第21回

突然ものが見えにくくなった72才男性

00.6.28

診療日記
00.6.28

突然ものが見えにくくなった72才男性

72才(男性)のMさんは、突然ものが見えづらくなりました。
ある病院の眼科を受診しました。眼科的には異常なしの所見でした。
念のため内科に紹介されましたが、頭部CT上明らかな異常はみつかりませんでした。
特に治療はしませんでしたが、徐々に症状はとれ少し不自由ですがかなり改善しました。

私がこの患者さんから相談を受けたのは眼の症状が発症してから2ヶ月目でした。
発症が突然であり、よく話を聞いてみると、
単なる視力障害ではなく複視(ものがだぶって見える)を疑う症状でした。

MRI を撮ると、脳幹部(そのなかでも中脳というところ)に脳梗塞をみつけました。
1年前にこの患者さんはMRI を撮っていましたので比較しますと、
1年前はこの場所に脳梗塞はありませんでした。

やはり今回の症状は中脳の脳梗塞によるものだったと思われました。
全く麻痺がみられず、ものが見づらいという症状だけですので
この患者さんは眼科を受診してしまいました。
今回は運良く進行しませんでしたが、この場所の血管障害は
重篤な障害が残る可能性があり今後は注意が必要です。

ものが見えづらくなるのは、眼科の病気だけではなく、
脳神経外科の病気もけっこうあります。
今日は、このことについてお話します。


物が見えづらいとき

ものを見るためには、眼(めだま)の働きが正常であることと、
脳と神経の働きが正常であることの両方が関係します。
視力が低下したとき、あるいは物が見えずらい場合には、
眼科の病気だけではなくて、脳神経外科の病気も考えておかなければなりません。

目が悪いというときには、一般的には視力が低下するということです。
つまり近視や遠視や白内障や緑内障などの眼科の病気が多いはずです。
けれども物が見える範囲が狭くなったため(視野狭窄)に目が悪くなるこのがあります。このときには脳神経外科の病気も考えておかねばなりません。

ものをみるための視覚の信号は,目に入ると角膜〜水晶体〜網膜から、
眼球の後ろにある視神経と視交叉(両側の視神経が交叉するところ)を通って、
最後は大脳の後ろのほうの後頭葉というところで像が形成されて
はじめて見ていることがわかるのです。  
この経路を視覚路といい、この視覚路のどこかの病気で
視力あるいは視野の障害が起こるわけです。
眼球内の病気は,眼科の検査で発見されます。
視神経とさらにその後ろの病気は脳神経外科で発見されることが多いのです。

徐々に視力が下がっているとき、
脳神経外科の病気としては脳腫瘍がもっとも疑われます。
それには、視神経から発生する腫瘍(視力障害)
視交叉の下にある下垂体から発生する下垂体腫瘍(視力・視野障害)
大脳実質や脳の表面の膜に発生する腫瘍(視野障害)などがあります。

もう一つの原因は、頭の中の圧が高くなる頭蓋内圧亢進です。
これは、大きな脳腫瘍でもおきますが、
頭の中に水がたまる水頭症という病気でもなります。
このときも,徐々に視力がおちてきます。
頭痛が一緒におこることが多いです。

なお,大脳に脳梗塞や脳出血が突然起こったときには、
病変の場所しだいでは突然の視力あるいは視野障害が発生します.
この時も患者さんは目が悪くなったと感じる(眼科の病気と思い込む)でしょう。 

その他に、ものが見えづらいと感じる原因に複視があります。
人間の眼は2個ありますので、この2個の眼球がきちんと協調して動く必要があります。
この眼を動かす神経(動眼神経、外転神経、滑車神経など)が障害されると
複視が起こります。
原因としては、脳血管障害、脳動脈瘤、脳腫瘍、炎症等があります。
内科的な原因でも起きますが、一度脳神経外科的な病気がないか
調べておく必要があると思います。

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