<花粉症とは>
植物の花粉が原因で、くしゃみ、鼻水(水性鼻汁)、鼻づまり(鼻閉)、目のかゆみなどの症状を起こす病気を花粉症(花粉によるアレルギー性鼻炎)といいます。始まりは突然で、去年まで何の症状もなかったひとが、多くは春先のある日、立て続けのくしゃみと止まらない鼻水に悩まされるようになります。それは花粉が飛ぶ季節の間続いて、花粉がなくなると自然におさまってきます。しかし一度花粉症になると、翌年以降、季節の到来とともに再び症状が出始めます。
花粉症の患者さんは都市化が進むとともに増え、今や日本人の10人に1人が花粉症だといわれています。花粉症は20〜40歳代に多く、また女性により多い病気です。
<花粉症を起こす花粉の種類>
花粉症は、地域に生育する植物の花粉が原因で起こるため、同じ花粉症といってもお国ぶりが見られます。日本の花粉症の8割以上はスギ花粉症ですが、アメリカではブタクサ、ヨーロッパではイネ科、北ヨーロッパではカバノキ科が中心です。
一方、わが国ではスギのほか、イネ科、ブタクサの花粉症も多く見られます。本州、四国、九州ではスギ花粉症が中心ですが、北海道はイネ科、ヨモギ、カバノキ科の花粉症が多くなります。そのほか果樹園やハウス栽培などで働く人には、職業性花粉症が起こることもあります。
<花粉が飛び散る時期>
花粉症の季節−開花時期−
花粉症の原因となる植物の花が咲き、花粉が飛び始める頃に、花粉症も始まります。花粉の飛ぶ時期は地域によって異なり、また、開花前の気温が高いほど早くなります。
スギ花粉の平均的な飛散開始時期は、九州や四国の南部が2月上旬、関東南部が2月中旬、関東北部が2月下旬、東北地方は3月で、気温の上昇に伴って増加し、1ヵ月ほどでピークを迎えます。ヒノキはスギより1ヵ月ほど遅く、ブタクサやヨモギは8〜9月が中心です。
その日のお天気で違う
毎日の花粉の飛散量は、その日の天気に大きく左右されます。天気がよく暖かい日には多くなり、雨だったり湿度の高い日は少なくなります。
1日のうちでも違う
スギの花が開くのは、昼間気温が高くなった時期です。しかし空中の花粉は、昼間は上昇気流にのって上空に運ばれ、夜に再び落ちてきます。ですから、前線の通過などがなく天気が安定している限り、スギ花粉が多いのは昼過ぎと日没頃になります。
<花粉症の代表的な症状>
花粉症の症状は鼻かぜに似ており、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、および目のかゆみが花粉症の4大症状です。そのほか、のどや耳、皮膚、消化器の症状、倦怠感などの全身症状も見られます。
1.鼻の症状
くしゃみ
特徴は続けざまに出ることです。1日中止まらないこともあり、さらに花粉が飛んでいる時期は続きます(かぜの場合は、せいぜい数回程度で、数日中に治ります)。
鼻水(水性鼻汁)
特徴は粘りけがなく、水のように透明であることです(かぜの場合は、次第に色がつき、粘りけが強くなります)。
鼻づまり(鼻閉)
くしゃみ、鼻水に続いて、突然鼻づまりが見られます。花粉症の鼻づまりは頑固で、両方の鼻が完全につまってしまうこともあります。
2.目の症状
かゆみが強く涙が出ます。充血、白目やまぶたの腫れ、異物感、めやに、まぶしさ感(羞明)も見られます。
3.のど・耳の症状
鼻が完全につまると、口で呼吸をせざるをえないため、のどの乾燥や痛みの原因になります。また、花粉がのどの奥まで入り、かゆみやイガイガ感、気管に入ると咳を生じることもあります。耳でも、かゆみやつまるような感じがします。
4.皮膚の症状
露出している部分にかゆみ、発赤、肌荒れ、ヒリヒリ感が起こります。
5.その他の症状
花粉を飲み込んだために消化不良や食欲不振を訴えることもあります。また、口で呼吸するために不眠になったり、頭が重い、ぼんやりする、熱っぽい、だるい、イライラするという人もいます。
<なぜ、花粉症になるのか?>
花粉症はアレルギーによって起こります。その中心となるメカニズムは、花粉が鼻の粘膜に付着すると、花粉からタンパク質が溶け出して粘膜に浸透し、これが抗原(原因物質)となります。そして、この抗原をやっつけるために、からだの中には抗体(IgE抗体)というものが作られます。抗体が抗原を捕まえるときに、肥満細胞からヒスタミンなどの物質が放出され、ヒスタミンなどが神経を刺激することで、花粉症の症状が引き起こされます。本来、くしゃみや鼻水などの症状は、抗原がからだの中へ入らないようにするための、ひとに備わった防御反応の一種なのです(アレルギー反応)。
このアレルギー反応には個人差があるので、すべてのひとが花粉症になるわけではありません。発症する年齢もまちまちです。さらに、最近では花粉症が起こるメカニズムに自律神経が関与しているという報告もあり、研究が進められています。
<治療方法>
花粉症の症状を抑える最も有効的な手段は、原因となっている抗原を避けることです。しかし、残念ながら、自然の中で飛んでいる大量の花粉を完全に避けることは困難です。そこで、症状を抑える薬が使われます。
抗アレルギー薬
抗アレルギー薬には、ヒスタミンなどの物質の放出を抑えるだけの薬(酸性抗アレルギー薬)と、ヒスタミンの作用を抑制する作用も併せ持つ薬(塩基性抗アレルギー薬)とがあります。内服薬のほか、季節時に局所的に使う点鼻薬と点眼薬もあります。効果が現れるまで2週間ほどかかり、その後だんだん効果が高まります。
抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、アレルギー症状を起こすヒスタミンの作用を抑制し,くしゃみや鼻水を抑えます。
血管収縮薬
血管収縮薬は、鼻粘膜の血管を収縮させて粘膜の腫れをとることによって鼻づまりを抑えます。
抗コリン薬
抗コリン薬は、鼻粘膜の分泌腺のアセチルコリンの作用を抑制して、鼻水を抑えます。
ステロイド薬
ステロイド薬は肥満細胞の数を減らして、強力にアレルギー反応を抑えます。中等症以上の重たい花粉症のひとに使われます。
<花粉症による症状を軽くするには>
花粉症は、一度なるとなかなか治ることがなく、毎年何ヵ月間かは不愉快な時間を過ごさなければなりません。しかし、日常生活にほとんど支障のないように症状を抑えることができます。気長に積極的に立ち向かってください。
花粉を寄せ付けない工夫
・花粉情報を活用する。
・飛散時にはできるだけ外出しない。
・室内へ花粉を入れないよう、飛散時には窓や戸を開けない。
・外出のときはマスク、メガネをする。
・外出から帰ってきたら、洗眼、うがいをする。
掃除のコツ
・掃除機をかける際に花粉が舞い上がらないよう、長いホースを使って掃除機本体は室外に出しておく。
・板張りの床や畳、ほこりの溜まりやすい棚や家具を固く絞った雑巾で拭く。
・じゅうたん、ソファ、カーテンなどに丁寧に掃除機をかける。
花粉症を防ぐ服装
・外出時にはマスク、めがねなどの防具をつける。
〔症状の重いひとは〕
・帽子やスカーフは、髪や顔に花粉がつくのを防ぐ。
・長い髪は、花粉がつきにくいように小さくまとめる。
・皮膚を露出させないよう、長袖、長ズボン、首筋にはスカーフを巻く。
・一番外側に着る服やスカーフは、花粉がつきにくい、織り目がつんだ滑りのよい素材のものにする。
・長いコートを着ると、花粉をまとめて払うのに便利。
外出から帰ってきたときの注意−花粉症患者だけでなく、家族全員で実行することが大切です
・玄関先、戸の外側で、服、持ち物に付いた花粉をブラシで払い落とす。
・顔や手を洗い、口、目や鼻をすすぐ。
そのほか
・洗濯物やふとんを干したあとは、花粉をよく払い落としてから取り込む。
・花粉が飛ぶ季節には、運動する時間帯を工夫したり、室内での運動に変えるなどの注意が必要。
・ストレスはできるだけ持たないようにする。
・つりあいのとれた食生活をおくる。
参考:医師会雑誌