夢 [ 甘い毒 online version ]
身体が動かない。
マイクロトフはぽつりとそんな事を考えた。
指先ひとつ動かそうとするだけで、激しい頭痛と酩酊が巻き起こる。全身はそれこそ鉛の針が隙間なく体中を埋め尽くすように覆っている感じがした。
それなのに、視覚と聴覚だけはやたらと鋭敏で、なるほど悪趣味な毒だと妙なところで感心した。
多分、これは夢なのだ。
そうでなければこんな事は起こり得ない。
あまりに、無力な自分と、そして―――カミュー。
自分たちには力がある筈だった。
健康な身体と鍛え上げた技と、そして紋章による付加的な力。
慢心の覚えはなくとも、それでも、こんな酷い事が起こる筈がなかった。
「目も、霞むでしょう」
男の不快な声が聞こえる。
そちらを見遣ろうともせずにマイクロトフは頑なに前だけを見据えていた。だがその愉快そうな声だけはどうしても振り切れず明瞭で。
「見えますか? 流石は騎士団長殿だ、楽しませてくれる」
そして男が指差したほうには、カミューが。
「あちらも、素晴らしい―――」
口元を笑みに歪めて男は呟く。
その言葉にマイクロトフはふつふつと滾る怒りを覚えた。全く身も知らない男に対して憎悪を抱くなど、信じられない話だ。しかし男が指差す先に居るカミューが―――。
「あぁ……見えますか? 本当に素晴らしい。もっと、声を聞かせて下さっても宜しいのに」
惜しい、と囁き、男はマイクロトフの汗が浮かぶ額に指先を滑らせた。
途端。
「……触るな……っ!」
弱々しくも鋭いカミューの声が、向こうから飛んだ。
「おっと失礼。違反でしたな」
男はすかさず手を退けると、叱責の声に向けて感嘆の眼差しを向けた。だが直ぐに鋭かった声は、喘ぎ声に取って変わる。
「う…っ、あ…ああ……っ」
カミュー、とマイクロトフが喉奥で名を呼ぶが、その姿は直ぐに取り囲む男達の背に埋もれた。
「流石は、騎士団長の地位にある方々だ。マイクロトフ様も素晴らしいが、あなたはもっとだ―――カミュー様」
肉体をとっても精神をとっても、常人には耐え切れぬ一線を耐えてしまうその強さ。だがしかし、今ばかりは果たしてそれが幸福なことなのかは、誰にも判断しかねる事だった。
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それは、まさしく悪夢のような罠だった。
ほんの一瞬の油断が生んだ隙と、躊躇いがマイクロトフとカミューを底の見えない深い淵へと突き落としたのだ。
マイクロトフは毒に犯され、予断を許さない状況へと立たされた。そしてカミューが、そんなマイクロトフを見捨てて逃げ出せるわけがなかった―――。
そして赤騎士団長に科せられた制約は。
剣も紋章も役には立たず、許されたのは獲物としての四肢の抵抗だけだった。。
ただカミューが独りでその窮地を逃れられたなら、マイクロトフには解毒薬を、悪党どもには縄を。そんな奇妙な制約でもあった。
ただし狩場はそう広くもない地下室。狩人は屈強な男が十数人。
部屋の隅で虜囚となった青騎士団長を傍らに、影になった男は優雅に狩りと獲物の様子を愉しんだ。
カミューはそれでも、奮闘した方だった。
その身軽さを活かして、次々と男たちを床に沈めていった。だが、どうしても時間が経つにつれて生まれる隙がある。そこを突かれた。
横殴りに吹き飛ばされて、カミューの口元から血飛沫が散る。髪をつかまれ引き倒され、背に腹にと男達の爪先や踵がめり込む。いつしか一方的な私刑の様相を呈して来た時には、カミューの身体は為すがまま振り回されるしかなくなっていた。
獲物を追う狩人には雇われた殺し屋すら混じっていたのだからそれも当然だった。
カミューがその足を捕らえられて床に倒れ込んでしまった時にはもう、立ち上がって逃げ出す力など残っていなかった。
そこに来てそれまでに全力の抵抗に遭って頭に血を上らせた男たちも、容赦はなかった。遠慮もなくその頬を張り飛ばされ、美しい顔が血と埃に汚れていく。
しかし暴力が過ぎて直ぐ死んだのではつまらない。
マイクロトフの傍らで成り行きを楽しんでいた影の男が、ふと手を上げようとした。だがそれが、口元から血を滴らせながらもまだ尚強い光を放つカミューの目を見た途端、静止する。
服を引き裂くように剥がれ、あっという間に頭を床に押し付けられ、抵抗を封じられた青年は、追い詰められた野生の獣のように美しかったのだ。
男は次に、狩りから、仕留めた獲物を捕食者が貪る様を愉しむことにした。
目線だけで、生贄の青年に群がる男達に命じる。それを受けて男の一人が切らせ、渾身の力で優男にも見えるカミューの身体を押さえつけ、見下ろした。
「くそ、やっと……」
暴れ通したカミューが自分達につけた痣やら傷やらを忌々しげに擦り、男たちはやっと動きを封じた青年を眺める余裕を持った。青年の姿もまた、男たちが遠慮なく殴り蹴ったりしたために、赤く腫れて痣が浮き、血が滲んでいる。特に頬を張られた時に口内を切ったか、口元からは結構な量の血が流れて、白い顎を赤く濡らしていた。
これがただの男だったなら、哀れを誘うだけだったろう。
しかしカミューは、男にしてはどころか、女性と比べても遜色ないほどに美しい男だった。それにこんな目に遭ってもまだ、彼の瞳は屈服を知らず男たちを睨み続けている。均整の取れた身体もそうだが、この美貌にこの精神は、彼らの雇い主が夢中になるのも分かる、特上の獲物なのである。
「さぁ、大人しくしていろよ……」
押さえつけながら、それでも指の下の青年の筋肉は張り詰めていて、今にも男たちを跳ね飛ばしてしまいそうな勢いを秘めている。男たちはここに来てもまだ慎重だった。しかし、まだ彼を甘く見ていたところがあった。
「ぎゃあ!」
不意にカミューの喉を押さえていた男が悲鳴を上げる。何だと振り向けば男の指がカミューの口の中にあった。白い歯が男の指の付け根に深く食い込んでいるのだ。男たちは慌ててその顎を押さえて仲間の指を抜こうと奮闘した。
「あっ……ああっ、ひでぇ…っ」
もう少しで指を食いちぎられそうになった男は、泣きながら血を滴らせる手を震わせ、無事だった方の手を振り上げてカミューのこめかみを殴り飛ばした。勢いその頭部が硬い床に叩きつけられる。
ごつ、と鈍い音がしてカミューの全身から力が抜けた。
今のうちだと、誰もが思ったのだろう。
カミューの身体に一斉に手が伸び、無防備になったその身体から衣服を引き裂くように剥ぎ取り、その襤褸切れと化した服で四肢を縛り、ついでに充分な凶器となり得ると証明された口も、残る切れ端で轡を噛ませた。
それこそ、手負いの獣が相手でもここまで梃子摺らなかっただろう。何しろ相手は、勇猛揃いの騎士団において頂点に立つ男だ。腕も立てば頭も切れる。
はじめはその美しいばかりの容貌に油断をしていた男たちも、最後には本気でかかっていた。
四肢を縛られ轡を噛まされたカミューは、既に嵐の中を過ごしたように傷だらけとなり、身体中を血と痣に覆われていた。
だが、暴虐はそれだけに留まらない。ぐったりと力の抜けたカミューの身体を、男たちは示し合わせたように裏返し、意図を持ってその下肢を暴いた。
現れた白い肌は、男たちに息を飲ませた。
その正体すら見失いそうな程の肢体である。なまじ男娼を知っている連中だけに、比べてカミューの身体が酷く男の劣情を誘うのだと一瞬で理解した。
乱れた髪の下から覗く美貌。張り詰めた筋肉に薄く覆われた細身の身体。そして、今の今まで秘められていた白い肌。
「すげぇ……」
舌なめずりをせんばかりの興奮を含んだ男の声に、毒に濁った汗を滲ませるマイクロトフの目元がぴくりと動いた。
「―――よせ…」
低く小さい声が制止を掛ける。
だが、それを男たちは無視した。応えたのは傍らの男だけだった。
「今更……。こうなることを考えておられなかったとでも?」
「……触るな…」
しかし男たちの指先が白い肌を這い回る。その目的はいっそ間違えようのないほど直裁で、太い指は瞬く間に双丘の狭間へと滑り込み、その奥地へと潜んだ。
ぐったりとしていたカミューの伏せられていた柳眉が、与えられる違和感にきつく寄る。朦朧と開かれた瞳は、己を押さえつけ取り囲む男たちを見上げて、ゆらゆらと揺れていた。
頭部を強く打った衝撃からまだ冷め切っていないのだろう。腰を持ち上げられその長い足を左右に割られ、秘所を曝け出されてもその身体に抵抗の力が篭ることはなかった。
「綺麗なもんだな」
男が小さく感嘆の声をもらし、埋めていた人差し指をぐるりと回した。それだけで、慎ましい窄まりが引き伸ばされて赤く色づく。
「締め付けもきつい……はは、当たり前か。なんたって団長様だぜ」
男はそしてギチギチと指の奥への侵入を阻む頑ななそこへ顔を近づけると舌先を伸ばした。ぴちゃ、とわざとかと思えるほどはっきりと水音を立てて男はそこに唾液を乗せた。
そこで漸く、カミューは自身を濡らす湿り気にハッと気づいた。
「―――……っ…」
僅かに纏わり付いた衣服の切れ端を除いて、ほぼ全裸に剥かれた自身の姿に驚き、それからうつ伏せて腰だけを高く掲げ、露になった秘所に舌を寄せる男の存在に更に驚き声を失う。
しかし咄嗟に逃れようともがいた身体は、縛られて動きを制限されているために、碌な抵抗にもならなかった。しかも口は噛まされた轡が邪魔をして呻き声しか発さない。
そのうえに。
「暴れるんじゃねえよ」
唾液で僅かな滑りを得ただけのそこを、乱暴にぐり、と指先で抉られるように突かれては、暴れるより前に痛みに全身が強張ってしまう。
「これから愉しもうってんだ。暴れるよりは少しは良くなるように大人しくしていな。傷つけねえように抱いてやろうって言ってんだ」
このまま無理に突っ込んだって良いんだぜ、と恫喝するような声が響く。
だがそう言いながらも、男たちが直ぐに剛直を突き立てずに、先に解そうとしているのには理由がある。受容器官ですらないその場所を、力任せに開いたところで、裂けて血が出るどころか突っ込む方とて大変だと分かっているからだ。
しかし―――。
カミューは男を知らないわけではない。そんなわけがないと、思いもしていなかった男たちが、まさかと気付いたのは秘所を舐め解す指が二本に増えた時だ。
「おい……」
示唆するような呼び掛けに、複数の目がカミューの白い大腿に隠れていたそこを覗き込んだ。
「まさか感じてるのか? ちょっと待て……あんた、男にやられた事があるってんじゃないだろうな?」
何処か嬉しげな問い掛けに、カミューは顔を床に擦り付けて目を閉じた。その男たる象徴は触れられてもいないのにゆっくりと頭を擡げてきていたのだ。
どうしようもない。
カミューの身体は愛しい男の腕に抱かれるだけで、甘く蕩けてしまうようにしつけられていた。
常には凛とした表情も、優しく口付けられるだけでねだるように目を潤ませる。腰を抱かれて昂ぶりを押さえられるだけで指先は震え、勃ちあがるそれよりも奥地を探られる方が一層強い快感を得てしまう。
たとえそれが愛しい男の指とは違い、探る動きがまったく裏腹だったとしても、粘膜は擦られて悦びにさざめくのを反射で覚えているし、もっと深くを突かれて知る絶頂までも期待して震えてしまうのだ。
最初から乱暴にされていた方がどれだけましだったか。
男娼を抱いた事のある手によって丁寧に解されたことで発露してしまったカミューの身体の秘密を、その場の誰もが驚きを持って受け止めていた。
「……なら、話は早い」
流石に立ち直りが早いのか、秘所を探っていた男は早急に指を三本に増やすと、まるで突き上げるようにして些か乱暴に奥を探った。途端に、唾液に塗れたそこはカミューの意思に反してひくひくと震えて締め付けをきつくした。
「何処が良い? はは、もうこんなに濡らしてんのか」
もはや誤魔化しようのないほどに勃ちあがり蜜を零すそこを、男たちの嘲りに似た視線が突き刺す。だが、男が指で奥の一点を強く擦りあげた途端、まるで瘧のようにカミューの身体がガクガクと震えた。
更に男が調子付き何度もそこを指で往復すると、カミューは轡を噛み締めて嗚咽のような声を漏らし、呆気なく達した。
その、僅かに涙を滲ませ赤く染まった目元や、屈辱にか噛み締める口元を轡によって濡らす唾液や。それに達した瞬間に張り詰めた全身の緊張。そして今も男の太い指を三本銜え込み赤く腫れあがった秘所と、そこをてらてらと光らせる滑りが―――その場にいた男たちの理性の鎖を容易く引き千切らせた。
「我慢できねえ」
口早に宣言するなり、男は指を乱暴に引き抜くとその衝撃でまたも震える腰をがっしりと両手で捕らえ、既に布地を押し上げていたそれを、衣服を寛げて開放するとその先をカミューの双丘に押し付けた。そして、指先を食い込ませた白い臀部を左右に押し開き、赤く息づくそこへと一息に突き入れた。
「んんっ……―――!!」
目を見開き、喉奥から押し出されるような悲鳴が、噛み締めた轡の狭間からこぼれる。
そして背後から、体重を乗せるようにして圧し掛かった男に押され、カミューは肩と頬を硬い床に擦られる。だが男はそんなことに構いもせずに、根元まで押し入ると自身を締め付けるきつさに充足の吐息をついた。
「すげぇ……」
はぁはぁと興奮の息遣いで、男は手始めに掴んだ白い尻を揉むと、獲物を貫く凶器をずるっと引き抜いた。だが、その動きに引き摺られるようにカミューの身体が揺れる間もなく、男は再び突き壊す勢いでまた奥まで埋める。
「……くっ…」
「あぁ、たまらねぇ」
カミューの苦しげでいて朱に染まった顔と、男の感嘆の吐息に、やにわに周囲が騒然とする。オイ、俺にもやらせろ、早く代われ、と。囃し立てる声の中で、男は顔に愉悦を滲ませて獲物への呵責を開始した。
怒りが、凝り固まっていく。
身体が動かないぶんだけ、それはマイクロトフの心中を貪欲に食い荒らし広がっていった。
自分のものではない手がカミューの素肌に触れる。
その身体を暴き、熱を感じ、躍動を味わっている。
思考が煮えそうだった。
―――俺の、ものだ。
毒に鈍った指先に、力が篭った気がした。
だがやはりそれ以上はどうにもならなかった。
忌々しい神経毒。
「あ……あああっ…!」
ずぶりと胸の奥に深い傷が穿たれたようだった。
霞む視界の中で、カミューの白い身体だけが鮮明で、それが上下にゆらゆらと揺れる様が絶え間なく繰り返されている。
男達の野卑な声は何を言っているのか判別などつかない。だがその一言一言がカミューの誇りを汚し、尊厳を奪い、強さを折っていくものだと分かった。
青褪めた頬に、透明な涙が零れるのが見えた。
汚れた床に雫が落ちていく。
気付けば、琥珀の瞳はマイクロトフだけを見ていた。
「カミュー……」
聞こえるはずがなかった。
掠れた小さな声が、カミューに届くはずがなかったのに、琥珀の瞳がその刹那、すうっと細められた。それは、笑顔とも泣き顔ともとれる曖昧な表情だった。
だがその表情に魅入る暇も与えられず、カミューの身体が大きく跳ねた。
「ぐ……ぅ…」
凝った悲鳴が轡の奥で蟠る。男がカミューの腰を高く抱え上げ、突き入れた己の欲望と共に、太く節くれだった指を潜り込ませていた。
「ったく、よそ見してんじゃねえよ」
そう悪態をつきながら男は乱暴に腰を揺さぶり、もう片方の手でカミューの無防備な花芯を握り締めた。
「おお、締まるじゃねえか。こりゃ良い、おい紐かなんか持って来い」
機嫌良くうたって男はどこからか齎された紐で、カミューのその根元をきつく縛った。
「さぁ、ほら頑張って腰を振りな。親友の青騎士団長さんだって見てんだぜ?」
男の掌が強張った臀部を叩いて派手な音を立てた。
「ああ、親友じゃなくて、情夫か?」
耳障りな笑い声があがる。
そしてカミューの身体が再び床の上へと這わされる。
「残念だったなぁ。毒が回ってなけりゃ、一緒に愉しめたろうにな」
その時は、きっともっと良い声で啼いてくれたろうによ。
言いながら男の手がカミューの後ろ首へと伸び、縛り付けていた轡の結び目を解いた。
「う、あ……や、あ、ああああ!」
途端に篭らない明瞭な悲鳴がカミューの口から迸った。
「まだまだ終わりゃしないぞ。もしまた噛みやがったら、今度はあっちでくたばってる青騎士団長さんがどうなるか分かってんだろうな!」
恫喝混じりに吠えながら、別の男がカミューの口に指を押し込み、無理やりに顔を上げさせた。
「…う……」
そして力なく開いた口に、はちきれんばかりに育った赤黒い欲望をねじ込んだ。
「さぁ、しっかり舐めて可愛がってくれよ。男に慣れてんだ、好きなんだろこれもよ」
喉奥までを犯し、男は金茶の髪に指を絡め押さえ込んで逃れられないように腰を揺らした。その動きに苦しげな目をしてカミューが呻き声を上げた。
「ああ良いぞ。もっと締めろ」
後ろを犯す男が興奮したように声をあげ、より激しく突き上げを繰り返した。そのたびにカミューは前にも逃れる事が出来ずに、雁字搦めの状態で振り回されるしかなかった。
そして極めた男が満足げに息を吐いて、漸くカミューの腰から手を離した。途端に他の男が待ち構えていたように、白い白濁と血とを零すその場所に、新たな怒張をめり込ませた。
「ぐ……っ、あ…」
―――よせ。
これ以上、触れるな。
―――もう。
耐えられそうに、ない。
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「苦しそうですね?」
男が囁くのを、マイクロトフは意識のどこか遠くで聞いていた。
「あぁ、カミュー様ではなく貴方の方ですよ。脂汗が酷いですね。辛くはありませんか? ……ふふ、それに引き換え彼は、御覧なさいあんなにも浅ましく涎を垂らして」
目を閉じたところでどうしても、息遣いや声が聞こえてくる。だから、と言うわけでもなかったが、マイクロトフは目を逸らすことなくその情景を睨み付けていた。
「それにしても、美しい」
耳障りな声が聞こえてくる。
「あれは、貴方が仕込まれたんですか、マイクロトフ様?」
先程、鋭く叫んだカミューを感嘆しながらも、男はもうその淫らな喘ぎ声にまた別の感嘆を漏らしている。
「あんな有様でもまだカミュー様もあなたも諦めておられない。結構ですよ、この上まだ何か策がおありなら、見せて頂きましょう」
何か出来るものならね。
男の薄笑いを聞きながらマイクロトフは、この夢が早く目覚めればいいとただ願っていた。だがもしこれが夢ではないのなら、ここにいる連中全員を殺しても、この怒りは消えないだろうと思った―――。
END
尹南ちょり様に乾杯。
ぶつ切り感は否めませんが、なんとなく感じだけでも味わって頂ければ幸いです。
それでは、今年も皆様にとって良い年でありますように。
変わらぬ青赤への愛がございますように〜。
2005/01/01