祝いの品 続編


「ま、有り難かったけど。少し寂しい思いをしてしまった」
 深い口付けのあとに、そう呟いたカミューにマイクロトフは眉を寄せた。
「カミュー?」
「半分眠っていたけれど、聞こえていたよマイクロトフ。昨日の夜私に眠れと言ってくれただろう?」
 間近でそう囁くと、途端にマイクロトフがギョッとして身を引こうとした。それを慌てて留めるとカミューはくすくすと笑った。
「寝たふりをしていたのか?」
「いや、寝ていたさ。だけど本当に夢の中で聞こえていたんだよ。おまえの声が」
「………しかし」
 戸惑うようなマイクロトフの声音に、カミューは一度目を伏せると両腕を男の首に絡ませた。そしてその耳元に唇を近づけて囁いてやる。
「聞き逃さないよ、おまえの声は」
 そして息を吹きかけると、明らかな狼狽が伝わってきた。
「カ、カミュー!」
 暴れて離れようとするのを、腕に力を込めて阻止した。そして更に。
「聞いているだけでぞくぞくする。もっと聞かせてくれマイクロトフ。おまえの声を」
「カミュー…!」
「うん、もっと呼んでくれ」
 縋るように身を寄せて、カミューは抱き付く腕をきつく絡ませる。そして切なく呟いた。
「昨日は寂しかったから」
 途端に腕の中でマイクロトフの身体が強張った。
 そしてがばっと力任せに身体を引き剥がされ、カミューは「あ」と名残惜しそうに眉を寄せた。だが、その耳にすかさずマイクロトフの声が響いた。
「すまん!」
「いや、謝らなくて良いから」
「だがおまえの健康が第一だと思うのは本当なんだ!」
「あ、うん。分かってるから」
「俺も一緒に例年通りおまえと酒を酌み交わしたかったが、今は状況が状況だろう!?」
「確かにその通りだから」
「聞けばおまえはずっと寝てないとか、忙しいとか――――」
「マイクロトフ!」
 放っておけば何処までも延々と言葉を続けそうなマイクロトフの肩を、がしっと掴むとカミューは叫ぶようにその名を呼んで、言葉を遮った。
「おまえの心は知っている。だから感謝している」
「…あ、あぁ」
 黒い瞳が呆然と瞬くのを見詰めて、カミューは苦笑した。
「責めているんじゃないよ。ただ、寂しかったから、今少し補ってもらいたいだけだ」
「お、補う……?」
「そう。今日は昼までゆっくり出来るんだろう? 幸い昼にはまだ時間があるし」
「カミュー?」
「折角おまえがわたしのために頑張ってくれたらしいし、贈られた余暇をもっと有効利用しよう」
 そしてカミューはいたずらっぽく笑うと、再び両腕を伸ばしてマイクロトフの首に絡めた。
「な?」
 目の前で微笑むと、みるみるマイクロトフの顔が羞恥に火照っていった。
「カミュー! おまえやっぱり本当は寝たふりをしていたんだろうっ!」
「寝てた寝てた」
 からかうように小さく笑うが、首に絡ませた腕は緩めない。
 結局、少し耳が痛くても怒鳴るマイクロトフの声も実は結構好きなカミューだった。


END



カミュー声フェチ説…そんなもんありません(笑)
いや、しかし実際マイクロトフの声は良いのでしょうなぁ
あ、そうかカミューさんは声じゃなくてマイクロトフフェチなんですね……

2000/12/20