人間の本性について
セルシンという注射薬があります。
この薬は軽い精神安定剤です。
私も毎日この薬を診療の時に患者さんに使用します。
この薬はいろいろな用途に使用される非常にポピュラ−な薬です。
過換気症候群の患者さん、てんかんで痙攣を起こしている患者さん、
痴呆の患者さんが興奮状態になったとき、
MRI が恐くてなかなか中に入れない患者さん、
等に良く使います。
軽い抗不安作用、鎮静作用、痙攣を抑える作用があります。
しかし、最も使用頻度の多いものは、実は治療目的ではなくて、
検査に使用されるのです。
一番多いのは胃カメラ(上部消化管内視鏡)の前処置としてです。
この薬を胃カメラ施行前に静脈注射すれば、患者さんは緊張がとれ、
楽に検査が受けられるというものです。
大半の患者さんはこの注射をしてから検査を受けます。
このセルシンという薬はたしかに鎮静、抗不安作用があるのですが、
この薬を注射した時の患者さんの反応はさまざまです。
完全に眠ってしまう人(このタイプが一番多いです)、
多弁になる人などさまざまですが、一番困るのは抑制がとけるというか、
理性がなくなる人です。
この薬は一過性ではありますが、
人間が理性で我慢していることを解いてしまうことがある様です。
本音、本性がでます。
胃カメラの途中で「せんせ〜い」などと言って、
胃カメラを手にしてまじめに検査している私の腰に抱きついた患者さんもいます。
もちろん口の中には胃カメラが入ったままです。
私は胃カメラを持ったまましばしボ−ゼンとしてしまいました。
胃カメラを入れたまましゃべりまくる人もいます。
胃カメラが入っているので何をしゃべっているのかほとんど分かりませんが、
本人は一生懸命しゃべっています。
また、セルシンを注射したとたんに目がすわり
私にけんかをし始めた患者さんもいました。
「おれは恐くないぞ。カメラなんて。先生よ!かかってこいいや〜」などといいます。
かかってこいと言われても持ってるものはナイフでも刀でも木刀でもありません。
胃カメラです。
「はい。かからせていただきます。」と言って胃カメラを挿入しようとしても、
この患者さんは自分でカメラを引き抜きます。
「先生、おれなめてんのか?」などと言われました。
「いえ、なめてません。突っ込もうとしているだけです。」と言うと、
何故か怒りだしました。
結局この患者さんは、2倍量のセルシンを追加して注射しますと、
気持ち良く眠ってしまいました。眠った後、ゆっくり検査させていただきました。
セルシンから覚めた後はこの患者さんは予想どうり、
真面目な気の弱そうなおじさんに戻っていました。
全く、この威勢の良い言葉は覚えてないようです。
このように、このセルシンという薬はあまり副作用がなく安全に使えますが、
中途半端な量だと逆に検査がしづらいこともあります。
でも、この薬注射したときにその人の本性がちょっとだけ覗けることがあって、
楽しめます。(こんなこと書くとまたしかられるかな〜)
人間はいつも自分の欲望を理性で隠して我慢しているのだな〜と思います。
自分の本音というか本性を外に出して社会生活ができている人は
ほとんどいないのではないかと思います。
みんな理性で本性を押し殺して生活しているのではないでしょうか。
だから、ストレスもたまるんですね。
このセルシン注射の時ちらりと見えるその人の本性・・・・・・・
やさしそうな気の小さな感じのおじさんが、
けんかごしというか攻撃的になったりします。
どこから見ても極道という感じのおにいさんが、
けっこうやさしい感じになったりします。
外から見える印象とはかなり異なる本性が出ることが多いです。
う〜ん、自分は注射されたくないな〜、絶対に。
自分が何しゃべるか、考えただけでも恐ろしい。
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