第35回

診療裏話3(かつら)


00.7.24

うらばなし3.

「かつら」

MRIという医療画像診断機器をご存知でしょうか?
この画像機器は磁石の力を利用して脳や脊椎をはじめとする全身の断層写真を
撮ることの出来る医療機器です。
CTスキャン等とは異なり放射線を使用しません。被爆しないという利点があります。
しかし、欠点もあるのです。実はこの MRI は磁性体による画像の乱れがでます。
ひどいときにはほとんど診断に役立たない場合もあります。

50歳の男性が右手のしびれ脱力発作があり、受診しました。
短時間の発作のあと症状がとれていましたが、頭痛が残っていました。
CTスキャン上明らかな異常所見を認めませんでした。
MRI を撮らないと症状の原因がつかめませんでしたので、
すぐMRI を撮ることをすすめました。
もちろんこの患者さんは納得してMRI に入っていただきました。
ところが困ったことが起きました。
脳のMRI を撮ろうとしたのですが、画像が乱れて全く診断出来ないのです。
磁性体による画像の乱れと思われました。
頭頂部のほうが乱れていましたのでこれは「かつら」による画像の乱れと思われました。
かつらをとめる金属がMRI の画像を乱しているものと考えられました。
当然、患者さんにかつらをはずしていただくようにお願いしました。
ところがこの患者さんはかつらをはずさないと言われました。
はずさないと診断ができないことを説明しましたが、承諾していただけず、
何度お願いしてもはずさないと言われました。
どんな検査であろうともかつらだけははずさないと言って頑固でした。
しかたなく画像の見える部位に関して明らかな異常がない事を確認し説明しました。
ところが、その日の深夜この患者さんはけいれん発作、
右麻痺を起こし再入院となりました。

CTスキャン上、かつらのためにMRI で見えなかった部位に大きな出血を認めました。
結局この患者さんは手術を受けてもらいましたが、
結果は静脈洞血栓症という病気でした。
頭のてっぺんにある静脈洞という大きな静脈が血栓でつまり、
しびれや麻痺を出していたのではないかと思われました。
この静脈圧が上がり破綻し出血したものと思われました。

もし、かつらをはずしてMRI を撮っていたら、静脈洞の血栓が確認され、
この出血は避けられたかもしれません。

やはり検査の時はわがまま言わずかつら、入れ歯、金属のついた下着ははずすべきです。

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