診療小話(ああ、勘違い)
『第1話』
私がまだ研修医時代の話です。
ある日、田舎(熊本市も田舎だけど、もっともっと田舎)の病院に
当直のアルバイトに行きました。
夜遅くその病院に到着した私は、ナ−スセンタ−に直行しました。
この病院で当直するのは初めてでした。
初めての病院というものは、ナ−スセンタ−すら場所がよくわからないのです。
迷いながら3階のナ−スセンタ−にたどりつき、
看護婦さんに大学病院から来た当直医であることを告げました。
やさしそうな看護婦さんでしたのでほっとしました。
私は医師当直室の場所をたずねました。
「医師当直室はこの階段を降りて1階の北側一番奥の部屋ですよ。
ちょうど1階が改装中なので御迷惑かけます。」
と、やさしそうな看護婦さんは丁寧に教えてくれました。
「いえいえ結構ですよ。私は今日疲れてるから寝るだけですから。」
私はそう言うと2階、1階と階段を下りて北側一番奥の部屋に入りました。
電気をつけてソファ−に腰を下ろしましたが、前日が大学病院でほぼ徹夜だった
ためかソファ−でそのまま眠ってしまいました。
30分位うとうとしたでしょうか、食事をしてなかったのに気づき、
横の電話でナ−スセンタ−の先ほどのやさしい看護婦さんに電話しました。
「すみません。当直医の吉本ですが、食事はどこで食べればよいのでしょうか?」
「先生!!どこにいらっしゃるんですか?
先程から重症患者さんの指示を受けなければならないのに、
何度当直室に電話しても出られないからみんな探していたんですよ。困ります!!」
と、先ほどのやさしい看護婦さんとは思えない大きな声でしかられました。
「そんなに怒らないで下さいよ。私はずっと、当直室にいましたよ。
少し眠ってましたけど。」
「何を言ってるんですか、当直室には何度も先生を探しに行きましたよ!・・・
あ〜〜、先生! この内線番号は・・・、先生、そこは地下の霊安室ですよ。。」
私はそれから慌てて周りを見回しました。
よく見るとなるほど御遺体がないだけで、真ん中に御遺体がくればりっぱな霊安室でした。
ナ−スセンタ−は3階と思っていたけれど後で確認したら2階でした。
それで地下まで降りちゃったんだ。
霊安室で30分もうたた寝した私は、ばか! 大ばか!
改装中と言われて、当直室と思い込んでしまった。。。
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