第192回

胃食道逆流症(GERD)について

02.11.3

胃食道逆流症(GERD)について

GERD   ”Gastro Esophageal Reflux Disease”

Gastro 胃
Esophageal  食道
Reflux      逆流
Disease      症

日本では”GERD”のことを胃・食道逆流症と呼ばれます。
”GERD”が最近特に消化器に携わる医師の間で感心が高まっています。
世界的に見ても消化器関係学会での”GERD”関連の演題発表は急激な増加をしています。私も今回出席した横浜のDDW-Japan 2002(第10回日本消化器関連学会週間)で、この演題、セミナー、シンポジウムをたくさん聞いてきました。

”GERD”とは、
「酸性胃内容物の食道内逆流によってなんらかの自覚症状、或いは他覚所見を呈するもの」と定義されます。
胸やけは逆流性食道炎を代表する症状でありますが、時に慢性的な咳、喘息、咽頭痛、喉頭異物感、更には耳鳴りや難聴までもが逆流に起因することもあることが分かってきました。そして更にこの逆流によって出来る癌(Barrett癌)、更にピロリ菌除菌後の逆流症状の増加なども注目されています。

逆流性食道炎の内視鏡的所見が強いにも関わらずあまり症状が見られないもの、逆に内視鏡所見が殆どないにも関わらず強い自覚症状を呈するものもあることも事実であります。(ほとんどの消化器に携わる医師は経験済みのことであります。)

GERDの診断は上部消化管内視鏡が手軽に出来るため、通常は病歴聴取と内視鏡検査で行われています。しかし最近は、GERDは良性の慢性疾患であることから、症状を重視した診断に重点が置かれ、薬剤による治療的診断法、つまりGERDの治療を先に行い、症状が軽減若しくは消失したときにやはりGERDであったのだと診断する方法が確率されてきています。(PPIテスト)

ヌヌ(PPIとはプロトンポンプインヒビターという最も強力な胃酸分泌抑制剤のことです。現在、日本ではタケプロン、パリエット、オメプラゾン、オメプラール等の薬剤が発売されています。)

セミナーでのその他のポイント

・高齢者の増加、食生活の欧米化により今後さらに患者数が増加することが予想されます。

・ピロリ菌の除菌治療後には胃酸の分泌能が改善するため、患者数の増加を助長する可能性もあります。

GERDが世界中で爆発的に増えている理由
【1】GERDは生活習慣病
   飲酒、脂肪食、喫煙、肥満、ストレス → GER↑

【2】GERDは医原病
   Ca拮抗剤、硝酸薬など → GER↑

【3】GERDは文明病
   文明化→H.pylori carrierの減少→過酸症

・胸やけは最も一般的ですが、それ以外にも狭心症様の胸痛、喘息様症状、咽頭痛、嗄声、耳痛など症状は多彩です。そのため、耳鼻科や呼吸器科などを受診したり、また消化器科を受診していても診断が遅れることがあります。医師もたえず念頭に置き診療にあたることが大切です。

・内視鏡検査は必ず必要で、食道に炎症があればGERDの1つである逆流性食道炎と診断できますが、すべてに炎症所見が認められるわけではありません。この場合胃内容物の逆流を証明する方法として最も有効なのは食道内pHモニタリングですが簡単な方法ではないため、症状のある方にPPI投与を行い効果があればGERDと診断するのが現実的です。

・治療のスケジュールとしては、弱いクスリから徐々に強いクスリに切り替えるstep-up therapyと、最初に強力なPPIを使用して徐々に弱いクスリに切り替えるstep-down therapyの2つがあります。step-up therapyは、過量投与が問題となる薬(高血圧治療薬、モルヒネなど)には理想的ですが、GERDにはstep-down therapyの方が良いと考えられます。以前はPPIを使用後H2ブロッカーヘのstep-downを行っていましたが、現在はPPIの半量または1/4量の長期維持療法が推奨されています。そしてGERDの増悪因子が加わると予想されるときに予防的に追加投与することにより、症状の再燃が回避できます。

生活習慣の改善 (患者さんに指導すべきこと)

 生活習慣の改善が最も大切であり 続けていくのが理想です。なぜなら、改善がなければ治療にも限界があり、また内服中止後に再発する危険性があるからです。
・肥満や便秘は腹圧を上昇させ、逆流を起こしやすくします。同様にベルトやコルセットを強く締め付けると腹圧が上昇するので、ゆるめにしてください。
・胃を圧迫するような前屈み姿勢は逆流を起こすため、長時間にわたる前屈みでの作業は控えてください。
・横になると胸やけがする場合には、枕や座布団で上半身を高くしてください。また食後2時間ほどは横にならない方がよいでしょう。
・食べ過ぎ、早食い、夜食は控えてください。
・アルコールはLES(下部食道括約部)を弛緩させます。特にビールやシャンパンは胃の中で炭酸ガスが発生して胃を膨らませるため、控えてください。
・脂肪の多い食事、香辛料、コーヒー、たまねぎ、かぼちゃ、さつまいも、トマト、チョコレート、ケーキ、甘味和菓子は胸やけを起こしやすく、控えたほうがよいと思います。それ以外でも個人差があるため、食べて胸やけを起こしたものは避けてください。
・高血圧治療薬のCa拮抗剤や喘息治療薬のテオフィリンは逆流を起こすことがあります。これらのクスリを飲んで症状が出たり、強くなった場合には医師に相談してください。

GERDの増加に伴い,食道腺癌が増加するリスクがあります
(酸分泌能の増加,H.pylori除菌の進行に伴い,わが国でもGERD,Barrett食道が増加し,欧米のように食道腺癌が急増するおそれがある。)


 近年,欧米の白人の間で食道腺癌が急増しています。かつては食道癌のほとんどは扁平上皮癌であったのが,この20年ほどで,食道癌の50〜60%が腺癌だといわれるようになってきました。それに伴い,逆流性食道炎がもとになって起こる食道腺癌の発生母地として,Barrett食道の増加も注目されています。わが国にも,この現象が起こる可能性は否定できません。

ヌヌ Barrett食道とは・・・もともと食道は扁平上皮という粘膜ですが、円柱上皮に置き換わった状態を今日ではBarrett食道あるいはBarrett上皮と表現するのが一般的です。この病態が問題視されるのはこの粘膜が癌発生の高頻度な背景粘膜として捉えられている点です。この病態が逆流性食道炎の延長線にあることは今日では明らかなことです。

食道癌の増加という点からもGERDは治療すべき疾患と思われます。

もどる