越路町のシダ植物
越路町は最高が約300メートルの低標高地だ。それにより、自生している植物も低山から平野部の植物が多い。植物分布上は越路町は暖温帯林から冷温帯林の境目から少し、冷温帯林に入ったところに位置している。山地帯は、もともと人の手が入らないころの植生はブナ林であったと考えられている。たとえばはかま温泉への降口から田んぼをはさんで向こう側の斜面には、大きなブナが、春先であればほかの木々に先立ち、きれいな緑色の葉を展開させているのが見える。ほかの植物も同じように、冷温帯林から暖温帯林に分布する種類が多い。しかし、地理的に距離の近い出雲崎や柏崎などの植物の種類とは微妙に異なる。それらの地域が海に近く、越路町より暖かいからである。
私が中学生のころ、理科の教師の笹岡先生の影響もあり、シダ植物に関心を示すようになった。シダは陰花植物とも呼ばれ、花が咲かずに胞子でふえる。でも、青々とした緑の葉や、春先の芽吹きのころのうろこ状の毛に包まれた姿が美しいことから、花が咲かないにもかかわらず、あんがいファンが多い植物だ。ちょうどゼンマイやワラビでおなじみの拳状の形や文字通りぜんまい状の形は、バイオリンの棹の先に似ていることから、棹の先を意味するフィドゥルヘッドと呼ばれており、その形も種類によってじつに千差万別である。
中学のころはシダの採集と栽培にいそしんだ。採集に適した季節は秋のほかの植物が落葉したころで、常緑のシダはとくに目立ちやすい。でも夏緑性のシダはそのころではもちろん遅すぎる。おもに家の近所や中学校のあった朝日から来迎寺にかけて採集をおこなった。ときにはほかの地域にもでかけた。白山団地の近くの田んぼを埋め立てた場所にはトクサを小さくしたようなイヌドクサがあった。また、沢下条の大森先生の庭のイチョウの木の幹にはオシャグジデンダがびっしりと着生していて、驚いたものだ。
オシャグジデンダが岩田にもあった | ゼンマイのフィドゥルヘッド |
最近発行された越路町史自然編では、越路町で私の採集したことのないシダがいくつかあった。たとえば、キヨタキシダ、オシダ、タニヘゴ、イノモトソウ、ミズワラビなどだ。ちなみに、イヌドクサやオシャグジデンダ、山あいの田んぼ周辺に多いイヌスギナはこの越路町史には記載されていない。調べればまだまだ記載されていない種があるはずである。
中学校を卒業してからは、シダ植物よりも鳥類に関心が向いたため、採集はおこなわなかった。しかし、とくに大学生になって日本のあちこちに行くようになって、日本のシダ植物の多様性に驚いたものだ。越路町にはないアカウキクサやクモノスシダ、西表島では木生のヘゴや形の変わったヤブレガサウラボシに感激したことがある。最近でも、通勤途上や散歩の途中でシダが生えていると足が止まる。私のすんでいる烏山の隣の仙川駅は両側の土地からかなり下に位置しているため、線路の両側の斜面が適度な湿度を保ち、シダの生育に格好の場である。ゼンマイ、ヒメシダ、コウヤワラビなどが生えている。それらを見ていて、昔のことがとても懐かしく思い出され、去年、越路町の実家に帰ったときに、中学時代に庭に植えたコウヤワラビを少量、根ごと採集してきた。今、烏山のすまいの屋上に鉢植えになっており、まもなくきれいな芽をだすはずである。(2001年3月17日)
屋上のコウヤワラビ |