。生産国との協調を図り、協力していかないとスパイスの安定供給はなくなります。
古くはすき焼き・テンプラから始まった日本食も、寿司の普及などグローバル化が進んでいます。今日では、カレーやラーメンなど元々外国から伝来した料理を改良して、日本食として普及させています。これら日本の消費者の要求を適格に把握して普及させたものにもスパイスは不可欠です。
われわれは、今後も日本国内の需要者のニーズを捉え続けて行くことに加え、グローバル化に対応していかなければなりません。
スパイス協会も友好団体の皆様の協力を得て、業界一丸となって食生活の向上に貢献していきたいと考えておりますので、今後とも宜しくご指導をお願いいたします。
【 来賓挨拶 】
全日本カレー工業協同組合 理事長 江戸 龍太郎氏
まず、全日本スパイス協会の創立50周年おめでとうございます。 スパイス協会加盟各社様のご発展をお喜び申し上げます。この記念すべき時に私どもカレー組合の加盟会社をお招きいただきありがとうございます。
私どもも、昨年50周年を迎えました。その際には浅見理事長様の暖かいご祝辞を戴きました。ありがとうございました。
カレーの基本はカレー粉で、その原料はスパイスです。これらスパイスのブレンドでカレーは造られます。したがって、カレーはスパイスの品質に負うところが大きく、スパイスはカレーにとって重要な原料であります。高品質な原料を安定的に供給してきた全日本スパイス協会様のご努力に感謝しております。
昨今のアジア地域の急速な発展は、グローバルな経済変化を起しております。これまでも、今後とも全日本スパイス協会様のご努力に期待いたしております。
スパイスの効能は、最新の研究では医薬品や化粧品の分野にまで及んでおります。また、研究の成果は私どもの食と環境にも役立っています。これらの情報の共有が私どもの発展にも役立つものと期待しております。
最後になりましたが、全日本スパイス協会加盟各社の皆様、ご出席の皆様の各社のご発展を祈念して挨拶と致します。