第47回

医療相談回答3(聴神経腫瘍の治療法)

00.8.15

はじめまして
私は、静岡県に住む24歳の男性です。
今回意見を聞きたくてメールしました。

一ヶ月前、朝起きると突然右耳が聞こえなくなっていたので、
病院に行ったところ突発性難聴と診断され2週間入院しました。
しかし、症状はあまりよくなりませんでした。
そこでMRIの検査をしたところ右聴神経腫瘍が見つかりました。
そのときの主治医の耳鼻咽喉科の先生の話では、現在6〜8ミリの大きさで
大きくなったら切ります(経過観察)と言われました。
しかし、インターネットで情報を集めているとガンマナイフを
使用した治療があることを知りました。
病院では、ガンマナイフのことは言ってくれませんでした。

これだけでは、なんとも言えないと思いますが、
このまま経過観察でよいのでしょうか?
また頭を開く手術とガンマナイフのメリットとデメリットを
できれば教えてください。

/現在の症状
右耳の難聴と耳鳴り
ごくたまに右耳周辺(顔の右半分)のしびれと、立ちくらみのようなめまい

はじめまして。ドクタ−吉本です。

御質問にお答えします。

『このまま経過観察でよいのでしょうか?
また頭を開く手術とガンマナイフのメリットとデメリットを
できれば教えてください。』

聴神経腫瘍という病気は良性脳腫瘍の一つで音を伝える過牛神経と平衡感覚をつかさ
どる前庭神経からなる第8脳神経(聴神経)に発生します.
多くの場合,前庭神経の神経を包む鞘の細胞から発生します.

この腫瘍は良性で年月をかけてゆっくり大きくなっていきます.癌のように他の臓器
に転移をするとか急激に増大することはありません.

症状としては発生する前庭神経の症状すなわちめまいなどの平衡感覚の異常や腫瘍が
大きくなるにつれ過牛神経が直接圧迫を受けることにより難聴を生じます.

聴神経腫瘍は良性腫瘍で一刻を争って治療しなければならないと言うわけではありま
せん.
しかし,腫瘍は確実に大きくなり重要な脳幹などを圧迫し最後には患者さんの命を奪
ってしまう可能性があります.早期発見早期治療と言うようにこの腫瘍も病気を発見
した時に治療を開始するのが一番良い結果が得られるといえます.
その治療とは,患者さんの体からこの腫瘍を取り除くことです.そのためには開頭手
術により腫瘍を摘出するかその他の治療法(放射線治療・ガンマナイフなど)があり
ます.

開頭による聴神経腫瘍摘出術の合併症の中で最も生じる可能性の高いものは顔面神経
麻痺です.
顔面神経は腫瘍が発生している聴神経とほぼ並んで頭蓋内を走行し,神経とともに側
頭骨にある骨の穴である内耳道にはいって行きます.
こうした解剖学的特徴より聴神経腫瘍により極度に圧迫され顔面神経は腫瘍の表面に
極めて薄く広がっています.腫瘍摘出に際して顔面神経の損傷をきたす可能性が高い
のです.
顕微鏡を使用したマイクロ手術の進歩により腫瘍を摘出しかつ顔面神経を温存する確
率が高くなり,最近では顔面神経麻痺も一過性ですむ可能性が高いと考えられます.

聴神経腫瘍の患者さんでは聴力障害を生じていることが多いのですが,腫瘍摘出術に
よってさらに聴力障害が進行する可能性は高く,仮に聴力が手術前にかなりあっても
,腫瘍摘出術によりほぼ聴力は消失してしまう可能性が高いと考えられます.

ガンマナイフは放射線治療です.従来の放射線治療法との違いはコンピューターで計
算し腫瘍部分に高い放射線量が当たるように工夫されたものです.
こうした放射線被曝の面より腫瘍の大きさが3cm以下でないとガンマナイフ治療は
行っていません.しかし,3cm以下であってもガンマナイフにより正常の脳にもあ
る程度の放射線を受けることになります.
特に腫瘍の近くではかなりの量の放射線被曝する場合もあると考えられます.放射線
の影響はかなり長期間・数十年以上にわたり残り,放射線の副作用(顔面神経,過牛
神経,脳幹,小脳の変性・機能障害)が出現,進行しうる可能性が最近指摘されてい
ます.
とくに患者さんの年齢が若い場合,注意を要すると考えられます.

従って,こうした危険性をさけ様子を見るすなわち経過観察を希望される患者さんも
あると思います.この腫瘍はゆっくりと大きくなる良性腫瘍で一刻を争って治療しな
ければならないと言うわけではありません.
しかし,1年,5年,10年,という単位で考えると腫瘍は確実に大きくなり重要な脳幹
などを圧迫し最後には患者さんの命を奪ってしまう可能性があります.治療も早期発
見早期治療と言うようにこの腫瘍も病気を発見した時に治療を開始するのがよいとい
えます.

あなたの場合、腫瘍はかなり小さいようですね。これくらい小さいうちに見つかると
、ほんとうに聴神経腫瘍かどうか判断がつかないかもしれません。経過観察という方
法は間違いではないと思います。
しかし、一度脳神経外科の意見も聞いてみて下さい。
経過を見るか、積極的に治療をするか判断に迷う程小さいと思います。
私は、MRIの写真を見ていないのでこれ以上のことはコメント出来ません。

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