緑内障手術

  繊維柱帯切除術

生まれて初めての入院、手術を体験した。以下は、その入院、手術の記録である。

緑内障の手術ほど、張り合いのない手術はないと思う。現状より症状が決して良くはならないからである。快気祝いのない手術である。それでも手術は行われ、失明を免れる人は多い。

私の受けた繊維柱帯切除術という手術は、成功率が高く、合併症も少ない手術で、眼球に小さな穴を開けて房水を目の外に流すような配水管を作ることで眼圧を低下させる。術後、約1週間の入院が必要とのことだ。この手術の詳細は7ぺージにわたる、図入りの説明書に書かれており、この説明書を事前に手渡された。
ただ、初めての入院生活とはどんなものか、手術はどんなスケジュールで行われるのか、分からないままの入院で多少の不安があったことは間違いない。もちろん、入院案内という小冊子も事前に貰っていたし、そこまでは分かっていたのだが・・・・。さて。

6月19日(土)
息子の運転で病院に向かう。思いがけず時間がかかり、予定時間10分前に到着。同時に入院予定の他の4人はもう、疾うに着いていたようだった。3Fのデイルームで入院担当のナースから説明を受ける。ここで入院のしおりを貰い、1日のスケジュールが少し理解できた。入浴のこと、薬のこと、電話、治療室、など。部屋は4人部屋で、一番はずれにあった。満室で、窓際のベッドが与えられる。一人辛そうにしている人がおり、あんな風になるのだろうかと心配に。
そうこうしている内にすぐ昼食。冷めていて、おいしいとは言えないが、普段あまり食べないような調理がしてあり、これなら何とか食べられそうだと安心。午後、医師(丸山Dr)の診察があり、入院療養計画書なるものが渡された。眼圧は25と14で、大分落ち着いてきたと分かる。続いてナースの聴聞。これは、医師とは別に患者のことを良く知っておこうというためのものらしい。胸痛のことを一応話しておいた。3時過ぎ、ここまで一緒に聞いてくれた息子が帰った。入れ替わりに法事帰りの妻が来たが、もう特に何もなく時間の経過を待っているだけ。ナースの巡回で測った血圧も安定しており、目の調子も一時のようなことはなくなって順調。夜はテレビを見るだけ、G勝つ。早寝。

6月20日(日)
夜は熟睡とまではいかなかった。5時には目覚め、トイレに行って、5時半からゴルフの中継を見る。朝のうちに、説明を受けたとおり、風呂の予約を入れた。10時過ぎにナースの巡回があり、その後で予約時間少し前に行ってみると、風呂には先客がいた。もう一人の女性も、予約入れてあるけど、ずっとふさがっていて入れないとこぼしている。ナースに言うと、予約なしで入っていた老女をせかしてくれたが、時間オーバー。大忙しで入浴、洗髪を済ませた。こんなことなら、最初からシャワーにしておくんだったと思う。昼食後、さすがに眠くなり、少しうとうとしていると、娘一家が来る。デイルームで面会。息子も来て賑やかにしていたが、お菓子を取りに部屋へ戻ったところで、当直医(川井Dr)に出会い、検診。眼圧は、31と13。左も緑内障ですかと言いながら、結構長い間診てくれた後で、明日のための点滴用の針を刺された。今日から必要かと思って尋ねたら、明日はバタバタするからとのこと。子供たちから、父の日のプレゼント、花とCDプレイヤーを貰う。

6月21日(月)
手術日。携帯にメールで、グループの掲示板に反響があるとのこと。裏付けるかのようにYさんから見舞いのメールが入る。6時前から、TVで全米オープンを観る。朝8時前に診察あり。眼圧は23と13。白土先生の診察は9時前から「落ち着いては来たけど、やらなきゃ仕方ないな」といつもの言い方。血圧も低め、動かないので胸痛も起こらない。前のベッドのKさん退院。他の二人は明日退院のようだ。自分は手術する前なのに、退院の人がうらやましい。午後1時過ぎに妻来る。暇な時間は般若心経の解説書を読む。2時半に手術着に着替え、3時前にはトイレも済ませて待機態勢に入る。予定通り、3時半には点滴開始。手術は10人で、最後だから少し遅れると思う、とは言われていたが、待てど暮らせどお呼びは掛からず、メールなどして気を紛らす。6時ごろに仲間にメールして、まだだよ、と訴える。娘一家も来て、まだなのーとびっくり。点滴も終わってしまうし、食事はどうするのかと思っていると、手術担当のナースが来て、食べてはいけないとは言われていないので、先に食べてもいいと言う。きっと、食べ出すと呼びにくるね、と言いながら食べ始め、案の定、終わった途端にお迎えが来た。車椅子、初乗り。家族がぞろぞろと手術室前までついて来る。手を振って、最後は娘が、頑張ってと言いながら手を握る。

手術。
入り口から二つのドアを通り抜けると、手術室正面に白土先生。眼鏡を掛けていないので、室内の様子が判然と分からない。手術台に横になると、さすがに緊張しているのが分かる。何を、どんな風にやられるのか、まさにまな板の鯉状態。酸素が鼻の下へ、血圧計、心電図などの電極がセットされる。何枚かの布を掛けられて、右目だけ開いたものが最後に。目の周辺の消毒。白土先生の、さあはじめるよの声。まずは、目の固定。これが一番痛いと言われる、と言いながら固定具がはめられる。何か見えながら、手術が行われるかと思ったが、まったく見えない。目の前で、メスをチャリンとやられたら嫌だなと思っていたが、そんなこともなく、最初に麻酔薬と、生理食塩水らしいものが絶えず目を洗う。時々、チクチクという感じと押えられるような微かな鈍痛。抗癌剤の時は時間を計っているようだった。なにやら、枚数を数えたり、却って真上からだと良さそうで、良くないだろう、などと指導されている先生の声が聞こえる。恐らくは弁を付けているのだろうと想像する。ずっと左下を見ているようにと言われていたが、続けていると緊張する。こんなもんかと分かったあたりから、緊張をほぐそうと心の中で読誦を始める。薬師如来真言35回。光明真言7回。般若心経など。ただ、一生懸命唱えると、つい気がそぞろになり、左下見てて、と声が飛ぶ。緊張して、いつの間にか両手ががちがちになっていて、自然と逃げるような、伸び上がるような身体になり、気づいてはふっと力を抜く。後で、血圧が180まで上がっていたから、大分緊張されてましたね、と言われた。はい終わりましたよ、と先生に声を掛けられ、何も答えられないうちに先生は退出してしまったようだ。スタッフの声で、早かったねと言うのが聞こえた。すぐに軟膏が塗られ、眼帯をして手術台を降りる。誰彼となく、有難うございました、とお礼を言いながら、手術室から車椅子で移動。デイルームでは家族が待っていた。手術時間は実質15分、トータルで30分ほどだった。安静時間だし、7時半になっていたので帰ってもらう。さすがに疲れていたのか、トイレにも行かず、血圧を2度測ってもらっただけで寝てしまった。

目を使うのはやばいと思いつつ、一番心配してくれた人にだけ無事手術終了をメールで報告。この頃はまだ目が疼いていた。目を動かすと痛む。1時ごろにトイレに起きた頃にはようよう少し和らいだ。

 6月22日(火)
5時過ぎに目覚め、時々チクチクするだけ。眼鏡を掛けずに朝食を取りに行く。やはり、勝手悪い。
診察は8時前。眼帯外して眼圧を診る。ちょっと怖い感じがして緊張した。最初は高いということでマッサージをすると7になった。左は13。日中は眼鏡だけでOKとか、夜は眼帯をナースにしてもらうよう言われる。明日から、シャワーと洗髪OK。2日目にしては順調とか、ホッとする。残りの二人が退院。一人になったと思ったのもつかの間、5Fから70歳の男性が転室してきた。昼をはさんで退屈な時間が続く。ナースの巡回もなくひたすら本を読み、CDを聴く。洗髪剤で髪を拭き、2Fまで散歩。つい、誰か来ないかなと思ってしまう。5時過ぎに夕方の検診。やはり、マッサージしないと眼圧は下がらないようだ。左は10、マッサージ後の右は殆んどゼロとのこと。隣の住人は、タバコを吸いに、始終いなくなる。ナースが目薬差しに来ては、アラいない、の繰り返し。夜のテレビはG負け、早々に切り替える。10時就寝。

 6月23日(水)
12時と5時に目覚めるが、良く眠れたほうだ。7時半の朝食までが長く感じる。朝食終了頃に川井先生が呼びに来る。一番で診察。34からマッサージで15に。左は12。これで様子見ましょうとのこと。朝、初めて目を見たら、充血で真っ赤。細部は見えず、分からない。8時過ぎに白土先生の回診。糸5本のうちの1本(Temporary side)切ることを指示。マッサージで一部流れ出すが、15以下に下がらないらしい。検診終了後、すぐに外来に行き、レーザーで1本切る。痛くないと言われたが、時にチクッとする。レーザー25発以上。一点を見つめてじっとしているのは、結構緊張する。血圧上がったかも。処置後は7に下がった。ナース交代したので洗髪を頼み、10時ごろ自分はシャワーを浴びる。首から下だけでもさっぱりした。昼をはさんで、読書とCD。暇なので、少し散歩をと思っていたら、妻来る。5時頃洗髪。夕方の検診、22と16。左が少し高いし、右はこの位でどうなのか、良く分からなかったが、様子見てもう1本切るかどうかですね、と言われる。退屈な夜。10時就寝。

 6月24日(木)
5時過ぎ起床。6時にはナースの巡回もあり、眼も診ていく。昨晩のメールに返信2通。7時半に川井Drの検診。24と12。マッサージして14に落ちる。白土先生回診。上もきれいだし、様子見ようとのこと。シャワーを浴びてから、10時半から遊歩道散歩。少し汗ばむ。11時、泌尿器の検査入院の人が入室。1ヶ月前に緑内障の手術をしたとのこと、様子聞く。PM、さらに一人入室で満室となる。4時半に午後の診察。16でマッサージして2に。左は10。大分調子は良いみたいだ。リンデロン、術後は使用していても問題ないか尋ねる。調べておくと言われた。Drの話し振りから想定して、息子に、退院は火曜日以降になりそうだと、メールを入れる。野球も3連敗でテレビは見るものなし。早目に寝たが睡眠不十分。一度、胸が痛い感じがしたので、気になって眠れなかった。

 6月25日(金)
朝の診察25→8と13。朝は高いですね、と言われる。ステロイドは心配ないとの事。影響する場所が違うからだそうだ。川井Drと丸山Drが診て、丸山Drから視力検査とレーザーを通告された。それで、月曜には退院できると思うとのこと。早速、息子に連絡。9時前にレーザー、今回は8発でOK。留守の間にシーツ交換、気分よし。洗髪剤に頭きれいに、午前中にシャワーも浴びた。昨日、検査入院のOさん退院。昼食後、遊歩道散歩。1時過ぎに隣のHさん手術へ。静か。2時半から洗髪してもらう。3時、MよりTELあり。誰も部屋にいなかったので、少し話する。妻来る。Hさん、手術から戻る、2時間の大手術だった。レーザー照射を大分したようで、頭が痛いらしい。K見舞いに来る。MLで情報が流れたとのこと。みんな知ってしまったようだ。夕食後、少し院内歩く。昨日からの散歩で、ふくらはぎが少し痛い。足が弱っている。もうすっかりくつろいでいた8時に、川井Drが呼びに来た。9に落ちていた。押えるとすぐにボッルベが出来て、好い状態だと言う。これなら、予定通り退院出来るでしょうと言われる。LUCKY!!夜8時から、ハリーポッターを3時間も見てしまった。
 
 6月26日(土)
少し寝不足かなと思いつつも、いつもの時間には目覚める。雨もどうやら上がっている。朝の診察。丸山Dr、10と15。順調とのこと。月曜の退院決定。視力検査も実施、特に落ちていないから良いとのこと。朝の遊歩道散歩で、携帯を使用して花を撮影。昼食後、院内の散歩から戻るとTが見舞いに来ていた。1時間ばかり話して、入れ違いにN、3時にはゴルフ仲間4人と、立て続けに見舞者来る。随分と、忙しい変化に富んだ日だったが、夕食後のナース巡回での質問、食事は食べた?目は痛くない?どこか悪い所ない?と飲み薬チェックだけはいつも通り。

 6月27日(日)
比較的良く眠れて4時過ぎに目覚める。夜のごろごろ感は目覚めたときにはまったくなく、好い感じだったが、目を動かしていると、どうしても戻ってくる。朝食後、隣のHさんと雑談。仕事(ICのコネクター製造)のことや子供のこと。9時ごろ、遊歩道散歩。丸山Dr診察、8と13。涙出るかと聞かれたので、「はい」と答えると、漏れている所があるので縫いましょう、と言って簡単に縫合。明日の退院は確定で、次週の予約も取ってもらう。来週は、丸山Drが診てから、白土先生に回すとのこと。明日からアトロピン中止。血圧も安定、137,73。10時のナース巡回後は時間の経つのが遅い。面会時間が待ち遠しい。1時前に娘一家、1時半に息子来る。明日は退院祝いにすしを食べに行こうと約束した。2時半頃、メル友5人来る。大勢で来てくれたのにびっくり。おしゃべりして写真を撮った。1時間ほどで帰る。急に静かに。冷房効き過ぎて寒い。今後の目薬も届く。入院費用の概算を聞き、家と息子に連絡。

 6月28日(月)
良く寝た。朝一番、目じりに血の色があって心配したが、ナースの巡回で診てもらい大丈夫とのこと。血圧は145,75くらいでOK。8時前に丸山Drの診察、12と13で順調。充血もかなり引いた。退院後は普通の生活に戻ってよい。多少の血液の浸潤はあっても問題ないと言われた。とび職のHさんが面白い話を聞かせてくれる。隣のHさんの方は会社を心配している。9時、白土先生の回診。きれいだ、みんなこんなだと好いんだけどな、と言われた。涙の漏れは縫っていなかった所だから仕方ない、血液性のブレブも問題ない、とか。
9時半に家族が来て、10時には精算出来た。最後の買い物、サエキ眼帯。昼過ぎ無事、帰宅。

後日分かったこと。この病院は、オリコンメディアのナースの看護が好い病院のトップにランクされていた。平均年齢30歳以下、最高でも35歳くらいという若くて気の良く利くナースが揃っていた。マニュアルをきちんと守り、一度だけ言ったら、二度と名前も間違えなかった。
写真は病院の遊歩道に咲いている花を携帯カメラで撮ったもの。