こしじ水と緑の会はこれまで、山林取得のための基金を積み立てるとともに、そのため
の候補地を探してきた。候補地のひとつとして、事務局の近くにある3ha弱の山林があ
る。まず現状把握が必要ということで、2005年7月26日に平澤亨理事長ほか関係者が現
地調査をおこない、私もそれに参加することができた。
事務局で現地の説明を受けた後、実際に候補地内の朝日城址まで行き、その後、権ヶ沢
(ごんがさわ)の杉林に降りてみた。そこには、シダ類など湿生の植物が多数生えてい
た。そのなかにヤマドリゼンマイというシダがあった。このシダは、尾瀬のような高山
の湿地に大きな群落で生育していることで知られる。
私は事務局のある旧越路町内でこのシダを見たことがなかった。帰宅して、『越路町史・
別編1自然』(越路町1998)を調べてみたら、越路町のシダ植物リストにヤマドリゼン
マイの名はなかった。そこで、当日同行した中静透さんと渡辺茂さんに、越路町史には
出ていないので、越路町初記録ではないかと伝えたら、中静さんから「越路町で見たよ
うな記憶がある」との答が返って来た。渡辺さんからは、かつて越路中学校の先生をされ
ていた笹岡茂氏編(1972)による『越路の植物』には、「巴ケ丘(ゴンガ沢)。中部以
北の湿原に生じる 。海抜20米たらずの群落は珍らしい」とあり、写真も掲載されているこ
とを教えてもらった。
私たちが、ある地域の自然環境や生物多様性の保全を進めていくときには、その地域に存
在している生物の目録づくり(インベントリーともいう)が必要である。その場合、過去
に発表された論文や記録は重要な資料となる。
日本の各地で地域の植物目録が出版されているが、実際の調査をおこなうのは、たいてい
大学の先生などの専門家ではなく、中学校の先生であったり、アマチュアの同好家であっ
たりする。笹岡先生の『越路の植物』のように、中学生が調査に参加する場合もある。
こしじ水と緑の会では、朝日酒造自然保護助成基金により新潟県内の自然保護活動に助成
している。応募要項には、助成対象となる活動の一例として、地域の自然史を記載する研
究成果の発表を掲げており、要件を満たせば地域の生物目録づくりも支援することにして
いる。そうした目録は地域の自然を守っていくうえで欠かせないからだ。
今回の現地調査で見つけたヤマドリゼンマイをめぐって、記録することの意義をあらため
て感じたことを紹介するとともに、『越路の植物』をまとめられた今は亡き笹岡先生のご
尽力に再度、敬意を表するしだいである。(2005.11.5)
|