第193回

早朝の頭痛、昼間の眠気、社会活動の低下などで受診した35歳男性

02.11.8

早朝の頭痛、昼間の眠気、社会活動の低下などで受診した35歳男性

35歳の男性が眠気、意欲の低下などで社会生活がうまくいかず精密検査目的で入院されました。
内臓疾患、脳疾患などいろいろと調べましたが明らかな異常がありませんでした。
しかし、この男性は肥満、いびきなどがひどいという特徴がありました。
また夜間、睡眠中に呼吸が止まっていることがあり気になっていたという奥さんからの情報がありました。
このため、この無呼吸が今回の症状に関係がないか調べてみることにしました。
終夜睡眠ポリソムノグラフィー(PSG:polysomnography)を使用して、睡眠時の呼吸異常 検査を行いました。
測定は、通常30秒ごとに睡眠段階の判定、中途覚醒の判定を行いました。
その結果20秒以上の無呼吸が頻回にあり著明な低酸素血症となり、覚醒脳波が大変多く認められました。
結局この患者さんは睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome 以下SASと略す)と診断されました。
この患者さんはこの病気の説明をした後、睡眠時無呼吸症候群治療用CPAP装置(本装置は患者さんの鼻マスクを通して空気を送り込み、上気道を常に陽圧に保つことによって閉鎖による無呼吸を防ぎ、快適な睡眠を取り戻すためのものです)にて治療しましたが、頭痛や昼間の眠気はほとんど消失し、社会生活も問題なく出来るようになりました。

 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは・・・

睡眠障害にはさまざまなものがありますが,睡眠中に呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome 以下SASと略します)は高血圧、不整脈、脳卒中、虚血性心疾患などの循環器疾患、あるいは過労死、突然死などとの関連があると言われています。

(SASの定義)
「一晩の睡眠中に10秒以上の換気停止が30回以上もしくは、1時間当たり5回以上起こり、 それによって臨床症状(居眠り等)を呈する状態のこと。 」 

(SASによる症状)
睡眠中の無呼吸のため低酸素血症となり、無呼吸からの呼吸の回復時に、本人の自覚の有無 に関わらず、脳波などで短時間の覚醒状態となり、また、血圧の上昇、心拍数の上昇などが観察されます。
つまり無呼吸の数だけ、低酸素血症と睡眠〜覚醒、血圧の上昇を繰り返すわけです。
よく認められる症状としましては・・・肥満 、いびき、早朝の頭痛 、熟眠感の喪失 、睡眠の断片化による昼間の眠気、居眠り運転、 インポテンツ 、呼吸不全、夜間の多尿、心不全 、高血圧の合併、社会活動の低下などがあります。
 

 睡眠時無呼吸症候群は,一般の健常成人の中にも多数に潜在しています。(病気の診断がついていない方がたくさんおられるはずです)
過労死、夜間突然死との関連も指摘されております。
仕事の成績が上がらないことによる働く意欲の欠如、性格の変化やインポテンツ、日中の傾眠による交通事故など、いろいろな社会的不適応の原因になっていることが多く、極めて重大な社会問題にもなってきています。
 また、統計上中年男性に特に多い疾患であることが明らかにされています。SASは女性より男性に多く、この差は上気道への作用に関係していると思われています。そして、特に閉経後の女性ではSASの発病率が上昇するという報告もあります。

 
( SASの種類)

1.閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)
SAS患者の殆どは、このOSASと言われています。原因としては、鼻閉や上咽頭閉塞により鼻呼吸ができなくなるために口呼吸になります。そのため、口を開けて寝るために下顎が下がりぎみとなり、さらに舌や喉頭蓋が落ち込むようになり、吸い込んだ空気が狭いのどを通るために摩擦音や気道内の分泌物を振動させる振動音が発生するようになります。これがいびきとなっているのです。肥満などの場合は、上気道の周囲の筋肉は覚醒時には活動をしており上気道は開存していますが、睡眠により上気道の周囲にある筋肉の活動が低下し、吸気時の陰圧によって上気道の壁が引き込まれ、上気道が閉塞してしまうのが 閉塞性無呼吸であります。
 また、その他には扁桃肥大、舌の肥大、小顎(こあご)症などによっても、相対的に 上気道が狭くなるため閉塞性無呼吸を起こしやすくなります。

2.中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS:Central Sleep Apnea Syndrome)
中途覚醒、血圧の変動など中枢神経系が原因の無呼吸。
これは、耳鼻科、内科ではなく神経科精神科の範囲となります。
診断の確定のためには閉塞性睡眠時無呼吸症候群と同じ終夜睡眠ポリソムノグラフィー(PSG:polysomnography )が必要です。
終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査では胸腹部の呼吸運動と鼻口部の換気の両方が同時に10秒以上停止するのが観察されます。
中枢性睡眠時無呼吸症候群は閉塞性睡眠時無呼吸症候群に比べて重篤な合併症が少ないのも特徴です。
 

(無呼吸となればどうなるか・・・)

無呼吸は目覚めないことには終わりません。日中における過度の傾眠は夜間の覚醒回数と相関すると考えられます。睡眠が分断されることにより、精神活動の障害を招きます。朝、目覚めた後も眠気が残り、頭痛を訴え、その状態が日中続きます。 仕事中眠気が増し、居眠りをしてしまいます。疾患の程度が進んだ場合は車の運転のような 危険な状況でも意識を保つことが出来なくなります。 睡眠が分断された結果として集中力と記憶力が低下し、少し前の記憶ですら曖昧になります。
 しかし、患者さん本人の自覚は乏しい場合が多く、病院への診察の場合も、家族により入眠時の無呼吸を指摘されて来院する場合が殆どです。
あなたの周りにも似たような症状の方がおられるのではないでしょうか・・・・
 

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