第136回

過敏性腸症候群とは

01.6.11

過敏性腸症候群とは(過敏性大腸炎、過敏性腸炎ともよばれます)

最近外来で過敏性腸症候群を思われる患者さんが増えています。
過敏性腸症候群とはどんな病気でしょうか。

この疾患は腫瘍、潰瘍、炎症性腸疾患のようなレントゲンや内視鏡により形態的な異常が見つかる器質的疾患とは異なり、機能的疾患と呼ばれています。すなわち、腸に形態的な異常がないにもかかわらず、腸が正常に機能しない疾患です。この過敏性腸症候群は、消化器科受診患者の半数近くを占めていると考えられる程多い疾患ですが、種々の検査で異常が見られないために適切な治療が施されないことが少なくありません。

では、どのような症状があるのでしょうか・・・

1)便秘型
腹痛があり、便意があっても便が出にくく、ウサギの糞のようなコロコロとした便が出ます。腸の内容物を運搬するぜん動運動が低下し、また大腸のS状結腸という部分に異常な収縮運動が起こるため、便がせき止められてしまいこの様な便になると考えられます。

2)下痢型
慢性の下痢がつづき、便に粘液が混ざることはありますが、血便はなく、また下痢による体重の減少は見られません。腸の動きが活発で、内容物が急速に運搬するぜん動運動が出現しやすいためにこのような便になると考えられています。特に、胃に食物が入ると大腸が動きやすくなっていて(胃-腸の反射の亢進)食事毎に下痢の発生することが一般的です。

3)下痢便秘交替型
下痢の症状が数日つづくと、便秘の症状が出て、コロコロした便や細い便が出るといった症状が繰り返されます。それ以外にも、おなかがゴロゴロする、ガスがたまる、吐き気、嘔吐のほか、疲労感、頭痛、発汗、動悸などの自律神経失調の症状、不安感や抑うつ感などの精神症状を伴うこともあります。

ではなぜこのような病気が起こるのでしょう?

月曜日の朝や、仕事の前、外出の前など、不安や精神的ストレスが加わる時に症状が出やすい病気です。つまり、ストレスによって腸管の運動異常が誘発され症状が出現するのです。一方、就寝中や休みを控えた週末あるいは楽しいことに熱中してストレスから解放されているときには症状があまりでません。

胃や腸には脳と同じ神経が非常に多く分布していて、脳と同様に「考える臓器」ということができます。また、胃腸と脳は自律神経によりつながっています。従って、脳が不安や精神的圧迫などのストレスを受けると自律神経を介してストレスが胃や腸に伝達され胃腸の運動異常を引き起こし、腹痛や便通異常が発生します。

 
ストレスの悪循環
一度、ストレスの負荷により腹痛を起こして下痢をした。このような経験が引き金になってお腹に注意が集中するようになると、少しの痛みでも感知して症状が悪化してしまいます。すなわち、ストレスや不安は痛みを感じ易くするため(痛みの閾値を低下させるため)ますます腹痛が増強し、この腹痛がさらに不安を増幅させ下痢や便秘が悪化するといった悪循環を形成します。このことが、この疾患が過敏性腸症候群と呼ばれる由縁でもあります。

 

診断はどうする?
 

消化器系の検査を受け、器質的病変(腫瘍、潰瘍、炎症性腸疾患等のようにレントゲンや内視鏡で見つかる形態的な異常)がないことを確認します。さらに、ストレスが症状に影響しているか否かを分析して治療に役立てます。いずれも、専門医のいる医療期間で行うことをお勧めします。

除外的診断  :便検査、血液検査、レントゲン検査、内視鏡検査で器質的疾患がないことを確認します。

ストレスの分析:人間関係などのストレスが存在するか否か確認します。存在する場合その問題と症状との関係を検討します。

治療はどうする?

まず、この病気の発症、原因、病態を理解し、医師と協力して信頼関係のもとそれぞれの症状に応じて治療を進めることが必要です。回復へのポイントはストレスの悪循環を断ち切ることです。

1.ストレスの分析と対応
症状の発生状況を具体的に理解しましょう。生活のサイクル、その日の気分、環境や行動の変化などが、便通異常や腹痛などに影響があるか否かを分析します。原因が精神的なストレスであれば、医師と話し合い、リラックスした生活をして、ストレスから解放された生活を目指します。なかなか簡単にはいかないことが多いと思いますが・・・

2.生活指導
リラックスした生活を目指すため、日常生活の見直しも必要です。軽い運動、スポーツや趣味を活かしたストレスの発散、十分な休息・睡眠をとるようにしましょう。物事にたいして100%を望まず、75%で満足する「75点主義の実践」に努力します。よりリラックスしたプラス思考で上手に疾患と付き合うことが大切です。これも簡単にできるものではありません。しかし、この病気を克服するためには大切なことです。

 3.食事療法
便秘型:食物繊維を積極的にとり、水分を十分にとるようにします。野菜は生より煮たりゆでたりしたほうが良いでしょう。また、食後は排便習慣を付けるために便意の有無にかかわらずトイレに行くようにしたいものです。

下痢型:お酒は下剤の作用があるため控えるようにします。各種香辛料にも腸の運動を活発にする働きがあるため制限するようにしましょう。

また、水分は十分に補うよう心がけてください。便秘型、下痢型いずれの場合も、暴飲暴食は避け、規則正しい食事を心がけます。

4.薬による治療

症状に応じた薬が処方されます。

1)下痢・便秘を緩和   :下痢止め、(下剤、整腸薬など)

2)消化管の運動機能を改善:抗コリン剤、粘膜麻酔薬、腸管運動調整剤など。

3)抑うつ感が強い場合  :抗不安薬、抗うつ薬、自律神経調整剤など。

また、今ある薬では必ずしも全ての患者さんの症状を改善することができないため新しいメカニズムの薬剤の治験も進められいます。

最近はコロネルという便秘にも下痢にも効くという薬も発売されています。

もどる