第102回

ドミノ肝移植とは

01.1.7

ドミノ肝移植とは

第100回で臓器移植の話を書きました。
その後このHPの掲示板でみなさんから
いろいろな意見を書き込んでいただきました。
みなさんが私の書き込みに対して
すぐに反応していただけたことはたいへん嬉しかったです。
いろいろな書き込みの中でドミノ肝移植についての質問が多かった様です。
それで、第102回はこのドミノ肝移植について書きたいと思います。

ある人が移植を受けた場合、通常は摘出された臓器はもう使用できない
ぼろぼろの状態であることがほとんどですから当然捨ててしまいます。
ところが、ある特殊な病気の場合には、
摘出した臓器を他の人が利用できる場合があります。

FAP(家族性アミロイドポリニューロパチー)という病気は、
肝臓がトランスサイレチンという物質を作ってしまうために、
この物質が変化したアミロイドが臓器や神経に沈着して障害を起す病気です。
アミロイドは約20年かかって他の臓器や神経に沈着して、
手足の感覚異常が起こったり、全身状態が悪化したりします。
しかし、FAPの肝臓は、それ以外の機能については
正常(トランスサイレチンという物質を作る以外は正常ということ)で、
見た目も健康な肝臓と変わりません。
ですから、残りの寿命が約20年以下であるような
患者さんには(理論的には)問題は生じませんし、
そうでなくとも、もう一度移植を受けるまでのつなぎとして利用できるわけです。

 AさんがFAPのBさんに肝臓の一部を提供します。
通常、AさんとBさんは血縁者か配偶者です。
これはこれまで行われてきた生体部分肝移植と全く変わりません。
通常の生体部分肝移植ではBさんから摘出した肝臓は、
肝硬変でもう使用できないので捨ててしまいますが、
BさんがFAPであれば使うことができます。
そこで、比較的高齢で緊急度の高いCさんに移植することにします。
これがドミノ肝移植というものです。
このとき移植されるのは、Bさんから摘出した肝臓の全部になります。
また、Cさんは第三者であることがほとんどと思われます。
とすれば、BさんからCさんに行われる過程は
結果的に脳死肝移植と変わらないことになります。(ただし、提供者は生きています)

次に、ドミノ肝移植の問題点について話します。

 AさんからBさんへの移植は単なる生体部分肝移植ですから、
ドミノ移植になることでこの移植に関するリスクが増大しないかということです。
AさんBさんのリスクがドミノ移植に変わることで増大するのであれば、
AさんBさんは普通の生体部分肝移植を望むでしょう。
この問題に関しては一応レベルの高い施設ではリスクの増大はないと言われています。

次に問題となるのは、Cさんをどうやって選ぶかということです。
一つの考え方として、これは脳死肝移植であるから、
日本臓器移植ネットワークを通して、全国から選ぶという方法が考えられます。
しかし、Cさんが遠隔地にすんでいる人の場合、
移植肝のbioavailability(活きのよさ)は低くなってしまいます。
一方、生体部分肝移植を実施した施設で責任をもって行うこととすれば、
Cさんに十分な説明を行った上で、生体部分肝移植と同等以上の条件、
すなわち移植肝のbioavailablitiy(活きの良さ)を保ったまま、
肝臓の全部の移植を行うことができます。
どうやってCさんを選ぶかはまだはっきりした結論は出ていません。

BさんからCさんへも「生体肝移植」ではないかと言う人もいます。
一見同じに見える「生体肝移植」ですが、
BさんからCさんへの移植の際は、
AさんからBさんへの移植とはだいぶ事情が違います。
それは、Aさんにとって、Bさんに提供することになる肝臓の一部も
本来はAさんのものであってAさんに必要な部分です。
提供後時が経てば、Aさんの残りの肝臓がAさんに必要な大きさまで回復しますが、
回復するまではAさんにはかなりの負担がかかることになります。
これに対し、Bさんにとっては、Bさんの前の肝臓(FAP肝)は、
これ以上トランスサイレチンを産生されては困るわけですから、
もういらないなものなのです。ですからBさんには大きな負担はないのです。
同じ生体とはいえ、全く別の事象なのです。

ドミノ移植は、
(脳死体からの提供による)臓器不足のため、
脳死肝移植を受けられる可能性がほとんどなく、
緊急性が高く、今肝移植を受けなければ死ぬ可能性が高い患者さんで、
高齢のため、FAPが発症するよりも先に寿命を迎えるような場合に行われます。

臓器不足の問題と臓器の有効利用ということから行われているようです。

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