父は大学の教授だった。今は、退官している。浜辺で育ったせいか、根っからの海好き人間。釣りをこよなく愛している。歩くより泳いだほうがラクだとか、生まれ変わったら漁師になりたいとか言い続けていた。学生や研究室の方々は、「先生は、退官したら、海に還るらしい」とマジメに噂していた。
ある朝、父がいつも釣りに行く港に、テレビ局の取材がやってきた。釣りをしている人達に、レポーターが「ここの釣り主のような方は、どなたですか?」と尋ねた。皆、一斉に父を指さした。 「それじゃ、本番行きま〜す!」
画面に映ったのは、父のエンジ色の愛車だけだった。大人気ないったらありゃしない。父は咄嗟に逃走したのだった。にもかかわらず、父に釣り仲間から電話がジャンジャンかかってきた。
父は、1日だけ自粛してみた。
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