その1
  いりまじ      おおやがはら            つら
 入間道の 大家が原の いわい蔓
     引かばぬるぬる 我にな絶えそね

                                                                             (読み人知らず)

相聞歌である。入間路の大家が原に生えているいわいづらの、引っ張るとずるずるつながって解けてくるように、私との仲を絶やさないで。
東歌の中に、埼玉県の歌は少ない。面白さからいっても、この歌くらいしか出てこない。この歌には類似の歌がいくつかある。しかし分からない部分は同じように分からない。諸説ある部分は、まず大家が原の場所である。坂戸市には、この歌の碑があり、現在の西大家付近としている。又、日高市の大谷沢や越生町の大谷ではないかという説もある。
もう一つは「いわいづら」とは現在の何かということである。湿地帯で引っ張るとずるずるつながってくるもの、じゅんさい、すべりひゆ、みずはこべなどではないかと考えられている。
ちなみに、ぬるぬるとは、現在の感覚のぬるぬる状態を意味するのではなく、ずるずるつながる様を表すと考えられているが、解釈上、言葉に引きずられる嫌いはある。

    その2
     多摩川に さらす手作り さらさらに
      なにぞこの児の ここだかなしき


    同じく相聞歌。多摩川でさらしている布のように、今更のように、どうしてこれほどこの娘がい   とおしいのだろう。
    武蔵の国の東歌ではもっとも有名な歌である。多摩川で布をさらすという行為から、今でも残っている地名が思い     浮かぶ。狛江市には歌碑がある。調布、砧など地場産業としての麻布(あさぬの)が日常生活で締める大きさを感    じさせる。
    又、この歌は男歌か女歌かと考えると、当時の奔放な女性像が浮かび上がってくるのが楽しいという説もある。
    東歌には、この歌のように直接的な愛情表現を歌った歌も多い。