たとえばの話
たとえば男ではなく女であったのなら、どんな人物であったと思うか。
レストランでほのぼのと食後のお茶などをしていると、ナナミとニナがマイクロトフとカミューのところへやってきて、そんな質問をつきつけてきた。
「我々が、ですか…?」
面食らいながらカミューが問い返すと、少女二人は元気良く頷いた。
「うん、そう! 今ね、色んな人に聞いて回ってるの。みんな答えが面白いんだよ」
ナナミが言うと隣でニナが頷いて持っていた紙束を開いてめくった。
「シーナくんはお母さん似の美女で大勢の男を虜にするはずだって言うし、ヒックスくんは女じゃ困るの一点張りで、女になったらテンガアールに怒られるとかなんとか。ビクトールさんなんて笑っちゃいますよ、胸とお尻が大きくて男の理想とかなんとか、それで自分みたいな馬鹿な男を騙すんですって」
けっこう皆答えているようである。
カミューはふと考え込んでマイクロトフを見た。するとその黒い瞳と視線がぶつかる。
「なんだい? マイクロトフ」
微笑んで首を傾げると、マイクロトフは少しばかり顔を赤くして「いや…」と首を振る。大方、カミューが女だったらとでも考え始めていたのだろう。お互いさまなのだがカミューは先手を取って口を開いた。
「わたしはともかく、マイクロトフがもしもレディだったのなら美しい人だったのではないでしょうか」
するとナナミたちが身を乗り出して「それでそれで」と続きを聞きたがる。カミューは頷いて驚いたようなマイクロトフを見つめながら言葉をつなげた。
「そうですね……黒髪に肌の白さが映えるような、姿勢の良い、いかにも清楚な感じのレディでしょうか? あぁ、でも性格は変わらないでしょうから無鉄砲のお転婆かな」
「カミュー」
眉をしかめるマイクロトフにくすりと笑みを返してカミューは首を傾げる。
「どう思うマイクロトフ?」
「知るか。俺よりおまえだ。カミューの方がよっぽど……」
わめきかけてマイクロトフはふと口をつぐんだ。目の前でカミューの微笑が微妙に変化をしたからである。
「よっぽど、なにかな?」
「いや……何でもない」
「えぇ〜マイクロトフさん、聞かせて欲しいな。カミューさんだったらどんな感じ?」
「俺から言うことは何も、ありません」
「でも、今」
ナナミが不満を訴え、ニナが怪訝に見上げてくるのに、マイクロトフは口を真一文字に引き結んで首を振る。そこでカミューがちらりと周囲を見回して片眉をあげた。
「ニナ殿、それよりもあちらにフリック殿がおいでですよ。もうお聞きになったのですか?」
「え! あ、ホントだ。フリックさ〜〜ん!」
いともあっさり標的を変えたニナが、くるりと踵を返して行ってしまう。ナナミも慌ててそれを追いかけ、身を返しざま二人に礼を残して去って行った。そんな少女らの背を見送ってマイクロトフがゆるく吐息をつく。
「どうしたマイクロトフ」
「……意地が悪いぞ。なんだか妙な気分でひどく疲れた」
「たとえばの話だ。そう気にするな」
「……自分はその話すらさせなかったくせによく言う」
「そりゃあね、マイクロトフはどこまでも生真面目だから」
ごまかすように笑ってカミューは手を振る。
「もしも女性だったらなどと聞かれて、まじめに答えるなんて馬鹿げているだろう?」
「そうかもしれんが」
どうにも釈然としない、とマイクロトフは唸るが、それっきり案外気にした様子もなく残っていた茶を飲み干した。
「もう良い……そもそも俺たちは男なのだからな」
「そうとも、マイクロトフ」
こんな想像の域を出ない事柄を深く考えても意味がない。
そう結論付けて、二人とも席を立つとレストランを後にしたのであった。
おわり
逃げました、すみません〜〜
本気で青が女性化するのを書こうとしたら長くなりすぎます(笑)
というわけで結局このような仕上がりとなりました〜〜
長い話……ほんとに女性化しちゃう話……読みたいですか?(汗)
2002/03/06
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