おっさんのつぶやき16

ああ、勘違い

『第6話』

私がある救急病院に勤務していたころの話です。
この病院は有名な救急病院で、
私たちドクタ-も地獄の救急当直というものがありました。
月に3回程度当直の義務がありました。
すべてのドクタ-で交代で勤務するわけです。
割り振りは医局の事務員が適当に順番にカレンダ−に名前を書きます。
不公平がないように順番に日曜平日関係なく順番組むわけです。
ちょうど10日に1回程度まわってくる計算でした。
この当直はそんじょそこらの病院の当直と違い
昼間の激務よりはるかにたいへんなのです。
夕方6時から翌朝9時まででだいたい患者さんは70人から80人来られます。
その中に救急車が普通5〜6台、
多いときは10台以上の救急車を一人で診なければなりませんでした。
もちろん仮眠をとる時間など全くなく、シャワ-を浴びる時間も無い程です。
患者さんの流れしだいではほとんど救急外来で診療しっぱなしで
朝をむかえることもよくありました。
この救急外来の看護婦さんもたいへんですが、
看護婦さん達の勤務は病棟と同じで1日3交代なのです。
ところが我々ドクタ-はこの交代がありません。
朝9時から夜6時までは日常の診療をします。
そしてそのまま、救急外来で夜間診療が開始されるのです。
診察のあいだに夕食の弁当を食べます。
そして、朝までほぼ徹夜で診療し、9時からの医局会で当直の報告をします。
これで、ほぼ24時間診療しっぱなしの状態です。
そして、これで終わりかと言いますと、あまいあまい、
もちろん翌日の朝になっているわけですから、次の日の日常の診療が開始されます。
今度はまた朝9時から夕方6時まで診療するのです。
だいたい33時間位のぶっとうし診療でした。この当直後は1週間くらい疲れがとれません。
それで10日に1回まわってくるのはほぼ限界に近いのです。
この当直の予定ですが、どうしてもその日に用事が出来て
当直が出来ないことももちろんあるわけです。
そういうときはドクタ-同士が自分たちで交代するわけです。
「○月○日に月曜日の当直が出来なくなったので、
○月○日の金曜日と交代してくれませんか。」
と言う感じで、
ドクタ-同士がそれぞれ話し合いで交代することになっていました。
私は、この当直変更を断らないドクタ-として一部のドクタ-達から有名だったようです。
別に断る理由もないし、回数が増えるわけではないので気にしてませんでした。

ある日、A先生から変更をたのまれOKしました。
翌日、今度はB先生から変更頼まれました。これもOKしました。
そして、この当直日はこの時何故か4〜5人の先生からぐるぐると交代を頼まれました。
そのたびにこころよくOKしていました。
そして、その何度も変更した当直日がやってきました。
私はいつものごとく33時間連続診療をこなし、
夕方6時へとへとになり帰り支度を始めました。
帰ってから風呂はいってビ-ルでも飲んでゆっくり寝ようと思い
駐車場へ通じる裏玄関の方へ急ぎました。
早くビ-ルが飲みたい。。
そう思って裏玄関を出ようとしましたら、院内の一斉放送がかかりました。
「業務連絡です。業務連絡です。救急当直の吉本先生!至急救急外来までおこし下さい!」

「なにねぼけたこと言ってるんだ。おれの当直は昨日だろ〜。
今日の当直は誰だ〜。まだ勤務についとらんのか。。」

と思い、医師当直予定表を見た私は完全にフリ-ズしました。

今日の当直は吉本と書かれていました。
そうなんです。
いろいろ交代していくうちに、
最後は自分の「次の当直予定日」の前日に交代してしまっていたのです。
誰も出来ない地獄の当直2連ちゃん。。。
それから、さらに翌日の夕方まで診療し続けた私は、
救急車のサイレンの耳鳴りが1ヶ月程とれませんでした。

もどるよ〜