うらばなし8.
「女子高生」
10年ほど前の話です。
ある日外来診察に行くとき待合室にヤ−さん風のおじさんが立っていました。
恐そうなおじさんだな〜と思いましたがすぐに忙しい外来診療が始まりました。
診療がばたばたと忙しく、そのことはすっかり忘れてしまいました。
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10人目くらいの患者さんが入ってきました。女子大生かなと思いました。
しかし、カルテを見ると17歳と記載されていました。
お腹が痛いとのことでしたので、まず診察をしました。
右の下腹部を痛がっていました。押さえるとけっこう痛がります。
場所は虫垂炎の場所より下でしたので右の卵巣の病気を疑いました。
まず、彼女に質問しました。
生理は順調ですか?
いいえ、いつもはもう1週間くらい早く始まるんだけど、まだ始まらないの。
我々医師は女性の下腹部痛は生殖器を疑えと教育を受けています。
生理が遅れればまずは妊娠を疑えと教育をうけています。
一応、オシッコの検査と血液検査とお腹の超音波検査しましょう。
はい。
妊娠も否定できないと思いましたが、きちんとほかの病気も調べてみることにしました。
超音波上、右の卵巣が腫れていました。嚢胞状に見えました。
卵巣腫瘍か子宮外妊娠かの鑑別がつきませんでした。
私は産婦人科ではないので、この検査結果を持たせて産婦人科で精密検査を
してもらおうと思いました。
卵巣腫瘍であれば悪性も否定できないために、腫瘍でなければいいなと思いました。
でも、子宮外妊娠でも手術がいるためこの年齢でかわいそうだなと思いました。
説明をするために本人を診察室に呼びました。
今日はひとりで来たの?
いいえ、お父さんと来ました。
おとうさんですか・・・
お父さんでは子宮外妊娠の可能性は、何となく話しにくいなと思いました。
すると彼女が突然私に向かって言いました。
先生。私、なんの病気ですか?教えて下さい。
私は、しかたがないので、子宮外妊娠と卵巣腫瘍の可能性について話をしました。
私は産婦人科ではないので産婦人科で詳しく調べてもらいましょうと話しました。
先生、卵巣腫瘍ということにして下さい。お願いです。
そういうわけにはいかないよ。ちゃんと調べないとだめだよ。
まだ妊娠と決まったわけではないし、もしそうであっても、
お父さんやお母さんもあなたを叱るかもしれないけれど許してくれるよ。
でも彼女の顔は真剣でした。
いいえ、妊娠だったら殺されます。
えっ。親が娘を殺すはずないでしょう。
彼女は涙を流しながらいいました。
いいえ娘の私ではなく、彼が殺されます。
私のお父さん、やくざの組長なんです。
彼は3ヶ月前に組に入ったばかりです。
私はたら〜っと汗が背中ににじむのを感じました。
朝、外来の待合室でみかけたあの恐そ〜なおじさんの姿がよみがえりました。
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