ハッと目覚めた時、カミューは頬を濡らす涙を自覚した。
 そして自覚すると同時に右手がユーライアを、左手が彼の温もりを探そうと彷徨った。
「……カミュー?」
 自分の冷えた指先が、その肌に触れた途端、掠れた声が呼ぶ。
「マイクロトフ」
 ユーライアの硬い鞘は手の届くところに無かった。だからカミューは両手を伸ばし、マイクロトフの身体を掻き抱いた。
「どうした」
 流石に抱き起こされたのでは目も覚めたのだろう。先ほどよりは幾分かハッキリした声が、案じるように囁き掛ける。
「カミュー?」
 自分でも起き上がり、マイクロトフは宥めるようにカミューの髪に触れ、頭を撫でる。
「怖い夢でも見たのか」
 低い声が、からかうでもなく真摯に問い掛ける。それにカミューは喉奥で少し笑って首を振った。
「子供じゃあるまいし」
 そこで漸くマイクロトフの身体を抱きしめていた腕を解き、カミューは吐息をこぼした。まだ濡れた感触のある睫毛が、瞬くたびに冷たい。
「泣いたのか」
 驚いたような声がして、温かな掌がカミューの頬を包んだ。気がつけば窓のカーテンの隙間から眩しいほどに月光が射していた。これでは闇夜を理由にとぼけることも出来ない。
 それでも素直に頷く真似も出来ずにカミューは顎を引いて顔を背けた。
「別に」
 だがマイクロトフの指は、濡れた頬を撫でて緩く滑っていく。
「なるほど」
 納得したように呟き、マイクロトフは大人が子供にするように寝着の袖口でカミューの目元を拭った。
「こら、じっとせんか」
 気恥ずかしくて更に顔を背けようとしたカミューの顎を、もう一方の手でがっちりと押さえて、マイクロトフは些か乱暴に涙を拭う。それから濡れた目にかかる前髪をさらりと撫でるように掻き上げた。
 そうされると、いつまでも目を逸らしているのも気まずくて、カミューはそろそろと顔を上げるとマイクロトフと視線を合わせた。
 途端に優しげな微笑とぶつかった。
「あぁ、やっぱり綺麗だな」
「何がだい」
「おまえの目だ」
 つ、とマイクロトフの親指が目の縁を撫でた。
「濡れていると、思わず舐めたくなるな」
「………」
「甘そうではないか?」
「知らないよ」
「確かにな、だが……やはり涙は塩辛いな」
 目の縁を撫でた親指をぺろりと舐めて、マイクロトフは顔をしかめた。
「……だったら目もきっと塩辛いさ」
「かもしれん。だがもしかしたら」
 と、不意にマイクロトフは言葉を途切れさせると妙な顔をした。
「どうした」
 問うと「いや……」と口篭って、それから吐息のような笑みをこぼした。
「おかしな事を考えた。たとえばこれが―――」
「これが?」
「……笑って出た涙だったら、もしかして甘いのかもしれん」



「分かった、今度舐めさせてやろう」
「そうか」
 途端に破顔したマイクロトフに、カミューも思わず笑っていた。



end


2004/09/23