越後の風物詩としての稲架木

稲架木と書いて、はさぎ、はざぎと読む。文字通り、稲を架けるための木である。かつて、籾を天然乾燥していたころは、田んぼの縁に並木上に植えられていた、はさぎに縄を横にわたして、それに刈り取った稲をかけて、天日で乾燥させた。天日で乾燥した米はとてもおいしかったが、今は、大規模な水田に変わり、トラクターが入りこめるようになり、籾も人工乾燥するようになった。それとともに、越後の風物詩でもあった、はさぎがほとんどなくなってしまった。ほとんど、絶滅状態なのである。

はさぎにつかわれる木は通直の樹形を示す種類が多い。思い出すままに、名前をあげると、チャンチン、スギ、クヌギ、イヌエンジュ、アオダモ、トネリコ、ハンノキなどである。このほかの種類を知っている人は教えていただきたいと思う。

平場の田んぼの畦や道路の両側に植えられているはさぎは、夏の暑い日に緑陰を提供してくれるだけでなく、さまざまな動物が訪れる。ニイニイゼミやアブラゼミ、カブトムシもよく訪れる。冬になって、大雪が降ったときは、それまで林で餌を探していたエナガや、ヤマガラ、シジュウカラ、コゲラ、アカゲラなども群れをなして、田んぼのなかにポツン、ポツンと点在しているはさぎを訪れ、そこで虫の卵や、越冬中の虫をあさっていた。

稲の干し方は、地域地域によって異なっている。田んぼに杭を立てて、そこに架ける地域もあるし、新潟のようにはさぎに5段、6段と干すのではなく、田んぼに棒を組み立て、1段もしくは2段に干すところもある。以前、訪れたフィリピンでは、道路の脇に稲ごと、そのまま置いて、乾かしていた。秋の風物詩が消えて、何年くらい経っただろうか。昔から親しまれてきた景観がなくなっていくのは、とても残念なことである。(2001年4月22日)

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