第23回

突然右麻痺、失語症が出現した72才男性

00.6.30

診療日記
00.6.30

72才の男性が突然右片麻痺、失語症が出現し入院となりました。
入院後、症状はどんどん進行し、意識障害が出て、昏睡状態となりました。
頭部CT上、左の視床に出血を認めました。
大きな出血で脳室に穿破していました。
何とか一命をとりとめましたが、残念ながら右は完全麻痺となり、
高度の失語症が残りました。
リハビリを進め、現在車イス移動、左手で食事摂取の訓練中ですが、
かなりの介助を要する状態です。
この患者さんは脳出血の発症前、高血圧症がありました。

脳出血とは・・・

脳出血とは脳の中の血管(ほとんどが動脈)が破れることにより出血し、
脳の中に血のかたまり(血腫)ができることです。

出血したところの神経細胞は傷害され、また血のかたまりによってその周りの神経細胞も
圧迫されて傷害されるために症状が出現するのです。
出血した脳の場所や血のかたまりの大きさによって症状はさまざまです。
無症状だったり、頭痛だけの場合、麻痺が出る場合、意識がおかしくなる場合、
さらには命にかかわわるものまでいろいろあります。

多くの脳出血は、運動神経や感覚神経にたずさわる大脳の深い部分で起こります。
そのために出血した時に、麻痺やしびれや感覚障害を伴うことが多いのです。
症状は経過によって軽減する場合もありますが、
残念ながら一度障害された脳の神経細胞は生き返らないために
症状の多くは残ってしまいます。リハビリが必要になります。

出血は時間とともに吸収されるので少ない場合にはそのまま経過を見るだけで
よい事もありますが、血圧の厳重な管理が必要です。
まれに外来で治療することもありますが、基本的には入院治療になります。
大きな出血では、脳の圧迫を改善するために血腫を脳神経外科手術で
とらなければならないことがあります。
命に関わるほどの大きな出血は頭を開ける手術をします。
しかし、最近はコンピューターにより血腫の位置を正確に測定して、
一円玉程度の穴を頭蓋骨に開け、管を入れて取ることができ、
麻酔は3センチほどの傷の周りだけの局所麻酔で
簡単に行う方法ができるようになりました。

脳出血をおこす年令は、高血圧や動脈硬化が進む50〜60才が約半数をしめます。
おこりやすい時間は日中の活動時が多い様です。
これは血圧が活動時のほうが上がりやすいことと関係していると思われます。
このように脳出血と高血圧の関係は深いと考えられています。
脳出血の原因としてもともと血液や血管に特別な異常があるために
出血を起こすものもありますが、ほとんどがやはり高血圧が原因のようです。
高血圧や糖尿病や高脂血症などが動脈の硬化をすすめて、血管がもろくなり、
そこに血圧の上昇が加わって血管が破れて出血するのです。

予防としてもっとも大切なことは、この高血圧の管理です。
定期的にお医者さんで血圧を測ってもらって、高いときには治療を受けること、
塩分をあまり取らないような食生活に、適度の運動、精神上の安静などを
心がけることが大切です。
血圧が高い人は自分で血圧計を購入して毎日計っておくことを勧めます。
主治医としても情報が多いほど適切な治療ができるはずです。

入院時のCTスキャンです。

左視床に大きな出血を認めます。

脳室内に穿破しています。

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