新・日本全国おでん屋紀行(3) 小多福(宗右衛門町)

 夜のネオン瞬く大阪ミナミの歓楽街、宗右衛門町界隈。怪しげな店のあまたの客引きの誘いを振り払い、たどり着くのがこのおでん屋「小多福(こたふく)」である。
 和風居酒屋然とした店構えの暖簾をくぐれば、店内に流れる演歌の有線放送と、いかにも大阪の気のよさそうな店のオバちゃんの笑顔に、思わずほっとする。よく見ると、若いおネエさんも働いていて、店のサービススタッフはすべて女性のようである。
 店内はけっこう広く、1階はおでん鍋を囲むカウンター席と奥のテーブル席。入口脇の階段を上がった2階も、同様に鍋が据えられたカウンター席が並ぶ。私が一人で訪れるときは、いつも1階のカウンターへ案内される。一人静かに酒盃を重ねている。
 日本酒は「白鶴・辛口」の燗。錫製のチロリでほどよく温められた酒は、淡麗ですっきりとした造り、クセがなくて飲みやすい。チビリチビリと酒を注ぐお猪口も錫製である。
 「おでん、何にしましょ?」とオバちゃんが声をかけてくる。お造り、焼き物、酢の物など他にも酒の肴は数々あるが、まずはおでんを薦めてくれるのがうれしい。

 おでん種は30種類以上はありそうだ。「大根」は、しっかりと下茹でがされているので、おでんダシがよくしみ込んでいる。シャキシャキしたキャベツとトロッとくず粉の絡まった挽肉の食感が気持ちよい「ロールキャベツ」、口の中でとろけるようなホクホクの「京いも」、たくさんの具がたっぷり入った「がんもどき」、旨味のある「たこ」、ダシにたっぷり浸った「ふ(麩)」などいずれもおいしい。関西おでんには欠かせない「さえずり」や「ころ」、季節物の「かき」、「ぎんなん」、「ふき」などもよい。
 ダシ汁は煮立たせているので濁っているが、色々なおでん種からしみ出たエキスが入り混じり複雑な味。おでん種にたっぷりとかけてくれるので、思わず全部飲み干してしまう。
 また、おでん種メニューには載ってないが、甘めの味噌で別に煮込んだ「牛スジの土手煮」もぜひ味わってみたい。
 この店で飲んでいると、おいしいおでんと居心地のよさに、ついつい夜が更けていくのを忘れてしまうから不思議である。愛憎渦巻く都会の盛り場のど真ん中にある、酔客にとっては、一つの心のオアシスのようなおでん屋ではないだろうか。
 なお、同じ宗右衛門町のすぐ近くには「お多福」という名前のおでん屋もあるようだが、そちらへはまだ行ったことがない。

小多福(大阪市中央区宗右衛門町5−21 06−6211−7100 月曜休み)

平成17年11月2日訪問

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