ほんとうの話9
さながら留守番を命じられた子羊の兄弟たちのように。
早朝にもかかわらず、迅速に朝食を用意し、衣服を整えて完全に目覚めた状態で宿を後にしたカミューを、マイクロトフは途方に暮れた気分で見送った。
そして一人になると、狭い部屋の中でする事と言えば限られる。
流石にダンスニーを振り回すわけには行かず―――と言っても試しに片手で持ち上げようとしたら重くて叶わなかったので、振り回せないのだが―――仕方なく、基本的な体力維持の運動を繰り返す時間を過ごした。そうしていると、不意に扉が叩かれて外からフリックの声がした。
「おい、マイクロトフ。起きてるんだろ?」
「あ、おはようございますフリック殿」
腕立てから立ち上がってマイクロトフは扉の取っ手に指を掛ける。しかしそれを開けようとした寸前、カミューの言葉が蘇って身体ごと固まった。
―――誰が来ても扉を開けるんじゃない、分かったな?
「わ、分かっているとも」
呟いた声に、扉の向こうで気配が動く。
「マイクロトフ、どうかしたのか?」
「あ、いえフリック殿」
扉一枚を挟んでマイクロトフはとりあえずの返事をする。だが、取っ手を掴んだ手が動く事は無かった。どころか、鍵までかけた。
「カミューは出掛けたんだろ? 一人で暇かと思って茶でも一緒にどうかと誘いに来たんだが」
どこまでも親切なフリックの言葉にマイクロトフは感謝する。しかし、くっと拳を握り締めて扉の前で頭を下げた。
「お気遣いいたみいる。だが俺はこの部屋より一歩も出るつもりは……」
「あぁ、そりゃ分かってる。だからこうして訪ねてきたんだが」
マイクロトフ? と案じるような声に、見えもしないのにまた頭を下げた。
「申し訳ないフリック殿。しかし昨夜のシーナ殿の事があるので、カミュー以外は入室をお断りしようかと」
「え……そいつは、しかし―――」
「カミューとの、約束ですから」
「そ…そうか」
そりゃ、仕方ないな。と扉の向こうから聞こえてきた。
そして頑張れよ、と少々的外れな声援を寄越してフリックの気配が足音と共に遠ざかっていく。マイクロトフは胸の内でそんな心優しき仲間に対して再び詫びながら、僅かに滲んだ汗を拭うため、扉から一歩後退った。
ところがその時。
「うっひゃー、死ぬかと思った」
背後から唐突にそんな声が聞こえた。
目を剥いてぎょっとして振り返ったマイクロトフが見たのは、窓枠に座って額の汗を拭うシーナの姿だった。
あまりの事に声もなく呆然としていると、シーナはにっこりと笑い、よじよじと窓枠を乗り越えて部屋の中へ侵入して来た。その表情には悪びれたところなど欠片も無く、笑顔に花が咲いている。
「初めまして。あなたに会いたくて三階まで壁をよじ登って来る男は嫌いかなぁ」
「………」
「驚かせちゃった? ごめんね、俺シーナっての」
窓辺に佇み、にっこりと浮かべた笑顔の横では軽やかに掌をひらひらと振っている。その姿にマイクロトフは思考が空転するのを止められない。
なんだこれは、いったいどうして。俺は鍵を閉めて今フリック殿のお誘いをお断りしたところで、それなのにどうしてシーナ殿が部屋の中にいるのだ。
あわわ、と狼狽に固まるマイクロトフを前に、しかしシーナは笑顔の大安売りで内心喝采を上げていた。
最高。予想以上の美人じゃん。
この一晩まるまる焦らされた甲斐はあったというものだ。昨夜はあの赤騎士団長のあまりの気迫に出直す事にしたが、今朝その彼が早々に出掛けるのを目にしたのは幸運だった。
それでも正面から訪ねても扉を開けてもらわねば意味がない。となれば古来の恋する男のように、壁をつたい登って愛しい相手へと窓から求愛するのはなかなかの手ではないか。それにこんな良い男に、そんな夢のような舞台を演出されれば、大抵の女性は喜ぶものだし。
などなど、シーナの思惑であったが、現実が正しくその通りであるかはどうかは―――。
「何をしておられるっ!」
怒声が響いた。シーナの目の前の美女が、いや、マイクロトフが発した声にシーナはしかし風にそよぐ柳のようにへらりと笑う。
「どーしてもあなたに会いたくってさ」
大抵の女性はこんな事を言われれば、嬉しくて―――。
「そう言う事を言っているのではない! なんと言う危険な真似をするんだ、万が一の事があればいったいどうするつもりで……! ましてやここはトラン共和国! 盟主殿がどうした立場になるか考えるべきだ!」
事態を正しく理解したマイクロトフによって怒られた。
「あ、いや……でも」
「そもそも俺は今日は誰ともお会いするつもりはない! 申し訳ないが今すぐ出て行って下さるか」
びしっと指先が扉を示す。そして訪れた一瞬の空虚。
そこでシーナはハッと我に戻った。突然の激昂に呆気にとられたが、今ここで素直に出て行っては、危険な真似をした意味がない。風の吹きすさぶ壁を、いつその風に攫われるかと気を張りながら登ってくるのは大変だったのだから。尤も、そんな的外れな苦労をするのが最初から間違っているのだが。
「ち、ちょっと待ってよ。俺を追い出しちゃうの?」
追い出すも何も、無断で入ってきたのはシーナの方である。マイクロトフは怪訝に眉根を寄せると伸ばしていた指先を揺らした。
「シーナ殿……」
引き戻した指先でこめかみを揉み、マイクロトフはシーナを見た。
先のトラン解放戦争に宿星の一人として参加し、今はトラン大統領の一人息子と言う立場にある。現在十九歳、剣と魔法両方の才能に長けているものの倫理観が些か希薄である。修行のためとの名目でデュナン地方をうろついていたらしいが、実は家を飛び出した挙句に気付いたらそこにいたという。
同盟軍と関わったのを良い機会としてトランのレパント大統領からその身柄を同盟軍へと預けられたのは、マイクロトフたちが仲間入りして直後のことだった。
放蕩息子との顔が貼り付いて離れない少年は、女性と見れば声を掛けて口説くのが趣味らしい。噂として知ってはいたもののあまり気にしてはいなかったが、こうなってみるとその見境の無さと言うか、伸ばす手の早さは関心に値する。
とはいえ、マイクロトフは男である。シーナに口説かれるなど居心地悪いことこの上ないし、下手に会話をして現在こんな有様になっているとばれるのも願い下げだ。
さてどうやって追い払うか。
思案に耽りかけたところで、不意に室内の気配が動いた。
「お姉さん、ほんっとうに美人だよね。良かったら名前聞かせてよ」
マイクロトフの手をぎゅっと握る笑顔のシーナが間近にいた。
「……っ!」
慄いて咄嗟に振り払おうとするものの、シーナの手は離れない。この少年はこれほどまでに厄介な存在だっただろうかと、軽い衝撃を受けながらもマイクロトフは何とか離れようと後退する。
しかし。
「ね、ね。出身は何処? 俺はこのトランのコウアンってとこなんだけど、色白いよね。それにこの髪、真っ黒だけどすごくキレイだな〜。俺、けっこう好きなんだこーいうの」
さらりと髪をひと房持ち上げられて撫でられる。その瞬間、寒気がマイクロトフの全身をつま先から頭のてっぺんまでを駆け抜けた。
「シ、シーナ殿……っ! 俺はっ!」
貴殿もご存知の元青騎士団長のマイクロトフなのだ、とは言えず。しかし優男に見えて流石は剣を扱っているらしい確りとしたシーナの握力は大したものだ。笑顔のままでいながら全然離れない。ぎゅうーっと握られたそこから悪寒がぞわぞわと駆け上ってくるのが気色悪い。
「『俺』? うーん、あんまり似合わないなぁ。それともこーいうのがグレンシールの趣味? 意外だね」
その上、目まぐるしい言葉の怒涛に押されてマイクロトフには口を挟む隙さえ与えて貰えない。
「ここはひとつさ正直に答えてみようよ、グレンシールの奴とは何処まで行ってるの? そんなにあいつって良いわけ? ほら、目の前にいる俺と比べてどうかな、ちょっとグラッと来たりして〜」
「う……あ…」
「あとさ、あとさ、なんでカミューさんなわけ? もしかして知り合いだったとか。それでグレンシールとも知り合った? ど? 俺の推理当たってる?」
洪水のような質問攻めに息が詰まりそうになるマイクロトフだ。だが次にシーナが放った言葉に、惑乱しかけていた理性が思わず鋭さを取り戻した。
「でもさぁ、グレンシールなんか口数少ないし、全然面白みの無い男じゃん。無口な奴ってむっつりだって言うけど、あいつなんてまさにその通りって感じだしさ。それともあれって噂で、本命は実はカミューさんだったりして。でもお勧めはしないよ? あの人って逆に口が上手すぎて中身全然分かんないから信用なんて出来ないよ?」
それに比べると俺なんて全然マシ。俺にしなよ。
ここぞと自分を推して来る。だが、それまでただただ聞くばかりだったマイクロトフが、不意にギラリと瞳を険しくさせてシーナを睨んだ。
「撤回されよ」
「……って自分で言うのもなんだけど……え?」
「侮辱は許さない。即刻、取り消されよ」
突如雰囲気の変わったマイクロトフにシーナが口を噤む。だがその腹の底に怒りが渦巻いている事までは気付いていないようだ。きょとんとしている。
「グレンシール殿にもカミューに対しても、侮辱は許さん。そもそもあの方の後継とはとても思えないあまりに軽はずみな言葉が過ぎる」
「……な、なんか怒らせちゃった…?」
「カミューは充分信用に値する男だ。それを心得ておられぬとは、この先共に戦う仲間として不安を抱かずにはいられない。だいたい、他者を貶め己を有利にして相手の好意を得ようなど、それが男子たる者のなさることか」
「あ、あのさ…」
「なおかつ! ここはマリー殿の営む宿だ。見るところ外から壁をつたい登ってこの部屋に入って来られたようだが、他の宿泊客にその姿を見られたらと考えられなかったのか。事はマリー殿への信用に関わる。聞けばかつては共に戦った仲間だというのに、あのように気持ちの良い女将を困らせる事態を招いても良いのか」
「…えと……」
「先程も言ったが万が一落ちて怪我でもすれば、責められるのは盟主殿でありマリー殿でもある。その軽はずみ過ぎる言動、改められよ!」
「ご、ごめんなさい」
思わず謝るシーナである。
それだけマイクロトフの説教には逆らい難い何かがある。それでも握った手を離さないのは、やはりシーナがシーナたるところであろうか。
「シーナ殿……手を離して下さらないか」
「あ、ごめんなさい」
今度は素直に離れる。しかしそんなシーナのマイクロトフを見る瞳には先程とは違うものが含まれていた。と、おもむろに彼はぽつりと呟いた。
「うわぁ……感動〜」
ぴく、と険しく寄せていた眉を動かすと、シーナは呆けたような、それでいてどこか嬉しそうな顔をしてマイクロトフを一途に見詰めてきていた。そして。
「俺、こんなにばっちり怒られたのって久しぶりかも。アップルも良く怒るけどあいつっていっつも同じことばっかで軍師のくせに説得力無いんだもんな。でもお姉さん、流石だな。俺嬉しくなっちゃった」
理解しにくいシーナの感動具合である。しかし、それが体現されるに至ってマイクロトフは再び混乱に突き落とされた。
「最高だよお姉さん! やっぱり命張ってでも会いに来た甲斐はあったね!」
「なっ! シーナ殿!!」
今度は手を握るどころではなく、がばりと抱きつかれてしまった。友愛でも親愛でもなく、男女のそれが絡むシーナからの抱擁は、マイクロトフにとっては拷問に等しい。さりげなく掌が腰にまわり、首筋に埋められた鼻が匂いをかぐようにスンと鳴る。
ぞぞぞ、と音が立ってもおかしくない程、マイクロトフの全身は鳥肌に埋め尽くされた。しかしがっちりと両腕で抱き締められていて身体はびくとも動かない。
「や、は、はなっ……!」
やめてくれとか、離れてくれとか。言葉にならずにあんぐり開いた口から息だけが漏れて、その黒い瞳は救いを求めるように宙を彷徨う。しかしそこには部屋の天井が見えるだけだ。
……天井?
恐るべし、シーナ。いつの間にか押し倒されていた。
「お姉さん見かけによらず恵まれた身体してるね。抱き心地最高。ね、キスして良い?」
「こ、断るっ!」
それだけは即答したマイクロトフに、シーナは情けなく眉尻を下げる。
「え〜、つれない」
ぼやきながらも全くへこたれた様子は無く、シーナはマイクロトフの両脇に手をつくと、じっと見下ろしてきた。
「俺の事嫌い?」
「こうした真似をする輩は誰であろうと気に食わん!」
「固いなぁ、もう。こんな美人なのに怒ってばっかじゃ勿体無いよ。そんなにグレンシールが良い? ね、もう一度聞くけどあの噂本当? 婚約してるの?」
「なんだその噂は!?」
「あれやっぱ違うんだ。だろうなと思ってたんだよ、あのグレンシールがさぁ。あ、じゃやっぱり実はカミューさんと……? うそ、どうしようかなぁアノ人怖いし、下手に怒らせたくないしなぁ」
人を押さえ込みながらぶつぶつとアレコレ言っている。どうでも良いが上から退いてくれないだろうかと、マイクロトフはぐいぐいとその身体を押し上げようともがいた。するとシーナはまた情けない顔をした。
「本当につれない、俺傷付いちゃうなぁ。さっきはあんなに俺の為に怒ってくれたのにさ。うーでも、本当に好みだよお姉さん。大好き」
「だっ! なっ!!」
ちゅっ、と頬にシーナの唇が掠めた。途端にマイクロトフは堪らず怒鳴った。
「悪い冗談は止めて下さいシーナ殿!」
「冗談なんかじゃないって」
そしてまた首筋に顔を埋めてくすくすと笑う。どうやらいちいち驚き慌てるマイクロトフの反応が楽しいらしいが、押し倒されている当人はそれどころではなく、悪寒の大放出である。くすぐったいんだか気持ち悪いんだかも分からなくなってきている。
「シーナ殿! 本当にやめて下さい!! 俺は、俺は……!」
あと、一言で。
マイクロトフは自分の正体を白状する、その一瞬前だった。天井しか見えなかったその視界に、見慣れた何かが素早く過ぎった。
と、突然シーナの身体がガクンと力を失い、マイクロトフの上に圧し掛かる。だが直ぐにその身体は引き剥がされて部屋の隅へと『蹴り』退けられた。
そして開かれた視界には、肩で息をついて握った拳を震わせるカミューの姿があった。
「全く、油断も隙も無い」
そしてそう吐き捨てたカミューはマイクロトフを見遣り、痛ましげに表情を曇らせた。
「マイクロトフ……大丈夫か、鳥肌がすごいぞ」
言って差し出された手を、マイクロトフは漸う取り戻した理性で握り返して身体を起こした。それがカミューと触れた場所から鳥肌が嘘のように消えて行くから不思議なものである。
「あぁ……助かった」
答えるとカミューはこくりと頷き、乱れたマイクロトフの髪を撫でた。
「嫌な予感がしてね。急いで戻って来て良かったよ。それにしても本当に……―――」
ちらりとシーナを見たカミューの瞳に不穏な色が宿る。どうやら背後から思い切り殴られたらしい少年は、気絶して横たわっているのだが、そこへ更なる追い討ちでも仕掛けない迫力だ。
「窓から入ってこられてな……大した行動力だなシーナ殿は。俺は驚いて碌に対応も出来なかったぞ」
「感心している場合か。私の戻るのがもう少し遅かったらどうなっていたか、考えるだけでも頭痛がするよ」
「確かにな……」
今は、見た目は美女のマイクロトフだが、元に戻った時にどんな精神的な後遺症を引き摺るか分からない。寸での処で待ったがかかって本当に良かった。
ほっと胸を撫で下ろすマイクロトフであるが、カミューの方はそうした心境ではないらしい。
「これは……軽い仕置きだけでは気が済まないな。どんな灸を据えてやろうか……?」
不穏に響いた声音に愛しい琥珀を見遣ると、笑みに細められたその奥には恐ろしい光が鈍く揺らめいていた。
「カミュー?」
「レパント殿に鉄拳制裁して頂くだけでは足りないな。うん。決めた」
「何をだ? カミュー?」
「ふふふ……」
きらりと光る琥珀にマイクロトフはごくりと唾を飲み込んだ。ところがその時である。不意に全身の血が足元に流れ落ちて行くような心地に襲われて、眩暈にぐらりと視界が揺れた。
「マイクロトフ!?」
立っているのに耐え切れず膝をつく。その身体をカミューが慌てて支えてくれるが、今度は息苦しさに襲われてマイクロトフは床に手をついた。
「カミュー……苦しい…」
しかし直ぐにそれが、服が身体を圧迫する苦しさなのだと気付いて、マイクロトフは眩暈に喘ぎながらも、もどかしく衣服を緩めた。すると素早くそれを察したカミューが手伝ってくれる。途端に開放された端から新鮮な空気を吸い込んだ。
「元に、戻るのか」
「あぁ、そうらしいよマイクロトフ……」
呆然としたようなカミューの声。と、唐突に全身がドクリと脈打って、強烈な眩暈に今度こそマイクロトフの視界が暗転した。
そして。
その夜、美女は何処だと騒いで嘆くシーナに、すっかり元に戻ったマイクロトフに不安定だった情緒を取り戻したカミューが、にっこりと差し出した『あるもの』。
「まぁシーナ殿。夕食はまだでしょう、少しつまみませんか、美味しいですよ」
気迫に押されてか、もしくは誤魔化しきれない空腹に負けてか。シーナは差し出されたそれをあっさりと口にした。
そのやり取りを黙って見ていた傭兵たちであったが、盟主の少年だけはシーナがそれを飲み込んだ時に漸く気付いたらしい。
「あ、あ! カミューさんそれって……! いつの間に!」
指差してわたわたとする少年に、カミューは一点の曇りもない微笑で返して、シーナはきょとんと首を傾げる。ところが。
「あ、あれ?」
そんなシーナが腹を押さえて更に首を傾げるに至って、漸く傭兵たちも気付いたらしい。サァーッと青褪めて恐ろしいものでも見る目でカミューを見た。
「な、何これ。すっごく熱くなってきたんだけど、カミューさん?」
熱く? とただ一人分かっていなかったマイクロトフが、その言葉に反応する。だがシーナが何を食べたのかに気付く前に、目の前で起こった驚くべき情景に思考が止まる。
そして唖然とする一同の耳に、カミューの密やかで冷ややかな声が滑り込んだ。
「目には目を、歯には歯を……大昔の某国でそんな法があったのをご存知ですか……?」
報復、と言うにはあまりにも的確な所業に、しかし誰も口を挟めなかったのであった。ただ、一人状況を飲み込めないでいるらしいシーナに同情の眼差しを向けるだけが精一杯だったと言う。
翌日、何やらカミューに耳打ちされたらしいグレンシールが、その無表情に珍しく笑みを乗せてシーナを迎えに来た。
生真面目なマイクロトフがカミューに、彼が留守の間に起きた事の次第を詳細に語ったのはその前夜だ。
そしてシーナの暴言を知ったらしいグレンシールが、そんなカミューの報復に一枚噛んだのは当然の帰結であったとか。
それから、大幅に予定を過ぎて本拠地に戻った一同だったが、その遅延の理由を他の者が知る事は永遠に無かった。そしてそれきり、珍しいアイテムの存在は彼らの記憶から自発的に抹消されたのであった。
勿論、シーナの記憶からも。
おわり
最後、すごく長くなってしまいました。
でもファイル名の都合上九話以上伸ばせず(笑)。
長い間お付き合いくださって有難うございました。
女性化青のお話はこれまでです。
難産だった〜〜! でも最後楽しかったです。
シーナはお気の毒♪
2003/04/24
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