幼児教育は0歳から

人問の大脳のしくみと働き

人間の大脳は、そのしくみと働きの点で、ほかの動物とはくらべものにならないほどの複雑さ・繊密さをそなえています。人間の大脳は、約140億という、ぽう大な数の細砲からできています。
ひとつひとつの細胞は、それぞれ、数十本の突起をもっていて、他の細胞の突起と、クモの巣状に複雑多様にからみあうことによって、インパルス(神経衝撃〕が伝わるしくみになっています。そのインパルスの伝わる道すじは、ひとつの細胞で、少なくとも1,000通り以上あると考えられています。

脳綱胞のからみあい

140億の細胞の、それそれの伝わり方が1,000通り以上ということは、全体ではそれこそ無限に等しい、考え方の道すじが存在するということになります。
脳細胞の数は、生まれてから20歳くらいまで、140億のままで、ふえも減りもしないわけですが、知能をつかさどる大脳は、年令が増すとともに急速に重くなり、10歳くらいでほとんど成人並に達しています。
特に、新生児の成長はおどろくばかりで、平均1日1グラム、月平均30グラムふえます。子どもの知恵がついていくにつれて、脳細胞の配線が複雑多様になり、それとともに大脳も重くなっていくわけです。

人間は教育することが必要

1920年インドのオオカミのすむ穴で発見された2人の女の子の話は、あまりにも有名です。人間の子どもも、きちんと教育しなければ人間らしくならないということを、これほど身近に物語る例はありません。
オオカミに育てられた2人の少女の年令は、2歳(アマラ)と8歳(カマラ)と推定されました。発見された当時の2人は、昼間はうす暗いところで重なり合ってうずくまり、夜になると四つ足で歩きまわって、オオカミのように吠えるなど、まるでオオカミそのものでした。
その後、2人の少女は、シングという牧師に引き取られ、温かく育てられましたが、3歳程度の知識しかもつことができず、人間らしい感情は、ついにそなわらなかったといわれます。決して、この少女たちの脳に損傷があったわけではないことは、当時の学者の一致した意見です。この子たちも、私たちと同じように、140億という脳細胞をもって生まれていたということです。
にもかかわらず、オオカミに育てられれば、四つ足で歩き、水やミルクを、ペチャペチャなめてしか食べられない人間になるのです。

脳の基礎配練ができる幼児期の大切さ

なぜ、オオカミ少女「カマラ」は、人問らしくなれなかったのでしょうか。この点については、大脳の発達の順序を知ることで、理解できます。

大脳の発達の3つの段階
●第1期(3歳ごろまで)・・・土台づくり
見るもの聞くもの、すべてをまねして吸収していき、それぞれの能力の基礎をつくります。

●第2期(4〜7歳ごろまで)・・・骨格づくり
思考活動が活発になり、自分で考え、新しいものをつくり出そうとします。第1期を土台づくりとすると、その上に柱を立てて骨格がつくられる時期です。

●第3期(8〜10歳ごろまで)・・・建物における落成式に近い時期
脳細胞の発達は成人に近づき、自主性がはっきりしてきます。建物における落成式が近い状態で、長所・短所がはっきりしてくるので、長所を仲ばし、足りないところを補う工夫が大切です。
特に、第1期・3〜4歳ごろの成長期は、「三つ子の魂百まで」といわれるように、大脳の配線の基礎ができあがるときであり、まさに土台づくりの段階です、これがしっかりできていないと、あとから積み上げるものも、常に崩壊の危険にさらされます。この時期の子どもは、おとなとちがって、大脳の配線がまだ白紙に近い状態であり、外からの刺激をまともに受けてしまいます。つまり、この時期に配線された大脳のインバルスの道すじは、強く残って、あとあとの人間形成に大きな影響をおよぼすことになります。

オオカミ少女「カマラ」は、このいちばん大切な時期に、オオカミに育てられたことが致命的だったわけです。
現代の社会にも、このオオカミ少女に近い子どもは、いないでしょうか。すべてにおいて、幼児期の育て方に原因を見い出すことができるといわれるのも、こういう発達の順序があるからなのです。幼児期の教育が、いかに大切であるか、おそろしささえ感じます。

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