灼熱の東京で考えたこと
 
この夏は7月というのに、甲府では気温が40度を越え、観測史上2番目の高温を記録した。その直前には、新潟県の中越地区で豪雨による大洪水が起こっている。このふたつの極端なできごとは連動していて、日本海側で雨が降り、海からの風が越後山脈を越えて関東地方に達したことにより、フェーン現象が起こったためである。新潟県で春先に経験するフェーン現象と逆のケースである。
 
この猛暑に限らず、最近は異常気象が多くて、その原因を地球温暖化に求める声も多い。地球温暖化といえば、1997年に京都で気候変動枠組条約の国際会議が開かれ、京都議定書が締結されたが、議定書の効力が発生するまでには至っていない。アメリカは早々と議定書からの離脱を宣言し、ロシアも批准をしていないからである。
 
温暖化は温暖化ガスが増加することによって起こる。その主要因である二酸化炭素は地球の大気中には0.03%存在する。最近この二酸化炭素量が人間活動により、増加の一途を辿っているのである。その発生源として大きなものは、化石燃料の使用とセメント生産であるという。化石燃料とは、石油、石炭、天然ガスのことをいう。コンクリートのもととなるセメントの生産は、エネルギーを使用することだけでなく、セメント生産の過程で石灰石が分解して、二酸化炭素を大量に放出する。これら2つの要因に、大気中の二酸化炭素を取り込む働きをする森林が減少していることをくわえれば、二酸化炭素の増加の原因がほぼ説明つくそうだ。
 
石炭や石油、天然ガスの化石燃料は生物に由来する。セメントの原料である石灰石もサンゴなどの生物に由来する。つまり、生物のおかげで大気や海水中の二酸化炭素が固定され、それらが人間活動によりふたたび放出されるのである。大気中の二酸化炭素を減らすには、@発生量をへらし、A吸収量をふやし、B固定量をふやせばいい。そのために何ができるだろうか。
 
○ 発生量をへらす

発生源となる化石燃料やコンクリートをできるだけ使わないようにする。太古の時代に固定された二酸化炭素を大気中に開放しないようにすることである。このためには、省エネをすすめることが必要である。近距離であれば車を使わないようにしたり、公共の交通機関を利用する。車を使わずに、自転車に乗ったり歩いたりすれば、健康にもいい。東京の都心は、コンクリートのビル群からなり、いわゆるヒートアイランド(熱島)現象を起す。最近のビルは窓が開かないようになっており、換気の悪いものが多く、4月まで暖房していたと思ったら、5月にはもう冷房しないと暑くてしかたないといった状況を作りだしている。その結果、1年じゅうエアコンを使うことになる。この7月、里山管理の研修会で妙高に集まったときに、新潟県越路町で製材業を営んでいる関谷守夫さんは、木造の家屋で窓を大きくし、通風をよくするなどの工夫をすれば、夏の冷房はほとんど必要がないということを話しておられた。かつてオイルショックのころ、深夜はテレビ放映が休止されていた。NHKでは夜12時になると「日の丸」が出た。真夜中にテレビが見られなくとも、困ることはない。災害時やオリンピックなど、例外的な場合に限るべきだし、そのためには、国による強い指導が必要になろう。化石燃料をまったく使わないという選択肢は考えにくい。しかし、化石燃料使用の抑制ならできるだろう。たとえば、植物由来の燃料である、いわゆるバイオマスは燃やせばもちろん二酸化炭素が放出される。しかし、これらバイオマスを利用することで、これに相当する分の化石燃料の使用が抑制できることになる。もちろん太陽発電や風力発電は、化石燃料を全く使わないために、より貢献度が高いが、どこでも簡単にできるわけではない。

○ 吸収量をふやす

植物は大気中の二酸化炭素を吸収し、それを植物体として保存する。二酸化炭素と水を光の力を借りて、有機物と酸素に変える。これを、光合成あるいは炭酸同化作用というのは、昔学校で習った。海中では、サンゴが海中に溶けている二酸化炭素を固定する。熱帯雨林の減少が大きな問題になっているが、吸収源としての森林の減少も大きく影響している。吸収する量をふやすには、吸収源である森林の面積を増加させればいい。ところで、日本の森林率は67%であり、新たに森林を大幅に増やすことは期待できない。むしろ、現在ある荒れた二次林や手入れの行き届いていないスギ林などをきちんと管理することが必要である。そして、その地域にある総材積が大きくなるように、間伐するなどして、健康な林を作ることである。都会であれば、公園を増やしたり、電線の地中埋設をおこない、街路樹を大きく育てたらいい。これは緑陰を提供することにもなる。一定規模以上の新築のビルでは屋上を緑化させたり、緑地を造ることを義務化したらいい。

○固定量をふやす

発生量をへらすことと吸収量をふやすことは、二酸化炭素の出し入れの関係であり、理解されやすいだろう。しかし、地球温暖化問題を考えるうえで、吸収した分をそのまま保持していくことも非常に重要である。たとえば、固定した状態にある木材を建築物に利用し、それを長期間保存することである。奈良の法隆寺は世界最古の木造建築物であり、1300年以上も二酸化炭素が固定されつづけていることになる。同様に箪笥や机などの家具でもいい。目で見て、これが木材だという実感はわかないものの、紙からできている本も固定媒体である。どこの家でも古い本があるだろうが、これらは二酸化炭素を固定してくれていることになる。家庭にある書籍は、購入したものの一度読めば十分であるという性質のものもある。さりとて、本を処分するには忍びない。泣く泣く、廃棄したり、資源ゴミに出したりすることになる。都会では家が狭いために、本を大量に置くスペースがあまりとれないからである。田舎に廃校でもあり、1教室がまるまる利用できるのであれば、その地域在住者や出身者からそうした本を寄付してもらったらいい。図書館を造るのである。重複して届くものは、貸し出ししてもいいし、古書として売却してもいい。木造建築で木製本棚のある図書館は大きな固定手段でもある。これら建築物や書籍などにより、永久に固定しつづけることはできない。しかし、長期間保存することにより、固定期間を伸ばすことになり、ある時点での総固定量に寄与することになる。これらのほかに、木炭や竹炭も二酸化炭素の固定媒体である。木炭や竹炭は化石燃料と同じく生物由来のものであるが、その分、化石燃料の使用が抑制されることになる。さらには、木炭や竹炭を燃料として使わずに、土壌改良剤として土に還したり、水質浄化のために使用したりすることも考えられる。炭は多孔質のため、そこにバクテリアが住みつき、水質浄化に役だつ。

さて、吸収量をふやすことと、固定量をふやすことはお互いに関係しているものが多い。たとえば、新たに木を植えることは、吸収量をふやすことにも貢献するし、木が生長すれば、立木の形で固定されていくことにもなる。荒れた人工林を改良することも、吸収量と固定量の両方の増加に貢献する。そのためには、間伐や枝打ちなどの育林作業をおこなう必要がある。しかし、林業が儲からないことから、林業の担い手がいなくなっている。こうした育林作業にどのように支援していくか考えることが必要である。また、間伐材などを積極的に使うような対策も必要だろう。ここでは、ふたつのことを提案しておこう。

@巣箱キットを作ろう

鳥のなかには樹洞に巣を作り、産卵、子育てをするものがいる。スズメ、ムクドリ、シジュウカラ、ヤマガラ、フクロウなどなど。変わったところでは、オシドリやシノリガモ。これらは、みな巣箱に入る。巣箱の穴(入口)の形状を変えれば、キビタキやキセキレイも巣箱に営巣する。かれらのために巣箱を架けたらいい。巣箱の場合は、表面の仕上げも簡単でよく、そのため手間がかからない。製材所などで、間伐材や廃材などを利用し、巣箱キットを作ったらいい。簡単な鋸挽きと釘打ちは、そのキットの購入者にやらせたらいいだろう。はじめからできあがっている巣箱を購入するよりも、創作したという満足感が得られよう。

A学校や企業の机・椅子は木製のものを

学校や企業が地元材でできた木製の椅子や机を使うことは、その地域の森林の健全性に貢献することになる。スチール製のものを使うよりも、木材を使うことで、二酸化炭素の固定にもなる。値段が高いかもしれないが、学校は公営のものが多く、そうした予算をつけることで、結果的に地域の林業や環境保全に寄与することになるから、税金の無駄使いにはならない。また、企業が使うことで、地域に対して、収益を還元することにもなる。学校の場合は、机や椅子を定期的に買い換えてやる必要がある。健全な森林育成のためには、安定した需要が必要だからだ。そのためには、定期的に机や椅子を更新させてやるべきだ。机は頻繁には無理かもしれないが、椅子は、たとえば5,6年で変えてみてはどうか。6年とすれば、小学校の6年制とも一致する。卒業時に自分の使った椅子を家に持ち帰ってもらったらいい。家により、そうした椅子は、踏み台になったり、鉢植えの台になったり、そのまま椅子として、使われるかもしれない。小学校の思い出としても残るだろう。1回きりで、次はいつ買い換えるかわからない状況では、長期的な計画が立てにくい。要は、グルグルと回るシステムを作ってあげることである。もちろん、何年で変えるか、規模(個数)をどうするか、などは地域の間伐材などの木材がどの程度持続的に供給可能により決める。

さて、地球温暖化対策としては、国レベルで強い強制力をともなった施策が必要である。いっぽう、地域レベル、市民レベルでもさまざまなことが可能である。ものごとは、トップダウン形式よりも、ボトムアップ形式のほうがうまく行くことが多い。つまり、お上(おかみ)の命令よりも、下々(しもじみ)から自発的な動きが出てきたほうがうまく行く。とくに、町村など小さな地方自治体がモデル的な取組みをおこなって、それが他地域にも普及していくのが理想的である。しかし、国は市町村合併を金科玉条としており、モデル地区になりうる適当な規模の町や村がなくなりつつあるのは、はなはだ残念なことではある。

7月はじめから続いた連続真夏日もここに来て、やっと一息ついた。東京での今夏の最高気温は大手町の39度強だというが、その後、あちこちで、じつは40度を越えていたという報告があった。人間の慣れとはこわいもので、最近は、天気予報で最高気温は30度や32度だと聞くと、きょうは涼しいなと思うようになった。地球温暖化対策としては、国が方向性を示す大枠を決め、地域、企業、家庭、個人レベルで具体的な取組みをおこなう必要がある。それぞれのレベルで、何ができるか、考え、実行してみるべきだろう。think globally, act locally (地球規模でものを考え、地域レベルで行動する)と言われるゆえんである。(2004.8.22)
銘酒「久保田」で知られる朝日酒造の旧社長邸宅。
酒蔵拡張のため、当初は解体予定だったが、
曵き屋をして残した。このような木造家屋は二酸化
炭素を長期にわたり固定しており、地球環境保全に
も貢献することになる。

2004年3月をもって廃校となった新潟県越路町の岩塚
小学校(大熊孝著『技術にも自治がある』農文協参照
のこと)。今から49年前の昭和30年に開校した。これ
はすべて解体される方向という。この木造校舎に使用
している木材はほとんどが地元材とのこと。


新潟県越路町の今は亡き大物政治家のファミリー企業
による大規模土砂採取。一山ごっそり消えた。これは、
ほんの一部。土砂採取により二酸化炭素を固定してい
る地上の森林と林床の落葉や腐植の両方がなくなって
しまった。地下部の根もなくなった。