「かってに改蔵」考証学。
その壱
なぜ地丹や羽美は、別物のキャラクターになっていったのか。
久米田作品の一つの特徴として、キャラが初期と後期では別物になると言う特徴がある。
「南国」でも、キャラの変換があった。そして、現在連載中の「かってに改蔵」もそうである。
なぜか?
「南国」端の初連載作品である、絵や、キャラクターの性格づけ、作風等がまだ固まっていなかったことが影響しているものと思われた。
しかし、改蔵は違う、すでに南国などの連載で、久米田氏、独特の画風なども固まった後の作品である。にもかかわらず、キャラクターが連載当初と変わってきている、これはなぜか?
大体、「南国」は全てのキャラ(特に外観が)が変わっている。はっきり言って、第一巻と、最後の巻のキャラクターを比較すれば、その余りの変貌振りに驚くに違い有るま。
しかし、「かってに改蔵」においては変化しているキャラクターは「坪内地丹」と「名取羽美」の二名だけである。そう、この二名だけが変わったと言うのに謎を解くかぎが有るのだ。
改蔵の初期のレギュラーメンバーは、「彩園すず」、「名取羽美」、「勝改蔵」、「坪内地丹」の4名であった。
そして
男性キャラ。「勝改蔵」、「坪内地丹」
女性キャラ。「彩園すず」、「名取羽美」
変な人。「彩園すず」、「勝改蔵」
それに振り回される人。「名取羽美」、「坪内地丹」
意外な側面のある人。「彩園すず」、「坪内地丹」
と言う風にキャラの性格づけが行われていた。
そう、ちょうどそれぞれ二人ずついたのである。これでこの作品内のバランスを取っていたのである。
しかし、そこに「山田さん」が現れたのである。
最初彼女はただの脇役であった。しかし、彼女は初登場の時、「変態に振り回される」と言う役割を演じてしまったのである。
そう、今まで羽美の役割だった物が彼女に移っていったのである。これでまず「羽美」から、「変態に振り回される。」と言う大切な役割が消えたのである。
漫画界にもエネルギー保存の法則が存在する。「変態に振り回される」と言う役割を演じるキャラは三人も要らない。そう、キャパシティーは2人なのである。
そこでまず羽美から、「変態に振り回される」と言う役割が消滅したのである。
彼女に残ったのは「正統派ヒロイン」と言う部分だけである。しかし、久米田氏の作品世界において、正統派ヒロインのキャパシティーは一人が限界である。
そして、その後山田さんは、ファイヤーダンサーの素質などを開花させ、「意外性」も加わり始めた。そう、今度は、地丹の演じていた「意外性」を山田さんが演じるようになった。この作品における意外性のキャラのキャパシティーも2人が限界である。
こうして、地丹から「意外性」が消え、彼はただのやられキャラと化してしまったのである。
さらに山田さんの攻勢は続く。
「美人で有名なクラス委員」これは「主人公の幼なじみ」と並ぶ、「正統派ヒロイン」の要素である。そう、羽美の最後の砦である、「正統派ヒロイン」の地位までも山田さんは奪ってしまったのである。
もう羽美には何も残っていない。
しかし、彼女には改蔵を変態にしたという過去がある。何もなくなったからといって、そうおいそれと消す訳にはいかない。しかし、何の存在意義も無いキャラクターが生き残れるほど久米田作品の世界は甘くは無い。
そう、彼女に何かしらの存在意義を与えなければならなくなったのである。
ここで、大きな役割を演じたのが「天才塾」の面々である。
天才塾の面々は言うまでも無く「変人」である。
久米田作品における「変人」のキャパシティーは「∞」である。そう、基本的に「変人」は何人登場し様が構わないのである。
しかしいくら無限だからと言ってもバランスは大切である。
初期には、「勝改蔵」に対する「彩園すず」と言う男女のバランスが取れていた。
しかし、天才塾の人間が出てくると、男女のバランスが悪くなってきた。そこで、バランスを取るキャラクターの投入が試みられた。「ジュン」の登場である。しかし、女性の「変人」、と言う役割以前に「彩園すず」の「ライバル」と言う役割が与えられたのが彼女の不幸である。そう、「彩園すず」の強力さの前に彼女はあえなく敗れ去ったのである。再び、バランスを取るキャラが必要になった、そこで白羽の矢が立ったのが「名取羽美」である。
そう、全てを「山田さん」に奪われ、存在意義の無くなりかけた彼女に、天才塾の人間とバランスを取るための「変人」と言う役割が与えられたのである。
こうして存在意義の無くなりかけていた「名取羽美」は「変人キャラ」として見事に復活したのである。