まめなしの部屋  
まめなしを学術的に
論じてみよう

 

*守山の地相*

まめなしの生えている守山の地相をまず紹介します。守山は、名古屋市の東北に位置し、名古屋の最高峰東谷山(標高198m)を頂点として、そこから連なる丘陵には多くの湿地があり緑多き町(田舎?)である。したがって湿地特有の固有種が多く存在し、いわゆる東海固有種といわれている。「シラタマホシクサ」や「シデコブシ」もこれに含まれています。50mほどの低地でも中部山岳地帯に見られる動植物が、見られる様相を呈している。湿地の代表種は、「ハッチョウトンボ」や「サギソウ」などであるがここ守山では近年激減している。

地質は、北に庄内川、南に矢田川に挟まれた洪積層台地である。丘陵はいわゆる「やせ地」でありはげ山である。はげ山の谷間に涌き水が出て湿地や池を形成している。湿地や周りの斜面には「トウカイコモウセンゴケ」がもっとも多い。湿地の多くは都市開発の波にさらされているが、県有林のものは残されている。

*梨の原種*

まめなしはその昔、氷河期に、日本と大陸がつながっていた時代の残存植物の1つと言われています。われわれが口にしている梨について言えば、すでに奈良時代から果樹として栽培されていて、種類も多いのですがそのルーツは明確にはなっていません。

日本の梨の野生種としては。やまなし、あおなし、まめなし等がありますが、やまなしについては栽培されていた梨が野生化したという説と、やまなしを原種として現在の梨が作られたとも言われ、定かではありません。やまなしの実は約3cm、まめなしは約1cmです。

四日市市には国の天然記念物に指定されている「あいなし」があります。あいなしは栽培されていた梨と野生梨との混血種といわれています。また中国には、まめなしと同じ位の実をつける「まんしゅうこなし」があります。したがってまめなしは、氷河期の残存植物でもあり、梨のより原種に近い種ではないかと考えられます。

*分布域*

まめなしの分布は日本以外には、中国にあります。日本では愛知・三重・岐阜・長野といわれています。愛知県の守山以外では、北は犬山市・大口町・小牧市・尾張旭市・名古屋市千種区・昭和区・知多市・半田市・西尾市で知られています。三重県では四日市市と多度町です。残念ながら岐阜はどこに自生しているのか、私にはわかりません。北隆館の樹木図鑑には、長野県川上村の写真が載っています。

愛知・三重の自生地は、氷河期にあったとされる東海湖の周りに自生していたものの子孫と考えて良いでしょう。実は良く成るが鳥や動物が食べないので、落下した種子が生えて世代を受け継いできたと考えられます。まめなしの実をよく観察するとわかるのですが、乾燥すると種子が果肉ですぐに固まってしまいます。発芽する条件として、果肉が固まらないうちにほぐれる必要があります。発芽のメカニズムの条件の1つが、水ではないかと思います。つまりまめなしは湿地の水で、実から種子が離れ発芽して、世代交替が図られて今日にいたったと考えられます。つまり広い意味で湿地依存種といえます。

湿地といえば守山や尾張旭市の東部地域には多くの湿地が有りますが、自生していません。東海湖のほとりで湿地が今日まで存続している所に分布域があるようで、非常に狭い範囲に限られていると考えられます。

私の知る限りでは、愛知・三重県下に花の咲く木は200本もありません。しかも守山以外ではそのほとんどが国・県・市・町の天然記念物に指定されています。

 

*個体差と変異*

守山・尾張旭の自生樹120本について調べたところ、狭い地域にもかかわらず個体差が見られます。特に葉の大きさ、実のつき方に現れています。葉は長さ10cmを超えるものがあり、やまなしと見間違えるものがあります。また5cmにも満たない個体もあります。

実はよくつく方ですが、中には鈴なりになる個体があり、その中のいくつかの実には、額片が熟しても残っていて形はザクロのようになるものがあります。(左の下の実)

まめなしの花の葯は普通紫色ですが、やまなし同様に赤褐色のものが1株あります。花も実も葉も他の個体に比べて大きく(実つきはやや少ない)、変異と呼んで言いかもしれません。

花期の遅い個体がヒル池に1本あります。他の花が終わってから咲き始め4月いっぱい鑑賞出来ます。

*シイナ率*

まめなしの子房は2〜3室からなります。(ほとんどが3室です)したがって種子は1つの実から最大6個存在するのですが、ほとんどのまめなしの実で成熟した種子は1〜2個しかありません。他はいわゆるシイナである。まして1cm足らずの実では全部シイナのことが多いのです。1cm以下の実の方が多いので、まめなしのシイナ率は通常でも90%前後になります。

5月以降夏までの天候で乾燥した日が多い年は、このシイナが多くなるようです。夏にダムの貯水率が下がって節水というニュースが出る年は最悪で、なんとシイナ率は99%を超えてしまいました。昨年1999年は、やや良で3個も取れる実もありました。このシイナ率の高さが生存競争の弱さを語っているとしか思えません。(写真)

 

*世代交替*

 

まめなしの寿命はどのくらいなのかよくわかりません。幹ははじめ灰褐色でつるつるとしていますが、古くなると、松のように幹肌が割れてコルク状になると花が咲きます。花が咲くまでに10年かかるのか、20年かかるのかわかりません。現在花をつけている木は老木が多く、いずれ寿命に達すると思います。前述した通り、現在花をつけている木の周りに子供がどれくらい生えているかで、まめなしの将来を予測できます。残念ながら10本もありません。つまりこのままの状態ならば、近い将来1割以下になるのは明白です。

環境的には自生地の多くが公園などで保護されているものの、湿地環境が続く保証がないのです。現に緑地公園の周りは、家・家・家の状況です。池の水も格段に減っています。さらに乾いた環境になると思われるので、ますます世代交替が難しくなるのではないかと危惧しています。シイナ率の高さ、発芽条件の湿地の減少で前途は芳しくありません。都市開発の波が湿地を乾燥させ、湿地依存種の世代交替をしずらくしている構図が浮かびあがります。

自然に世代交替が出来ないのなら、われわれの手で世代交替をすることは可能です。幸い発芽さえすれば乾燥地でも立派に育っているのですから。必ずしも湿地が必要ということではなさそうです。道端で街路樹のようになっている木もあります。しかも発芽は種子さえ取れればしやすい種といえます。