第122回

うつ病について

01.4.8

うつ病について
うつ病という病気は特殊な精神疾患ではありません。
実際、ここ数年、私の診療でも、うつ病であることの自覚のないまま病院を訪れ、うつ病と診断される人が増えています。老人のうつ病も多いのですが、最近は20〜40代の働き盛りの社会人のうつ病罹患率は急増しているようです。うつ病になるきっかけは、受験、就職、結婚、異動、転任、リストラ、配置転換、再就職難など、現代特有のストレスが原因となっているケースをよく経験します。

さて、この病気を患っている人がどのくらいいるのでしょうか?

一般 に先進国の有病率は人口の3〜4%と考えられています。この数値を日本に置き換えてみると、400 万人前後ということになり、国民病と言われる糖尿病に匹敵する数字になってしまいます。程度の軽いうつ病、「軽症うつ病」は、潜在患者は千万人単位ともいわれています。うつ病はそんなに特殊な病気ではないのです。

うつ病の症状は?

気分が重く沈む抑うつ状態と、意欲の低下がうつ病の2大精神症状です。どちらもよく日常的に経験することですが、よくある抑うつ状態や意欲の低下は、通 常、1週間もすれば自然に回復してしまいます。
うつ病に伴う精神症状の程度は軽くはありません。新聞や書類を読むとき、目では文字を追っているのに意味が頭に入ってこない、何回も同じ箇所を読み直す。疲れのせいと思っていると、同じことが続き、仕事の能率が著しく低下し、社内で白い目で見られ、会社に行くのがいやになる。憂うつ感は特に朝にひどく、夕方になると元気が出てくるという特徴があります。
スポーツや趣味など、以前は好きだったことに対してもやる気がなくなり、休日は終日、家で寝転んでいる、そのうち、遅刻、欠勤が多くなっていくというパターンになりがちです。
一方、軽症うつ病の場合は、イライラする、ものごとがおっくうになるといった程度の軽い症状のみで、仕事にも特別支障はないので、かかったことに気づかない人も多いようです。

早期発見するには・・・身体症状を見逃さないようにする
うつ病は心の病気ですが、精神症状が出る前に身体症状が出ることが多くあります。
そのなかでも睡眠障害が必ずおこります。明け方に目がさめる「早朝覚醒」や夜中に目がさめる「中途覚醒」などが続くようになり、そのうち睡眠不足になります。食欲も低下し体重減少がでてきます。頭痛、肩こり、首の痛み、全身の関節痛を覚えることも少なくありません。倦怠感も強くなり、ちょっと動いたりすると、すぐ横になりたくなります。性欲が低下することもあります。
このような症状がでてもなかなか医療機関に行かない人が多く、また医療機関に行ったとしても内科に受診し自律神経失調症、疲労からくるものなどと診断されていることが多いようです。

 

うつ病は「心のかぜ」
うつ病の原因はまだ解明されていませんが、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの働きが低下して起こると言われています。いずれも脳内ホルモンの一種で、意欲や活動性をつかさどる脳の働きと密接に関係しているのです。
そこで最近ではうつ病の治療は、セロトニンの働きを高める作用のあるSSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を飲むことが治療の中心になりつつあります。これはセロトニンの働きを低下させる酵素を抑制する薬で、口の乾き、便秘になるなど、従来の薬で出やすかった副作用が出にくくなったという点で画期的な薬といわれています。日本でも最近認可されて使われるようになりました。

SSRI を内服すると、ほぼ1〜3か月で症状は改善します(即効性がないのが欠点ではありますが)。その改善率は8割くらいといわれています。もしSSRI が効かない場合は他の薬に切り替えることになります。
うつ病は心のかぜとも言われます。誰でもかかる可能性はありますが、治療が早ければ治りやすいのです。こじれれば治りが悪く、再発もしやすく、精神的に追い込まれれば、自殺に至るケースもありますので早めに発見して治療する必要があります。

みなさんは大丈夫でしょうか??

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