第120回

胃・十二指腸潰瘍の原因となるピロリ菌の除菌治療について

01.3.13

胃・十二指腸潰瘍の原因となるピロリ菌除菌治療について

なんと、胃の中に細菌がいた!!

みなさんはすでに「ピロリ菌」という名前を聞いたことがあるのではないかと思います。自然界では休眠状態となるのに、胃の中に入ると元気になるという細菌です。胃の中には強い酸性の胃酸が分泌されています。そのため、胃の中で細菌は生きることができないというのが従来の考え方でした。しかし、1983 年、これまで無菌であると考えられていた胃の粘膜から、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)という細菌が発見されたのです。

 その後の研究で、ピロリ菌が胃・十二指腸潰瘍の発症に大きくかかわっていることがわかりました。もちろん、胃・十二指腸潰瘍の原因はピロリ菌がすべてではなく、喫煙やアルコール、心身のストレスなども原因となります。ただ、胃・十二指腸潰瘍にかかっている人の何と約90 %がピロリ菌の感染がみられるというのです。

除菌すれば高い確率で再発を防止できます

胃・十二指腸潰瘍の発症がアルコ−ル多飲、ストレス、喫煙等によるものであるとはっきりわかっているときは、それを取り除き、胃酸分泌を効果 的に抑える薬(ヒスタミンH2 ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬など)を服用すれば短期間で治ります。
 しかし、何度も胃潰瘍を繰り返し慢性化している場合は、ピロリ菌を取り除くこと(除菌)が効果 を発揮します。実際、完全に除菌すると胃潰瘍で80 〜90 %、十二指腸潰瘍でほぼ100 %が再発しないという結果が出ています。また、この除菌治療は胃・十二指腸潰瘍の患者が対象ですが、胃の痛みやもたれ感など胃炎症状の強い人、胃がんで手術または内視鏡治療を受け胃の残っている人、一部のリンパ系腫瘍の人でそれぞれピロリ菌に感染している場合にも対象となることがあります。

数種の薬を 週間飲むだけで除菌は完了。けっこう簡単です。

ピロリ感染が確認されている場合、除菌をする前に、胃潰瘍十二指腸潰瘍の有無を確認するために内視鏡検査が行われます。胃・十二指腸潰瘍が合併していれば、いよいよ除菌治療となります(現在の保険診療では胃・十二指腸潰瘍があるときのみ除菌が許されています)。といっても胃を切るといった外科的な治療ではなく、薬を1週間を飲むだけといった簡単なものです。現在は保険診療上はプロトンポンプ阻害薬(武田薬品のタケプロン)と2種類の抗生物質(クラリスロマイシン+ アモキシリン)の内服による除菌が認められています。

 治療後、完全に除去されたかどうかをみるための検査が行われます。検査は、血液を採取し、その血液から血清を取り出して、そこにピロリ菌を培養してつくった試薬を入れて、ピロリ菌の抗体があるかどうかを調べます。また、尿素呼気試験という検査があります。具体的には、呼気採取パックに呼気を吹き込んだ後、炭素13 を入れた尿素溶液を飲み、左側を下にして5 分間横になり、さらに12 〜13 分間座った姿勢をとります。そして新しい呼気採取パックに呼気を吹き込みます。尿素はもともと胃内に存在するもので、炭素13 は放射線がでない炭素原子で、いずれもからだに害を及ぼすものではありません。

除菌の副作用 は下痢、味覚異常などです。

 どんな治療でも患者さんが最も気になるのが副作用ではないでしょうか。除菌治療においても副作用を完全に避けることはやはりできません。薬が腸の中にいる善玉菌も殺してしまうので、下痢が起こることがあります。下痢の程度は軟らかい便から水のようにたらたらとした便まで人によってさまざまです。たまに、ペニシリンアレルギーが出たり、下痢がひどくなって血便が見られることもあり、こうしたときはすぐに除菌治療は中止され、それぞれ副作用に対する処置が行われます。また、味覚異常なども報告されています。しかし、この除菌による重大な副作用はほとんど認めないようです。

その他の胃の病気とピロリ菌

 ピロリ菌は、胃がんの発生にも関与しているのではないかといわれています。ただ、がんの発生については、遺伝形質など人間の側の因子も関与が大きいと考えられ、因果 関係はまだはっきりしていません。現在、がんセンターを中心に、日本人を対象とした調査が全国規模で進められています。
 このほか、重症の慢性胃炎やMALTリンパ腫(胃にできる悪性度の低いリンパ腫)などで、除菌療法が有効な場合もあります。ただし、これらはあくまでも専門医が必要と判断したうえで行われ、健康保険も使えません。



これが1週間内服する除菌用の内服薬です。

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