第104回

肝炎について

01.1.10

肝炎について

肝炎は年間に20〜30万人以上の人がかかり、全国に200万人以上の患者さんがいると推定されている病気です。「肝炎」と一口にいってもさまざまな種類があり、最も多い肝炎はウイルス性肝炎です。その他に劇症肝炎、自己免疫性肝炎などがあります。
肝炎を治療したあとの経過(予後)もさまざまで、予後が良好なA型肝炎から死の転機をたどる危険性の高い劇症肝炎まであります。さらに、肝炎と肝ガンの関係も注目されています。
以前は肝炎の特効的な治療薬はありませんでしたが、最近では特効的な治療薬があります。

それでは、肝炎について説明する前に肝臓とはいったいどんな臓器なんでしょうか?
まず、肝臓という臓器について説明します。

『肝臓はどんな臓器なのだろう?』

肝臓は、からだの中では一番大きな臓器であり、からだにとって重要な働きを担っています。とても我慢強く、少々障害ではへこたれず、7割近くが切り取られてもいつも通りの仕事をこなすことができます。トカゲのしっぽのように再生する力もあります。

肝臓のしくみは、消化管で食べ物から吸収された栄養素を運ぶ静脈(門脈)が肝臓につながっています。この門脈を通ってきた血液中に含まれる物質(栄養素など)は、肝臓で酵素によるさまざまな処理を受け、からだに必要な物質(タンパク質、脂肪など)に加工されます。加工された物質は、からだの必要に応じて蓄えられたり、心臓に向かって運び出されます。また、肝臓には、消化を助ける胆汁を作る働きもあります。

一方、からだに有害な物質を解毒しからだの外へ排泄する働きや、アルコールを分解する働きがあります。

肝臓の異常は、からだに必要な物質の血液中濃度(一定の血液中に含まれる量)の変化としてとらえることができます。したがって、この変化がとらえられれば、肝臓の異常を発見することができます。

『肝臓の主な働き』

1.栄養素(炭水化物、タンパク質、脂肪など)を蓄えたり、ひとのからだで使う物質に作り替え、必要に応じて送り出す。
2.からだで不要になった老廃物や、体内に入り込んだ有害物やアルコールを害のないものに変える。
3.胆汁(脂肪の消化・吸収、脂溶性ビタミン、鉄、カルシウムの吸収に必要)を作る。
4.血液を固まらせる働きをする物質(血液凝固因子)の大部分を作る。
5.鉄分を貯蔵したり、血液を蓄えたりする。

以上が肝臓という臓器のの働きです。
からだにとって非常にたいせつな臓器です。

それでは肝炎について説明します。

『肝炎の種類』

肝炎には以下のような肝炎があります。

ウイルス性肝炎(A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎、G型肝炎、TT型肝炎)

その他のウイルス肝炎    劇症肝炎(含む亜急性肝炎)、自己免疫性肝炎

肝炎は急性肝炎と慢性肝炎に分類することもあります。
急性肝炎とは、肝細胞に急性の炎症が起こる肝炎で、大部分の原因がウイルスです。さまざまな症状が見られます。一方、慢性肝炎とは肝細胞に6ヵ月以上継続する慢性の炎症が起こる肝炎で、急性肝炎から移行することがあります。

『症状』
ウイルス性肝炎で急性の経過をたどる肝炎は、インフルエンザのような、または風邪のような症状で始まることが多いです。具体的な症状としては、全身倦怠感、発熱、筋肉痛、おう吐、悪心、腹痛、食欲低下などが見られます。やがて黄疸(おうだん)が出現し、白眼(眼球結膜)や皮膚が黄色になり痒くなってきます。
多くは数ヵ月で軽快します。ときに症状はよくなりますが、肝機能を推測する血液検査が正常化せず、慢性肝炎になる人がいます。

『ウイルス性肝炎』
ウイルス性肝炎には7種類の主な肝炎があります。わが国でよく見られるA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎について解説し、日本ではごくまれなD型肝炎、E型肝炎、G型肝炎、TT型肝炎は省略します。

1.A型肝炎(別名:流行性肝炎とも伝染性肝炎ともいわれます)

原因:A型肝炎ウイルスによる肝炎です。飲料水や生食などから感染し、ときに集団発生することがあります。東南アジアに旅行して感染する人も少なくないです。冬から春(1〜5月)に好発します。
症状:ウイルスに感染してから2〜6週間後に発病します。典型的な例では発熱、全身倦怠感、嘔気、おう吐、悪心、腹痛、食欲低下で発病します。ときに、筋肉痛、関節痛、頭痛などの症状も見られます。発症後数日から数十日の内に黄疸(おうだん)が出現します。
合併症としてはまれに急性腎不全、溶血性貧血、再生不良性貧血、低血糖発作などが見られます。
予後:慢性化したり、再発したり、劇症肝炎になることはごくまれで、予後はよく大部分が完治します。
治療:特効的な薬はなく安静が第1です。食事は、高タンパクでバランスのよい食事が勧められます。
予防:A型肝炎は予防接種もあり予防が可能です。東南アジアなどの流行地に行く際は予防対策が必要です。短期間の予防(有効期間:3ヵ月間)にはガンマ(免疫)グロブリンが用いられます。

2.B型肝炎

原因:B型肝炎ウイルスによる肝炎です。最も多い感染経路は輸血、母子感染、性交などですが、原因不明な例(散発例)もあります。母子感染は出産時に産道で感染します。
輸血による感染例は、輸血用血液の肝炎予防検査の精度が向上してから激減しています。
症状:ウイルスに感染してから1〜6ヵ月後に発病します。A型肝炎と同様の症状が見られますが、A型肝炎より無症状な例が多いです。まれに腎臓が障害(血尿、タンパク尿の出現)されることもあります。
予後:成人で発病した人の予後は比較的良好といわれています。しかし、母子感染した子どもは慢性化し、肝硬変、肝ガンと進展することがあります。B型肝炎の数%に劇症肝炎が起こります。
治療:特効的な薬はなく、インターフェロンが中心的に使われますが、まず安静が第1です。
予防:B型肝炎は予防接種もあり予防が可能です。B型肝炎ウイルスを持っている母親から生まれた子ども、B型肝炎ウイルスを持っている人の家族、医療従事者らはワクチン接種を受けるとよいです。
母子感染した子どもには、出生直後からワクチン療法が開始、発病防止効果を上げています。

3.C型肝炎

放置すると高頻度に肝ガンを発病することから注目されています。

原因:C型肝炎ウイルスによる肝炎です。最も多い感染経路は輸血で、刺青や医療事故で感染することもあります。原因不明な例(散発例)もあります。
輸血による新たな感染例は、輸血用血液の肝炎予防検査の精度が向上してから激減しています。
症状:多くが無症状です。まれに腎臓が障害(血尿・タンパク尿の出現)されることもあります。
予後:慢性化することが特徴です。感染後、数十年して急速に悪化し、肝硬変や肝ガンに進展する例も少なくないです。
治療:特効的な薬としてインターフェロンがあります。しかし、全例に有効でなく、インターフェロンで完治する人は約30%くらいです。インターフェロン療法の適応がない人にはグリチルリチン製剤、小紫胡湯(漢方)、ウルソデスキシコール酸などが用いられます。
日常生活の注意としては禁酒・バランスのよい食生活の確立・疲労防止・食後の休養などが必要です。
最近では、インターフェロンが有効かどうかは、インターフェロン療法前に推測することができます。

それではどのような場合インタ−フェロンが有効なのでしょうか?

インターフェロン療法の有効性を決めるものとしては以下の4項目が重要視されています。

1.ウイルスの量:ウイルスの量が少ない程有効です。血液1cc中50万以下の場合が理想です。
2.ウイルスのタイプ:2b>2a>1bの順に有効です。(どのウィルスタイプかは血液検査ですぐにわかります)
3.年齢:高年齢者は有効性が低いです。
4.白血球数と血小板数:白血球数と血小板数が少ないと副作用でさらに減少するので一定数以上が必要です。(白血球と血小板が少ない人は十分なインタ−フェロン治療ができません )

 インターフェロン療法は重篤な副作用があります。具体的な副作用としては発熱、関節痛、筋肉痛、白血球数や血小板数の減少、うつ病、眼底異常、食欲低下、体重減少、間質性肺炎、脱毛、甲状腺機能異常、発疹、心臓の病気、心筋障害、糖尿病の悪化・タンパク尿などがあります。
 主治医に適応の有無、副作用などを十分に聞いて開始してください。

4.その他のウイルス性肝炎
肝炎ウイルス以外のウイルスも肝炎を起こすことがあります。すべてのウイルスといっても過言ではありませんが、代表的なウイルスはEBウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルスなどです。

『その他の肝炎』

その他の肝炎としては劇症肝炎と自己免疫性肝炎がありますが、両者ともまれな肝炎です。
1.劇症肝炎

劇症肝炎はウイルス性肝炎の経過中(発病8週間以内)に重症化し、急激で高度の肝機能障害と意識障害などの脳障害が起こる病気です。急性肝炎の1〜2%が劇症肝炎になります。日本全国では年間に1,000人前後の人が発病しています。
なお、亜急性肝炎は肝炎発病後2〜3週間後に、次第に高度の肝機能障害と意識障害などの脳障害が起こる病気です。
原因:原因となるウイルス性肝炎はB型肝炎が多く、その他にD型肝炎、妊婦のE型肝炎、高齢者のA型肝炎などがあります。なぜ、急激に悪化するのかはまだ十分に解明されていません。
症状:強い黄疸(おうだん)など肝炎症状が顕著に見られたうえに、出血傾向、意識障害、ケイレン様運動、浮腫、腹水、腎不全などが見られます。
治療:ステロイド剤、血漿交換、交換輸血、透析、その他の対症療法が行われます。最近では肝臓移植を試みられています。
予後:今日でも予後はきわめて悪く、救命率は30%程度です。

2.自己免疫性肝炎

中年以上の年齢の女性に多い、慢性に経過する肝炎です。原因に自己免疫の関与が考えられていることからこの病名がつきました。合併症として慢性関節リウマチ、慢性甲状腺炎などの病気があります。
診断するためには血液検査に加え、肝臓の一部を顕微鏡で見る組織診断(生検)が不可欠です。
治療はステロイド剤など免疫抑制剤を用います。

以上が肝炎についての大雑把な説明です。わからない点や心配な点などがある場合は、お近くのかかりつけ医などの医療機関にご相談ください。詳しいことは検査をしてその結果に基づき個別に検討すべきです。


参考:医師会雑誌

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