切り絵
手際良く騎士服を着込むカミューの、その傍らには重ねて置かれた一対の白い手袋。
胸元でマントの紐を留め終えたカミューの手が、その手袋を掴もうと伸ばされる。
それを横合いからマイクロトフは手を伸ばして遮った。
カミューはそんな男の行動に、さして驚いた様子も見せずに穏やかな眼差しで取られた利き手を見ている。
そんな視線を浴びながらマイクロトフはその白い手を握ると、己の口許まで引き上げた。
ほんの僅か、祈りのように軽く唇を触れさせると、その手は解放された。
カミューはそして何事も無かったかのように、その手に手袋をはめる。
「さぁ、行こうか」
「ああ」
戯れのような儀式を終えて、彼らは揃って部屋を出た。
眠っていたはずのマイクロトフの手が、気付けばカミューの服の裾を掴んでいた。
カミューは苦笑を漏らすと、本に栞を挟んで傍らに置くと、服が伸びないように身体を寄せた。
すると、男が寝返りをうった。
精悍な横顔が身体の直ぐ傍らにある。
カミューは指を伸ばすと、その耳の後から指を指しこんで黒髪を撫でた。
すると、瞑っていたマイクロトフの目蓋が僅かに上がる。
「起こしたかい?」
「…いいや」
そしてマイクロトフは目を閉じ、カミューは傍らの本に片手を伸ばした。
主不在の部屋に入ると、彼はそこにある椅子に座った。
そしてテーブルの上にある小さな傷に手を伸ばす。
以前に二人でいた時に偶然傷付けてしまった、その痕。
ゆるりとなぞるように指の腹でそれを撫でると、彼はテーブルに身を伏せた。
目を瞑ると部屋の中で感じる、とある気配。
残り香のようなそれを、全身で感じて彼は呟く。
「早く…帰って来い」
目を開けると身を起こして立ち上がり、そして部屋を後にした。
小さなテーブルを挟んで、酒を舐めつつ他愛も無い会話をするマイクロトフとカミュー。不意にその視線が絡む。
どちらからともなく苦笑が漏れて、カミューは声を立てて笑う。
マイクロトフも口許に笑みを浮かべて寡黙に笑う。
そんな空気の中で、絡んでいた視線が微妙な色合いを含む。
まるで触れているような視線。
言葉よりも雄弁な瞳の揺らぎに、どちらも言葉をなくす。
「………」
安穏たる夜も更けて、二人の一日は終わる。
END
パッと映像で浮かぶシーンがあります
騎士服の赤の手にキスする青
寝転ぶ青の耳後を撫でる赤
テーブルに伏せて目を瞑る…
差し向かいで座って笑う青赤
絵が描けないのでこうして文章化
2000/06/22