春の山菜採り


fuki平場から山地へと移行するところに位置している越路町では、雪は町内同時に降るのに対し、雪が消えるのは地域的にかなりばらついている。とは言っても、4月になると春先特有のフェーン現象もあり、雪はほとんど消えてしまう。すると苗代づくり、代掻きと農作業が忙しくなる。そうした多忙のなかでも、春先の山菜採りは楽しみのひとつだった。

いちばんはじめに出るのがフキノトウである。フキノトウはゆでた後、細かく刻んで油でいためてから味噌と砂糖で味付けする。苦味があり、酒の肴にはうってつけである。ユリ科のアサツキも味噌と砂糖、油がよく合う。ウドやゼンマイは急斜面に多く、崖を登りながら採集することが多い。ゼンマイは藁灰を入れたお湯でゆでた後、陽に当てて乾燥させる。このほか、ネマガリダケと呼ぶチシマザサの筍も人気がある山菜である。これらは山菜の代表的なもので、どの地域でも人気がある。タラノキの芽も代表のひとつに加えていいかもしれない。


kusasotetsu クサソテツを仕分け中

何をを食べて、何を食べないかは、地域ごとに異なることが多い。越路町にはこのほかにも食べられる山菜が数多くある。たとえば、シオデ、コシアブラ、イタドリ、アケビ、ヤブカンゾウ、クサソテツ(こごみ)、カタクリ、ワラビ、オオバギボウシ(うるい)などである。越路町ではコシアブラはほとんどの人が食べない。カタクリも、球根だけでなく、葉も食べられるが、これも食べないようである。

最近は、東京のスーパーでも春先になると山菜コーナーが設けられ、タラの芽、カタクリの葉、オオバギボウシ、フキノトウなどが顔を並べる。めずらしいところでは、ギョウジャニンニク(あいぬねぎ)も置いていることがある。カタクリの葉があるということは、越路町以外ではかなり人気があるのかもしれない。

山菜採りはそれを目的にする場合もあるが、農作業の傍ら、ついでに採ることが多い。田んぼ仕事をしながら、時間を見つけて、ウドやゼンマイ、筍を採る。私が子供のころ、歩いて1時間近くもかかる山林まで、父親について、冬の間、雪の重みで倒れたスギを縄で起こしに行ったことがあった。往復時間が長いこともあり、朝、弁当と味噌、鍋持参で出かける。山菜を味噌汁の具にして、弁当を食べるのである。父が味噌汁を作ったり、オオウバユリの球根を掘り起こし、それを焼いて食べたりした。

雪の重みで落ちたスギの枯れ枝や枯れ葉を拾う作業は「まっこ拾い」と呼び、これはもっぱら母親の仕事であった。枯れ枝や枯れ葉は囲炉裏やかまどの焚きつけの材料に使う。そうした作業の合間にゼンマイやウドを採るのである。イタドリは生で、皮をむいてそのまま食べる。子供が好んで食べる山菜である。イタドリは越路町ではこのように生で食べるが、ある県では油と醤油、砂糖で煮て食べる。食べる山菜の種類だけでなく、食べ方も地方地方により、異なっているのは文化の多様性、あるいは文化の伝播性との関係からも、とても興味深いことである。 (2001年3月24日)

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