魚とり

四国に四万十川という川がある。人工物のほとんどない、自然状態に近い川だそうである。だから、魚の種類も多く、魚を捕る伝統的な漁法も守られている。四万十川のファンが多いこともうなずける。魚の捕り方というのは、地域地域で独特な方法があるようである。

私が生まれ育ったのは、長岡の西方で信濃川に合流する渋海川という河川の流域である。渋海川は、松之山を源流とし、松之山町、松代町、川西町、小国町を貫流し、越路町を経由して、長岡で信濃川に合流している。渋海川は、鈴木牧之の北越雪譜でも「渋海川さかべっとう」という章で紹介されている。

最近でこそ、子どもはあまり川に魚とりに行かなくなったようだが、私の子どものころは、よく出かけたものである。春先、雪解け水が少し減ったころ、婚姻色で真っ赤になったウグイが海から川へ遡上してくる。地元ではこれをツキバヨと呼んでいた。このウグイを捕るのに、投網や返しのついてない針を何本もつけた竿を使う。後者の竿を使うと、ウグイだけでなく、ときどきヤツメウナギがかかってくる。ヤツメウナギのなかには秋から冬にかけて産卵のために遡上したものが、まだ残っているものがいるのである。

最近は少なくなっているが、子どものころはドジョウがたくさんいた。田んぼの用水の小川にいるドジョウを目当てに、ちょうど一升瓶に似た形の竹製のドウと呼ばれる筒を使って、それを田んぼのわきの幅20センチほどの小川に仕掛けるのである。その筒の中に米糠を煎ったものを袋に入れて詰め込み、それを小川に仕掛けると、匂いに誘われたドジョウが一升瓶状の筒の底から入り、そのまま出られなくなるのである。この仕掛けを夕方設置し、朝見回りに行く。ひとつの筒に何十匹もドジョウが入っていることがよくあった。

ちょうどマグロ漁のはえ縄のように、凧糸に何本も大きな針をつけ、それに餌として大きなミミズをつける。凧糸の両側をちょうどいい大きさと形の石にしばりつけ、これも夕方、設置する。翌朝、ナマズがかかっているというしくみ
である。夕方設置したしかけを、翌朝まで待たずに夜10時ころに調べにいくとだいたいミゴイがかかっており、ナマズは少ない。朝見にいくとナマズが多くかかっていることから、ナマズは夜遅くから明け方にかけて活発に行動するのであろう。

渋海川の支流にはアブラハヤが棲んでいる。これを竿で釣るのであるが、貪欲らしく、何でもすぐ食いついてしまう。アリの卵やハチの幼虫、さらには飯粒でもかんたんに釣れた。とても、引きの強い魚だった。釣りをしていると、たまにではあったが、イシガメやモクズガニがかかったこともあった。また、ざるを持参して、小川で魚を捕ることもよくあった。

最近は、渋海川に釣りに行く人は少ないようだ。その証拠に土手や川辺りがとても荒れている。土手からなかなか水際に行きづらくなった。以前であれば、水際まで小道がついており、かんたんに到達することができた。人々があまり川に行かなくなり、おそらく昔のようには川に親近感を感じなくなったのではないだろうか。そのことで、人々が川に無関心になってしまったとしたら、とても残念なことである。(2001年5月20日)

越路の四季へ