ああ、勘違い
『第4話』
医師になって4年目のころの話です。
私はある日曜日に地方の精神科の病院の日曜当番(日直といいます)に行くように先輩から頼まれました。
先輩は自分で行く予定だったらしいのですが、
急用が出来たために私に替わりに行くようにという電話での指示でした。
私もこの日曜日はドライブの予定でしたが、先輩の命令であれば仕方がありません。
日直に行くことにしました。この精神科の病院は初めてでした。
先輩の話では、この病院の院長先生の奥様はエスプレッソコ−ヒ−に凝っているらしく、
日直や当直の若いドクタ-が来ると必ず裏の自宅に呼んで、
自慢のエスプレッソを御馳走するということでした。
私は朝の9時にはこの病院に入りました。
病棟回診などをすませ、当直室で学会発表用のレポ−トを書いているとき、
やはり院長先生の奥様から電話がありました。
「先生、ご苦労様です。美味しいコ-ヒ-をいれましたから、裏の院長宅までいらして下さい。」と言われ、
病院の裏玄関を出て院長宅に白衣のまま出向きました。
「こんにちわ。今日の日直の吉本です。コ-ヒ-をいただきに参りました。」
「えっ、は〜、・・・あの、こちらへど〜ぞ。」と応接間に案内されました。
「しばらくお待ち下さい。コ-ヒ-ですね。」
なんだい、コ-ヒ-ですねだって。。コ-ヒ-出すのが楽しみなくせに・・・と思いましたが、
まあ、おごちそうになるんだから文句をいうのはよそうと思いしばらく待っていました。
でも待てども待てどもコ-ヒ-が出てきません。
遅いな〜と思っていると、「お待たせしました。」と奥様がコ-ヒ-とケ−キを持ってきてくれました。
「すみません。じゃ、いただきます。」と言って、飲み始めましたが、このコ−ヒ-はどう考えてもエスプレッソではなくアメリカンとしか思えない味でした。
エスプレッソの機械が故障したかな等と考えながら、私の方からいろいろ奥様にお話をし始めました。
その日の午前中病棟回診した時の患者さんのことや私の今度の学会発表のテ−マなど
聞かれもしないことをいろいろ話しました。
ひととおり話がつきた頃この奥様がおっしゃいました。
「先生方も大変ですね〜。日曜まで仕事しなくちゃならないんですね。
お隣の院長先生も夜遅くまで診療なさっていますよ。」
「えっ?? お隣??」
そうです。私は院長宅ではなく、お隣のお家にお邪魔していたのです。
私は顔を赤らめ飲むコ−ヒ-の手が止まり、「すいません」と頭を下げ、立ち上がると親切なお隣さんは、
ゆっくりとコーヒーを飲んで行って下さいと言ってくれた。
しかしあまりの恥ずかしさに居たたまれずその場を少しでも早く立ち去りたかったので、
一目散にでていきました。
病院の裏玄関から入ろうとすると院長宅から本当の奥様が
「先生コ−ヒ−冷めるじゃないですか。早く飲みに来て下さい。」と言われ、
私は何事もなかったかの様に2杯目のコ−ヒ−を飲みに行きました。
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