凍 る 熱
マイクロトフが団長の位を断った話は、直ぐにマチルダ全土へと知れ渡った。
そしてカミューがグラスランドへ旅立った話も、それから少し遅れて民衆の耳へと届いた。
共に旅立ったのだろうかと皆噂しあった。
二つの人馬の影が草原を走る風景が、何故だかすんなりと想像できる事に皆笑みを浮かべる。
かつてこれほど双璧を成す一対だった赤と青の騎士団長はいなかった。
このマチルダの為に紆余曲折あってもこれほど身をつくしてくれただろう騎士団長もなかった。
もう良いだろうと、皆が思った。
彼らはもう自由だ。
グラスランドへ旅立つ姿を見送る事は叶わなかったが、大凡の者が彼らを祝福して送り出した。
だが。
人馬の影は、ひとつ。
しかし。
「おまえに見せたい風景がある」
髪を弄る風に向かって語りかける声は涼やかで。
「地平線に沈む夕日をおまえは知らないだろう。真っ赤な世界が、沈む一瞬、幻想のような色に変わる。それが凄く……」
綺麗なんだ。
落とした囁きに同意する気配が、ある。
見たい。
俺も、その風景を、見たい。
共に。
幻想に包まれたなら、この冷たい熱がおまえに伝わるかもしれない。
行こう。
「ちゃんと、伝わってるよ」
そうか。
「うん」
だが、早く見たい。
「そうだな」
行くぞ。
「うん、行こう」
――― 行こう。
end
おそまつさまでした
2004/01/01