「頭痛で立ってられない」
ある日外来診察中、外来担当の看護婦さんが私にささやいてきました。
「先生、頭痛が激しくて立っていられないという患者さんがいらっしゃいましたので奥のベッドに休んでいただきました。先に診察していただけないでしょうか。」
私は具合が悪いという患者さんを先に診察することにしました。
この患者さんはベッドの上で頭をかかえて辛そうにしていました。
「大丈夫ですか?頭が痛いですか?」
私は診察を開始しました。
「先生、頭痛がひどくて立っていられません。調べて下さい。お願いします。」
本当に辛そうで頭も上げられないという感じでした。
私は診察をして、明らかな髄膜刺激症状がないことや
頭痛のタイプから緊張型頭痛であろうと思いました。
患者さんにもおそらくたちの悪い頭痛ではないと思われるが、念のためCTスキャンは撮っておいたほうが良いであろうと説明しました。
CT検査をするために検査室まで案内することになったのですが、
立ってられない程頭痛がするということでしたので、
看護婦さんは車イスを用意しに行きました。
ところが私が次の患者さんの診察をしているとき、
この頭痛の患者さんに私と次の患者さんの話が聞こえたようでした。
隣の診察ベッドで車イスを待っているはずなのに突然大きな声で、
「ちょっと失礼ですが、あなたは○○さんじゃありませんか?声でわかります。
私は、○○です。いや〜こんなところであうなんてね〜。
私は今日頭痛がしたので診察に来たのよ〜。あなたもがんばってね〜。」
なんだか銭湯や温泉の男湯と女湯で壁越しに話をしている雰囲気になりました。
あとから診察していた患者さんの仕事上の元上司かなにからしく、
完全に会社の部下に激励する感じになりました。
頭痛で立ってられないといっていた人がちゃんとほかの人には
いろいろアドバイス激励をしているではないですか。
声も弾んでおりもう頭痛はなくなったのかと思いましたが、
この患者さん車イスが来ると、また辛そうに車イスに乗ってしまいました。
CTスキャンが終り私の説明があるまでしばらく待ち時間があるのですが、
この間この患者さんはずっと車イスに乗っていました。
いよいよこの患者さんの説明の順番になりました。
「○○さん。心配いりません。CTスキャン上、明らかな異常はありませんでした。
やはり、緊張型頭痛ですよ。くも膜下出血も脳腫瘍もありません。お薬を出しておきます。」と説明しました。
「そうですか〜。 よかった〜。悪い病気じゃなかったのですね。
先生助かりました〜。」
そう言うとこの患者さんは、車イスからすくっと立ち上がり、
深々と私におじぎをして帰っていきました。
何と車を自分で運転して帰ったようです。
頭痛がして立ってられないなんて、うそだ〜。
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