新・日本全国おでん屋紀行(4)五合(京都市西院)
日本を代表する観光都市である京都は、日本の食文化の中心地でもあり、たくさんの食の名店が軒を連ねている。鍋料理に関しても、「すっぽん鍋」、「水炊き」、「てっちり」、「すき焼き」、さらには「う鍋」など老舗の店が多いが、大衆的な鍋料理であるおでんが食べられる店というとなかなか見つけ出すことができない。
京都の街の中心からやや離れた、阪急京都線の西院駅の周辺には、地元の京都市民たちが集まる大衆居酒屋街が形成されている。私が通う京都のおでん屋「五合」もこの一角に店を構えている。「五合」と書いて「はんじょう」と読むという。一升の半分の意味で、商売繁盛のゲンを担いでいるのだろう。
入り口の格子戸を引いて中へ入ると、正面の四角いおでん鍋からおいしそうな湯気が立ち上がっている。そのまわりには、コの字形のカウンターが広がる。並んでいる丸椅子は20席ぐらいだろうか。三方の黒板壁には、いくつもの大きな枡が貼り付けられ、その上の方の置台には古い徳利などが所狭しと飾られている。
落ち着いた雰囲気の中、カウンターの一席に腰掛け、おでん鍋の中と壁に掛るおでん種の書かれた木札を見くらべる。おでん種は30種類ぐらい。定番の「だいこん」は、ダシ汁がたっぷりとしみこんでやわらかく煮込まれている。「ロールキャベツ」も手作りらしく、挽肉の旨味と、やわらかくダシを含んだキャベツの味わいが相まっておいしい。その他、良質の牛筋肉を使用した「すじ」、ホクホクとした食感の「じゃがいも」や「京いも」、生姜味がアクセントになった「とりつくね」、厚揚げ、こんにゃく、ごぼ天、竹輪、すじといった種が一本の串に刺された「五味」、きつねうどんを食べているような「うどんふくろ」などいずれのおでん種もおいしい。また、別盛でダシ汁に浮かべて供される「生ゆば」と「生麩」は、京都らしく上品で絶品である。
そのおいしいダシ汁は、薄口醤油か塩ベースのようだが、けっして煮立たせず、アクがきれいに取られているところがよい。
お酒の方は、木樽から注がれる「日出盛」の樽酒が旨い。小皿の上に枡が置かれ、受け皿に零れるほど並々と注いでくれる。粗塩もちゃんと添えてくれる。冬場は、チロリで供される熱燗を楽しんだり、夏場はサッポロ樽生ビールを味わうこともできる。
礼儀正しく、寡黙なご主人は、髪を短く刈り、一見修行僧のような印象を受ける。ふと壁面の方をみると、「一杯やりたい夕焼け空」という山頭火の句が飾られていた。
五合(京都市右京区西院三蔵町1 075−311−5485 17:00〜22:00 日曜休み)
平成18年7月18日訪問
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