第151回

アルバイト中脳梗塞を起こした19才女性

01.7.5

アルバイト中脳梗塞を起こした19才女性

数日前26才の女性のAさんが久しぶりに私の外来に診察に来られました。
実はこの患者さんは6年前の大学生の時、ス−パ-のレジのアルバイト中気分不良となり私の病院に救急車で搬送されました。何と19才の若さで脳梗塞をおこしていました。左半身のしびれを訴えました。MRIで検査しましたところ右の後大脳動脈の分枝が閉塞していました。このため右後頭葉(視覚の中枢)及び右視床に梗塞を認めました。詳しく調べると左の視野が狭くなっていました。結局障害は視野狭窄と左半身のしびれだけでした。麻痺などはなく外見上障害があるようには見えない状態で退院し学生生活に復帰しました。その後社会人となって元気にしているようです。毎年経過観察に私の外来にいらして下さいます。今年も経過観察のためMRIを撮りました。やはり、以前の障害部位がはっきり残っていますが新しい病変は認めません。何故19才の若さで脳梗塞を起こしたのかいまだに不明です。しかし、再発せずに元気にしていらっしゃいましたので安心しました。
実はこのAさんは、脳梗塞を起こしてから3年間ほど私の病院の近くのマンションに住んでいました。
大学を卒業したのにいまだに定職もなく私の病院の近くにすんでいらっしゃいましたので、理由を聞いてみましたところ、いつ病気の再発があるかわからないのでなるべく先生の近くに住んでいたいということでした。
再発の不安感が強くなかなか自分のやりたいことができなかったようでした。しかし徐々に自信が出てきたのかとうとう実家の両親のところへ帰っていきました。最近3年間は実家から私の診察に来てくれます。少しずつ自信が出てきているようでした。
先日、今の自分の障害についてどう思いますかと質問してみました。
そしたらAさんはこう答えました。「私は自分の左半身のしびれ、視野が狭窄していることについて、いつになったら治るんだろう? このままじゃだめだ、早くよくなりたいと思っていました。でも、もう諦めました。諦めたというより納得しました。これが私なんだ。これでいいんだ。6年たっても悪くならなかったじゃないか。そう思いました。先生ありがとうございました。もう私は大丈夫です。時々診察に来ますけどもう大丈夫です。」
「これではいけない」と自分を責めてきたAさんが「これでいい」と言ってくれました。
「これでいい」は、怠惰でもないし、消極的な姿勢でもないと思います。むしろ、これこそが自己発現のための、真に積極的な姿勢だと思います。自己を否定し、自己を責めるという自虐の心から、積極性、度胸など生まれるはずはないのです。
Aさんはたくましく自己肯定をしてくれました。これで彼女の人生の道は自然に開けるでしょう。もともと神様からさずかったすばらしい能力があるはずですから・・・・・・
Aさんが「これではいけない」と思ってきたのはこのすばらしい能力の何万分の一の障害にすぎないのですから・・・

MRI T2強調画像

右の視床梗塞を認める

左半身のしびれの原因です


MRI T2強調画像

右の後頭葉(視覚の中枢)に梗塞を認める

左側の視野狭窄の原因です

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