冬をすごす野鳥たち
新潟県は雪の多い地域だ。おそらく、人が住んでいるところでこんなに雪の多いところは世界に類がないだろう。ぼくのいなかの越路町も雪が多量に降る。多いときは、積雪4メートルにも達することがある。溶けては消え、また雪の重みで圧縮されるから、毎日降った雪の量を単純に足していくと、10メートルを越すこともある。一晩に、1メートル積もることもある。そんなとき、人間でもびっくりするくらいであるから、ましてや野外にくらしている動物たちはなおさらである。
そうした動物たちが多雪環境にどのように対応しているのか、今から20年以上も前に越路町の低山帯でしらべたことがある。ほかの多雪地の低山帯でも同じような状況だと思う。どういう鳥が多いかであるが、アトリとマヒワが非常に多いことがわかった。この2種とも英語でフィンチと呼ばれる鳥で、大きな群れで行動する。放浪性の強い鳥で、広範囲を移動する。また、年によっては、ほとんど渡ってこない場合がり、これはヨーロッパでも同じようなことが知られていることから、これは普遍的な特性であると思われる。つまり、これらの鳥が大量に渡ってくるときは、この2種で生息鳥類のほとんどを占める。
さて、これらの鳥のつぎに多いのが、シジュウカラの仲間である。越路町の低山帯には、シジュウカラとヤマガラが一年じゅう生息している。冬になるとヒガラが訪れる。また、少数ながら、コガラが渡ってくることもある。アトリとマヒワはそれぞれ、自分の種だけで群れを作るが、シジュウカラの仲間はほかの種類といっしょに群れを作ることで知られている。これを混群という。混群に参加するのは、シジュウカラ科の鳥のほか、エナガ、キクイタダキ、コゲラ、アカゲラ、メジロなどである。変わったところでは、ルリビタキや最近日本でも野生化しているソウシチョウも混群にくわわることがある。
雪が大量に降ると、アトリやマヒワがこの地域からいなくなる。すべてが雪で覆われるからである。混群を作る鳥たちは、そこからいなくならない。シジュウカラやヤマガラは、積雪がないときは基本的には、地面で餌をあさる。雪が降ると、木の幹や葉の間に移動して、越冬中の虫やその卵を採食する。つまり、同一地域で採食場所を変えるのである。雪がとくに多いときは、この混群の羽数も大きくなる。つまり、混群を作ることによって、餌のとりにくいときに利益を得ているのである。自然界では餌はパッチ状に分布している。餌の有無や密度に濃淡があるのである。そうしたところでは、みんなで行動して、餌のあるところを教えてもらうわけである。中にはほかの鳥が見つけた餌をちゃっかり奪ってしまうものもいる。雪がさらに多く降り、餌も少ないときは、こうしたエナガやシジュウカラなどは、里に下りてきて、田んぼの畦に並木状に植えられている稲架木を訪れる。人家の庭に訪れるのもこうしたときだ。
多雪地域の里山の鳥は、アトリやマヒワが渡ってくるときは、これが主流を占め、それ以外のときは、混群を形成する鳥が多い。このほかの鳥も、もちろん生息しているが、数は少ない。ホオジロやモズ、ミソサザイなどは、崖地や湧水地、小川など、雪の積もらないところで餌を探している。雪への対応でもっともはっきりしているのは、あらかじめ秋になると南に渡ってしまうことである。でも、渡っていかない鳥たちもさまざまな対応をして、多雪環境に適応している。(2001.11.18)