クロサンショウウオ
子どものころから信じていたことが、あるきっかけでそれがまちがいであることに気づくことがよくある。それがわかったとき、なんでこんなまちがいをしたのだろうと思うし、新しい発見をしてうれしく思うこともある。私が経験したことはクロサンショウウオの卵のことである。
春先、雪が消えしばらくすると山中の小さな池や水溜まりに一対の白いアケビの実のような卵が産卵される。雪の多さにもよるが、ちょうど4月の中旬から下旬にかけてのころである。産卵したてのころは、その形は細長く、そのなかにひとつひとつ卵が入っている。
私はこれを長い間、イモリの卵だと信じて疑わなかった。そういうふうに教わっていたし、その卵があるところには、必ずと言っていいほど、イモリが住んでいるのだ。これがイモリの卵でなく、クロサンショウウオの卵嚢であることを知ったのは、大学院生になってからであった。当時、私が所属していた東京大学農学部の森林動物学教室には、いろいろな分野を研究している人たちがいた。そんななかに、両生類や爬虫類の好きな学生がひとりいた。彼の影響で両生類や爬虫類に私も興味をおぼえ、図鑑や写真集を見る機会もふえた。そんなときに、じつはあのアケビの実がクロサンショウウオの卵嚢だというのを知ったのである。
春先になるとある水溜まりでは、クロサンショウウオが集団で見つかることは知っていた。また、それが突然いなくなり、その水溜まりにはあのアケビの実があることも知っていた。しかし、アケビの実はイモリの卵だと信じていたため、先入感として、クロサンシュウウオと結び付けることを拒んでいたのだ。
ちなみに、イモリの卵は水草の茎に卵をひとつひとつ別々に産むそうである。