奥三面を想う
(新潟の水辺を考える会http://www.southernwind.co.jp/inpaku/「新潟の水辺だより」48号より転載)
今から25年くらい前になるが、私が学生のころ、奥三面を何度かおとずれたことがある。新潟県が治山、発電、いわゆる多目的ダムを作るというので、県が自然保護協会に委託した奥三面ダム建設計画に関する学術調査のうち、鳥類の生息調査を受け持ったからである。調査の結果、奥三面は天然林に生息する鳥と、里山に生息する鳥がともに生息するきわめて重要な自然環境を維持していると結論づけたことを覚えている。
最近の新聞で、三面川の流路を変更するために、土木工事が施されていたことが旧河床で発見されたことが報じられていた。また、2年ほど前に東京で見た民族文化映像研究所制作の映画で縄文時代からの墓、ストーンサークルの名残が脈々と息づいていることを知った。奥三面は自然環境だけでなく、文化的にも貴重な遺産なのである。
この自然的にも文化的にも貴重な奥三面がまもなく水没するという。ちょっと待ってくれと言いたい。何千年前にもさかのぼる文化遺産が水没してしまうのである。開発側は多目的ダムであるとするが、多目的ダムは目的をあいまいにするために使う、つまり責任をあいまいにするために使う常套手段だ。農水省の事業である、あの諫早の干拓も農地造成だけでなく、防災のためという、多目的な干拓である。
世のなかの移り変わりは激しい。10年前までは今のようにインターネット社会が到来するとはだれが予想しただろうか。30年も前に計画したことを、今実施して、それが果たして正しいのかどうか、見直し論も含めて、きちんと議論しておく必要があったのではないだろうか。諫早に至っては、今から45年も前、敗戦直後の計画である。
12月のはじめ、古都・京都で世界遺産条約の委員会が開催された。世界遺産条約は、文化遺産および自然遺産を人類全体のための世界の遺産として損傷、破壊などの脅威から保護し、保存するための国際的な協力および援助の体制を確立することを目的としている。日本ではこれまで、屋久島、白神山地、白川郷、原爆ドームなどが指定されている。今回の委員会でも奈良の文化財を指定することになったという。ここで注意しておくべきことは、ほとんどがすでに法的に担保されているところが二重指定されたということだ。ラムサール条約でも似たようなもので、すでに法的にカバーされているところが指定されたに過ぎない。日本が必要なのは、まったく新しい地域を、省庁間も含めて、関係者間の調整を行うことを通じ、新たに指定していくことではないだろうか。
奥三面ダムの建設による防災効果や発電による経済効果は比較的、数値で表しやすい。しかし、社会には数値で表せないことが多数あるはずである。そうした経済効果以外に価値を見出せる国こそが文化国家と言えるのではないだろうか。奥三面ダムの目的も含めて、幅広い議論が行われることを期待する。